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大人も受けたい?子どもたちへの法教育” 「ルールを作るワークショップ」で、前向きな組織へ

2022年4月のRe:houmu六甲法律事務所の松田昌明弁護士による「子どもたちへの法教育がコンプライアンスセミナーに活かせられるか?」。弁護士会が取り組んでいる子ども向けの「法教育」について紹介いただきました。

特に面白かったのは、「自分たちでルールを作るワークショップ」です。これは、ルールへの向き合い方を大きく変える強烈な体験であり、「ルールを守って正々堂々と仕事をする」を実現する上でも有効な手法だと感じました。

「法教育」ってどんなもの?

「法教育」とは、法律専門家ではな一般の人に向けた、法や司法制度、これらの基礎になっている価値や考え方についての教育です。成人年齢の引き下げや、裁判員裁判制度の導入によって、近年注目されており法務省も力を入れている分野です。

法教育には、法律や制度の勉強も含まれますが、今回松田さんが紹介してくれたのは、弁護士会が行ってる法律やルールの価値や考え方について体験する中学生向けのワークショップでした。


ルールを作るワークショップ

参加する中学生は、6人1組の班に分かれます。そして、それぞれが弁護士会が用意した「身近なトラブル」の6名の当事者たちの”代理人”(≒弁護士)として話し合い、全員が納得するルールを作ることを目指します。

ワークショップの狙いは、以下の2つを体感してもらうことです。

  • ルールは自由を縛るものではなく、自由を守るものであること

  • 相手の立場に立ってものを考えること

ケースには様々なものがあり、例えば、深夜営業を行うカラオケボックスの周囲で起こる騒音や治安の問題について、カラオケボックスのオーナー、近隣の住民、カラオケ好きの学生、隣接するコンビニの店主、PTA会長、カラオケ好きサラリーマン利害を調整するものなどがあります。

状況は同じですが、班ごとに異なる結論が出たり、思いもよらない点に着目する班が出てきたりして、中学生からも人気が高いワークショップなのだそうです。


”ブラック校則”とコンプライアンス

続いて松田さんから「自分たちでルールを作る」取り組みとして、特定非営利活動法人カタリバの「みんなのルールメイキングプロジェクト」の紹介がありました。

これは、生徒が主体となって先生や保護者との対話を通じて、校則をつくるプロジェクトです。自分たちでルールを作ることで生徒の満足度が上がるだけではなく、先生の中にも前向きなエネルギーが生まれ、生徒との信頼関係が強まるといった効果が報告され、中には入学希望者数が大きく増加した学校もあったそうです。

お話を伺って、Re:houmu参加者たちからは、いわゆる”ブラック校則”とコンプライアンスの関係について多くの意見がありました。例えば、校則については、

校則は学校から問答無用に強制されるもので、内容について疑問を持つことも許されなかった。
校則に疑問を持っても、それを変える手段や手続が準備されてなかった。
生徒会などに立候補して校則を変えようとしている人たちを、意識高い系という冷めた目で見ていた。

というような声が聞かれ、コンプライアンスとの関係では、

学校は、日本社会の縮図。学生のころ、誰もがおかしいと感じるルールに盲目的に従ってきた人たちが、社会に出てまともにルールと付き合えるはずがない。
会社のコンプライアンスルールも、校則と同じような受け止められ方をしているのではないか。

といった意見がありました。校則は多くの人にとって組織のルールとの付き合い方の原体験になっているようです。


他人の気持ちなんてわからない? よくある”パワハラ研修”と現実のギャップ

続いて松田さんにお話しいただいたのは、企業向けのハラスメント研修の実例です。この研修では、参加者があるパワハラの当事者になりきって、それぞれの立場から発言の意図、教育的な効果や、発言が与える組織への影響などについて考えるロールプレイを行います。

「人の気持ちなんて、わからない」。と松田さんは言います。本当の意味でその人の気持ちを理解することは難しいからこそ、当事者になりきって暴言の背景や、発言者や言われた人、その周囲の人たちの気持ちを考えること(共感)が必要なのです。

Re:houmuの参加者、特に内部通報を担当している方々からは、この点について様々な意見がありました。”パワハラ研修”でよく語られように、暴言を吐いたもの=悪であり断罪すべきもの、といえるほど現実は単純ではないようです。

嫌いな上司を陥れるために、わざと良くない態度をとって怒らせるという事例は実際に存在する。通報者=被害者という先入観を持つと失敗することもある。
ミスによって、人がケガをしたり死んでしまう可能性がある危険な現場と、そうでない現場で、𠮟り方が同じであるはずがない。
「パワハラゼロ」=コミュニケーションギャップをゼロにするというのは現実的ではないかもしれない。
価値観を変えるのではなく、伝え方のスキルイシューであるという割り切りも必要。

という意見が聞かれました。


おわりに 対話の土台としての「企業理念・パーパス」の役割

「ルールを作るワークショップ」「ロールプレイ」を企業コンプライアンスに応用する際にキーポイントとなるのは「企業理念」や「パーパス」との接続です。

「ルールを作るワークショップ」でも、お互いの意見をまとめていく土台になるのは、”そもそも、この町が大切にしなければならないのは何か?”という理念やパーパスであることが少なくないといいます。「みんなのルールメイキングプロジェクト」でも、関係者が学校が目指すところを共有し、あるべき姿を探っていくという手法がとられています。

ところが、コンプライアンス研修ではこのようなアプローチがとられることは稀です。これではブラック校則がはびこる学校と同じ。思い切ってここを変えましょう。中高生にできるのに、大人にできないはずがありません。

”うちの会社って、こうだよね”という共通理解(=理念・パーパス)を土台に、皆が相手の立場に立って考えれば、やりたいことを正々堂々とやれる組織になる。私には、法教育にはそんな可能性があるように感じられました。


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