【Web対談】「ブランド法務」 第1回:商標とは何か #01  ~出所表示機能を発揮し得るマーク~

松澤: 記念すべき第1回だね。ブランディングと商標法の専門家である僕ら二人で「ブランド法務」の世界を紹介していこうというのがこの企画だけど、まずは「商標とは何か」というところから入ろうか。
土野: 「ブランド法務」というからには、やっぱりまずは「ブランド」に関するもっとも代表的な法領域である「商標法」のところからだよね。
「商標とは何か」か。簡単なようで、実はめちゃくちゃ大事だったりする話題だよね。いきなりズバッと訊いちゃうけど、「商標ってなんですか?」って言われたら、なんて答える?

商標って何だろう?

松澤: 商標とは「商品やサービスを区別するための目印として用いられるマーク」です、と答えるかな。
土野: 商標って、よく「言葉とか商品名のことでしょ?」みたいに一般的に理解されてしまっているかも、と普段商標の仕事をしていて感じることがある。
一方で、「ロゴマーク」もなんとなく商標っぽい、と直感的に感じる人もいるみたい。要するに、「商標とは何か」が一般にはあまり伝わっていない、ということなんだと思う。

商標とは「目印」

松澤: 自分の商品を他人の商品から区別するための「目印」であることが基本ではあるね。難しい言葉を使うと、「自他商品識別標識」とか言ったりする。
つまり、商品を売る側は、自分のところの商品だと分かってもらえるように、商品に目印を付けているわけだ。一方で、その商品を買う側は、目印があることで商品の「何が」区別できるのかは考えてみる価値があるね。

土野: そういう意味でいえば、ここでいう「区別」は、商品やサービスの「出所」(誰の商品・サービスか)を区別する、という意味だよね。
例えば、「りんご」という商品が目の前に2つ置いてあったとして、一方には『おいしいリンゴ』と書いてあり、もう一方には『甘いリンゴ』と書いてあったとする。
この場合、それぞれ書いてある文字(目印)が異なるので、「商品が違うという意味での区別」はできる。だけど、この2つの「りんご」が、同じ人が売っている商品なのか、違う人が売っている商品なのかの区別、つまり「出所の区別」はおそらくできない。なぜなら、ここで表示されている文字は、単にリンゴの品質(おいしさ、甘さ)を表しているだけなので、同じ人が「おいしいリンゴ」と「甘いリンゴ」を売ることも普通に想定できるから。
要するに、この場合、『おいしいリンゴ』や『甘いリンゴ』というマークは、商標としての役割は果たしていないということになる。

松澤: では一体どんな場合であれば、商標としての役割を果たしているといえるのだろうか?「出所」というキーワードが出てきたけど。
土野: さっきの例で、もし2つのりんごに付いているマークが『マッツファーム』と『ヒジ農園』だったらどう?
おそらくそれを見た人は、それぞれ別の人が作ったりんごだとわかるんじゃないかな。なぜなら、どちらも、誰もが使うとは言えないような独自の名前が付いているから。この場合、これらのマークは商標としての役割を果たしているといえる。

出所表示機能

松澤: 商品を提供している主体のことを「出所」と言っていて、出所の区別を可能にするマークでないと商標としての役割を果たすことはできない。『マッツファーム』や『ヒジ農園』は出所の区別を可能にするマークといえるだろうね。
商品を買う側の目線から見ると、商品を買う側は、これらのマークから商品の「出所」を区別していると考えられる。このような区別を可能にする商標の役割ないし機能のことを「出所表示機能」という。
土野: そうすると、
「商標=自他商品識別標識=出所表示機能のあるマーク」
ということになる。
土野: 「出所表示機能のあるマーク」であれば「商標」になるから、商標が「名前」だとか「言葉」だとか「ロゴマーク」だとか、そういったことは本質的には関係ないんだよね。
2015年に「色彩のみからなる商標」とか「音の商標」などの新しいタイプの商標が登録できるようになったけど、これも「商標=出所表示機能のあるマーク」を理解していれば、腑に落ちるんじゃないかと思う。
たとえ「色」自体だとしても、もしその「色」だけを見て「出所を区別できる」のであれば、その「色」は「商標」になっているのだから、商標登録してもいいってことになる。
松澤: 「文字」や「図形」は以前から商標登録できるマークとして認められていたけど、2015年には「色彩のみ」や「音」の商標登録が認められることになり、これらは「新しい商標」と呼ばれているね。
これらの「新しい商標」も、商品やサービスを区別するための目印として用いられたときに、出所表示機能を発揮しうるマークといえる。だからこそ、2015年の商標法改正で商標登録が認められることになった。
土野: 商標登録が必要かどうか考えるためには、「これって商標なのかな?」の答えがわからないといけない。そういうとき、今日話したような「出所表示機能」があるかどうかを、ぜひ一度考えてみてほしいと思う。

松澤: 今回は「商標とは何か」というテーマで話をしてきた。商標を単にネーミングやロゴマークのことだと捉えるのは、とても断片的な理解といえる。商標は、商品やサービスを区別するための目印として用いられるマークなわけだけど、それによって出所表示機能を発揮しうるかどうかという点がキーポイントになる。その意味で、出所表示機能にこそ商標の本質が表れていると言って過言ではないだろう。
今回は「出所表示機能」という商標の本質を迫ったところで一区切りとしよう。ちなみに、お気づきの人が多いとは思いますが、『マッツファーム』は僕の名前に由来し、『ヒジ農園』はフミさんこと土野さん(皆さん、ツチノではなくヒジノと読みますよー!笑)の名前に由来します。では、次回も、松澤と土野の対談をどうぞよろしくお願いいたします!

<著者プロフィール>

■土野 史隆(Fumitaka Hijino)

「知的財産 × ブランド × 身近さ」で、ブランド目線の商標戦略をサポートする「ブランド弁理士」。特許業務法人Toreru/株式会社Toreruのパートナー弁理士/COO。株式会社アルバックの知的財産部にて企業目線からの知的財産保護に従事した後、秀和特許事務所にて商標・意匠分野のプロフェッショナルとして国内外のブランド保護をサポート。2018年9月より現職。知財の価値を最大化させる「速い × カンタン × 専門性」を兼ね備えた新しい知財サービスを創っている。


■松澤 邦典(Kuninori Matsuzawa)

東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。2015年に弁護士登録(東京弁護士会)。骨董通り法律事務所For the Arts所属。著作権・商標権を中心とした知的財産権を専門とし、映画・音楽・出版などのエンタテインメント業界の紛争事案を多く扱う。著書に『わかって使える商標法』(共著・太田出版)、『Q&A引用・転載の実務と著作権法〔第4版〕』(共著・中央経済社)。



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「ブランド法務」対談

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