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【図解】企業不祥事の原因「4分類」

こんにちは。ブランド×弁護士の三浦です。「コンセプトドリヴン・コンプライアンス」が発売から1年を迎えました。本を通じてたくさんの人たちとの出会いがあり、中には書籍を使って自社のコンプライアンスをリニューアルを進めている、という嬉しすぎる報告もありました。本の力は偉大ですね。

さて、今日は企業不祥事の原因の基本の4パターンを図解していきます。私がクライアントに説明する際によく使うのは下記のマトリクスです。
縦軸は法律ー非法律軸。原因が法律やルールに直接関係するものなのか、そうでないのかという軸です。横軸は、個人ー組織軸。原因が特定の個人の特性に由来するものか、組織全体の特性に由来するものなのかを示しています。この2軸、4象限で原因を分類していきます。

不祥事の原因の4パターン

不祥事の原因の4分類

①制度不備:「ザルのような管理体制」

第一象限は「組織の法律的問題」。その代表は「制度の不備」です。

組織には不祥事(不正)を防止するために様々なルールが設けられています。例えば、現金や備品の管理についてのルール、オフィスのセキュリティに関するルールなどです。

もし、このようなルールに不備があったらどうでしょうか。金庫が施錠されておらず、誰でも現金を勝手に使うことが出来てしまう、オフィスを訪れた人を記録するルールが無いといった「ザルのような管理体制」は不正の原因になります。

②知識不足:「え?それ、法律違反なんですか?」

第二象限は「個人の法律的な問題」。典型的なものは「知識不足」です。

かつては「法は最低限の道徳なり」などと言われ、道徳的に正しいとされる行動を取っていれば、重大な法令違反になることは少なかった時代もありました。

しかし、法律やルールが細分化・複雑化した現代においては、企業が遵守すべき法律は膨大な数に上ります。困ったことに、中には「え?それ、法律違反なんですか?」というものも少なくありません。

「自分は法務ではないから法律のことは知らなくてもいい」という間違った思い込みをしていると、そういった思わぬ落とし穴に嵌ることがあります。しかも、「そんな基礎的な知識も知らなかったのか」と厳しく批判されるのです。

③常識への囚われ:「うちではこれが”当たり前”」

第三象限は「個人の非法律的な問題」。代表選手は「常識への囚われ」です。

不正、不祥事は法律的な問題だけが原因になって起こるわけではありません。昨今の不祥事の原因を紐解いてみても、法律的な問題だけが原因で起こったとされるものは稀で、その多くはその背後に経営陣の方針やプレッシャー、組織風土など非法律の問題があると指摘されています。

「常識への囚われ」はその一種。「うちの業界では、このやり方が常識だ」というものです。誰もが自身の経験、特に成功体験は誇らしく普遍的であってほしいと思うもの。しかし、時代や環境が変われば常識はいとも簡単に変動するもの。それを見落としたことで、大きな不正に繋がるというものです。個人的には「常識」という言葉を使い出したら要注意なのではないかとすら思います。

④組織風土:「やりたくないが、やらざるを得ない」

第四象限は「組織の非法律的な問題」。ズバリ「組織風土」の問題です。

知識もあり、会社にはきちんとしたルールがある。個人的にもそんな不正に手を染めたいとは思わない。そんな人であっても、組織風土に裏打ちされた無言の圧力によって不正に手を染めてしまうことが知られています。

実は、日本の大型不祥事の多くではこの「組織風土」の問題が原因の一つとして挙げられることが非常に多いです。特に、2023年は同質的で上意下達、現場と経営の乖離など、日本的と言われる組織風土が原因ととされる不正が多く報告されました。最近ではそうした古い体質の企業をJTC(Japanese Traditional Company)と揶揄する声もあるようです。

組織風土の問題は非常に根深く、即効性のある対策は期待できません。その組織風土が育まれた歴史を感じながら、ゆっくりと改善していくほかないのです。

分類を行う意味 原因に合った打ち手を考える

企業不祥事の原因の4分類は、原因を分類したらその原因に合った打ち手(再発防止策)を立てるために使用します。

例えば、管理体制の不備が原因で起こった不祥事の再発防止策は、制度の再整備です。利益のために不正を強いる企業風土が原因で起こった場合の再発防止策は、企業風土の改善でしょう。

こう聞くとあまり至極当然のことなのですが、実は企業不祥事の実務の現場では、常識への囚われや企業風土の問題に対する打ち手として、制度の再整備や知識の拡充が検討されるということがしばしば起こっています。

これでは再発防止策は有効に機能しません。この分類にはこうした原因と打ち手のミスマッチを防ぎ、より的確で効果の高い打ち手を探す助けになります。

また、自分たちがどの象限の原因に対する打ち手が得意で、どの象限が不得意なのかを冷静に見つめるのにも役立ちます。そうして、得意なものにリソースを集中し、不得意なものは外部のリソースを使うことを検討するなど、戦略的にコンプライアンスを進めることが可能になるのです。

現実の原因はクリアカットできない

現実の不祥事はこれらの原因が複合的に作用して起こります。複数の象限にまたがる中間的な原因もあることでしょう。

大切なことは、原因を分類することそのものではなく、原因の性質を見極め、それに合った対策を立てることです。もし、不祥事の再発防止策が上手く立てられないという方は、この分類を参考すると何か光が見えてくるかもしれません。

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