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母指CM関節


概要

第一中手骨と大菱形骨が作る母指CM関節に生じる変形性関節症です。中年以降の女性に好発します。患部の疼痛・腫脹・変形・物品把持の困難さ・握力低下をきたします。

解剖と症状

母指の手根中手関節(Carpometacarpal Joint;CM関節)は他指のCM関節とは異なり独立した1個の関節として考えられます。母指CM関節は大菱形骨と第一中手骨骨底とにより形成されている鞍関節です。鞍関節とは名前の通りで鞍状になっていることで母指の屈曲・伸展、外転・内転運動の2方向に動きます。

また、2方向を組み合わせることで回転運動もできるように構成されています。しかし、自由度が高い関節となっていることと、手指の中で一番使用頻度が高いのが母指となるため関節に対する負荷量が高く変形をきたしやすくなっています。

デスクワークなどの手指の使用頻度が多くなる職業では母指CM関節の使用頻度が多くなる場合があります。そのため、CM関節に対する関節負荷量が多くなることで関節軟骨が擦り減り関節脱臼を起こす場合もあります。また、関節脱臼が生じることで母指CM関節周囲に疼痛・腫脹が強く発生する場合がありますが、関節変形・変性が生じても疼痛が生じない場合もあります。掌側へ亜脱臼が生じることで母指の形状変形が起き、代償的にMP関節が過伸展位(白鳥の首;スワンネック変形)となります。

補足ですが、他指(示指から小指)までの手根中手関節は遠位手根列と第ニから第五中手骨近位端との間にあります。第二中手骨は大菱形骨、小菱形骨及び有頭骨の一部と関節し、第三中手骨は有頭骨と第四中手骨は有頭骨の一部と有鉤骨とに関節し、第五中手骨は有鉤骨と関節しています。

第二及び第三中手骨の手根中手関節はほとんど関節を持ちませんが、第四中手骨の手根中手関節は可動性があり、第五中手骨骨底の手根中手関節は更に可動性があり母指と小指が対立動作を行うために重要な役割を担っています。

図1:CM関節


図2:鞍関節

診断方法

  • 母指CM関節部を圧迫すると疼痛が生じます

  • 自分自身(自動運動)で母指を動かしている時に疼痛が生じます

  • Gliding test:第一中手骨を把持し、CM関節に長軸方向の圧迫を加えながら回旋すると疼痛が生じます

  • レントゲン写真を撮ることでCM関節に骨棘、亜脱臼が生じていることが分かります

診断時にはドケルバン病とリウマチと間違えやすいため注意が必要となります

Eaton分類

レントゲン写真を確認し重症度を4つのStageに分類しています。

Stage順に下に記載します

  1. 関節形態正常、関節裂隙の軽度開大

  2. 関節裂隙の軽度狭小化、2mm以下の骨片

  3. 関節の著名な破壊、2mm以上の骨片

  4. Stage3に加えて大菱形骨第二中手骨間、大菱形舟状骨間、大菱形小菱形骨間など大菱形骨周辺関節の変形性関節症を伴います


図3:Eaton分類

治療方法

  1. 保存療法:消炎剤の内服、関節内注射と装具・スプリントなどでの固定

  2. 手術療法:保存療法を施行しても良くならない、もしくは診察初期より疼痛が強い、亜脱臼が強くある場合は手術療法となります

手術療法
関節包固定術
3mm以上の亜脱臼を呈するStage1に適応します。低侵襲で手術時間が短縮でき、関節症が進行した場合に、靭帯再建に用いる移植腱を温存できる利点があります。[背橈側の靭帯と関節包を縫縮します]

靭帯再建
Eaton分類 Stage1が対象となります。関節の形態は保たれていますが、不安定性が強い症例に適応
[Eaton法:大菱形骨は2/3程度切除し、半裁した橈側手根屈筋腱(FCR)で靭帯再建を行う。挿入腱の不足は遊離長掌筋腱(PL)も利用する場合がある。]

関節固定術
Eaton分類 Stage2以上に用いますが、CM関節の遠位のMP関節や近位のSTT関節に関節症や疼痛がないことが前提となります。原則として、橈側外転30°、掌側外転30°から40°で固定します。また、関節自体を固定することで手掌に対して母指が平ら(Flat palm)にすることができなくなる。骨癒合自体も遅延するため6週間以上thumb spica splintを装着する場合がある。[関節固定術は一般的なDTJスクリュー固定や多種の固定方法があります]

中手骨骨切り術
Stage1もしくはStage2の軽症例が適応となる。CM関節の軟骨変性が強くない例で、中手骨の骨切りにより関節面に対する軸圧が掛かる部分をずらす。[関節包は切開せずに第一中手骨を約30°背屈位となるように骨切りを行います。]

人工関節置換術
数種類開発されていますが、緩みや異所性骨化などの合併症が多く報告されました。現在国内で販売されているインプラントは第一中手骨の基部を置換するチタン製タイプと第一中手骨に挿入するシリコン製の人工大菱形骨タイプがあります。靭帯再建術の併用が必須であり、関節形成術との優位性が明らかとなっていません。

関節形成術
Stage2以上が対象です。Stage4では大菱形骨を全摘します。Stage2から3では大菱形骨切除を2/3程度にとどめる場合もあります。靭帯再建し、中手骨を吊り上げ近位方向への落ち込みを抑えつつ大菱形骨切除部に腱球を挿入する場合もあります。関節形成術では、Eaton法とThompson法が代表的です。長期であれば5週間程度のキルシュナー鋼線による母指掌側外転位とCM関節仮固定、Thumb spica splintの装着が必要となります。[Thompson法:大菱形骨を切除し、長母指外転筋腱(APL)により吊り上げます。]

関節形成術の術式に関しては他にも種類が多いため全てを記載しておりませんのでご了承ください。

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