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おやつの定義【エッセイ】

子供のころ薬屋を経営していた親戚を訪ねると「おやつだよ」と言って出されるのはいつも肝油ドロップでした。

その後さらに「ジュースだよ」と渡される子供用の黄色い栄養ドリンクもおやつだと信じていました。

乳酸菌入りの整腸剤もおやつでした。
ポリポリとラムネ感覚で噛むと粉っぽいけどまあまあ美味しかったです。

もっとねだると「用量を守らないと」などと言われ、それはただの薬なのでは?と勘付いたのですが都合の悪いことは追求しない知恵がそこで身に付きました。

とある友人は幼児の頃、スルメイカに穴をあけて紐を通したものを首にかけてもらい、いつもしゃぶっていたそうです。
何をおやつと呼ぶかは人それぞれです。

高校生のとき同級生の家で「おやつだよ」と言って爆弾(にんにくを皮付きのまま丸ごと揚げたもの)が出されたときはちょっと驚きました。
当たり前のようにドクダミ茶が出てくるところも私にとっては好感度の高いお家でした。

秋田県の親戚を訪ねると、氷砂糖が入った菓子鉢と、いぶりがっこ(たくあんを燻製にした独特の味の漬物)が出されるのが常でした。

氷砂糖といぶりがっこを同列に扱い、まるでナッツか何かのようにボリボリ食べる大人たちには畏怖の念を抱きました。
みなさん歯が丈夫でなによりです。

一番記憶に残っているのは、小学生のときたいして親しくもない知人の家でたまたま食べたおやつです。

台所に行くとお皿の上にこんもりと何やら白い粉が盛られていました。

これから何か作るのだろうと思っていると、その家の子が突然お皿の上に顔を突っ伏したのです。
バラエティ番組の小麦粉のコントが始まったのかと仰天しました。

見れば、スプーンも使わずべろべろと粉をなめているではありませんか。
唖然としている私に向かって鼻の頭に粉をつけた顔で「何してるの?早く食べなよ。おいしいよ」と言うのです。

普段それほどお付き合いがなく、その子のこともよく知らなかったので冗談なのか本気なのかもわかりません。
その家のおばさんもにこにこしていて「ええ、白い粉ですが、何か?」と言いたげに私を見ています。

茶碗一杯分ほどの白い粉。
おやつ?
この家ではこれがおやつ?

カルチャーショックを通り越して、もはやシュールな夢を見ているような気分でした。

その子があまりにも美味しそうに皿をなめるので、なめようとしない自分のほうが間違っている気がしてきました。

勇気を出してそれをなめたときのことは忘れられません。
衝撃的な、えも言われぬ美味しさでした。

「なに?この美味しい粉!」

それはクリープ(粉末のコーヒークリーム)でした。
得体のしれないものが美味しかったときの喜びは何にも代えがたいですね。

おやつの可能性は無限大です。

























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