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ねこント 【短編】

「のろけていい?」
「おう」
「うちの人、たとえ熟睡してても無意識に、脚の間のあたしを踏まずに寝返りうてるの」
「すげーな」
「あんたのとこはどう?」
「おれの写真撮るためにハイスピードカメラ買ってきた」
「………それはちょっと引くわ」
「お前んとこだって毎日写真撮ってSNSに出してるじゃんよ」
「あたしを撮るために動体視力が上がったらしいの」
「うちも床に落ちた猫砂を感知する足裏センサーが発達した」
「進化してるわね」
「進化だよな」

「あたしGPS付けられてんのよ」
「そんなに心配ならずっとついてくればいいじゃねーか」
「うちの人、塀は上れるけど下りられないから」
「試してんじゃねーよ」

「ナンパされたことある?」
「にゃーにゃーとか声かけてくる奴いるな」
「発音が下手な人はイヤ。岩合さんレベルじゃないと振り向かないことにしてる」
「そういえば隣のケアホームにいる100歳の人、ネイティブ並みに猫語しゃべれるんだってな」
「元三味線の師匠だって聞いたけど?」
「………」
「………」
「話変えようか」

「うちの人さあ、他人ん家の猫動画すごい観るんだ。あたしが傷つかないとでも思ってるのかって話」
「あいつら平気で浮気するよな。充電ケーブル抜いたれや」
「 こっちがたまにプレゼント持ってくと怯えるの、あれ何なの?一方的に貢ぐ以外の関係を築けないの?自己肯定感が低すぎない?」
「いつも虫だけってのも物足りないだろうと思って他の小動物あげたら部屋の隅に逃げてしばらく口きかなくなった」
「虫しか受け付けないってこと?」
「扱いにくいんだよ」
「人格形成がいびつなんじゃないの?」
「ちょっと病んでるけど、根はいい奴なんだ」
「次はまた虫にしてみたら?大きめの」

「服についたおれの毛をさあ、コロコロで取る時、なぜか嬉しそうにしてて地味に可愛いな」
「あー、それは可愛い」
「パソコンの前に座ると意外と喜ぶ」
「あれは喜んでるよね」
「朝、なめて起こしてやると意外と喜ぶ」
「痛い痛いと言いつつ喜ぶよね」
「仕事の書類かじっても意外と喜ぶ」
「え、意味不…」
「それ同僚に見せてさり気なく自慢してるらしい」
「何の自慢?」
「おれとの生活が幸せすぎる件についてだろ」





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