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国連憲章は自衛権も武力行使も容認している。そして敵国条項。日本語と英語の各テキストの比較をふくめて。

国連憲章日本語テキスト
国連憲章英語テキスト
日本語テキストはUNICに、英語テキストはUN.Orgにそれぞれよった。
言うまでもなく英語テキストは正文であり、日本語テキストは正文ではない。
凡例:「」、日:は日本語テキストを引く。””、英:は英語テキストを引く。太字は筆者による。
UNICに関する参考情報:日本語による国際連合ウェブサイト開設に関する質問主意書

序。

日本語テキストの「序」にあたる部分は上リンク先を含むun.orgサイト内に対等の文書は見当たらない。
たとえば、”The Charter of the United Nations is the founding document of the United Nations.”に対等の日本語テキストはない。あえて言えば「国際連合憲章は」が対応する。

前文。

日:共同の利益の場合を除く外は武力を用いないことを原則の受諾と方法の設定によって確保し、
英:to ensure, by the acceptance of principles and the institution of methods, that armed force shall not be used, save in the common interest,
間違いとは断言できないが、分かりにくい。

日:「われら連合国の人民は、」ではじまり、「ここに国際連合という国際機構を設ける。」で終わる。
英:”WE THE PEOPLES OF THE UNITED NATIONS”ではじまり、”establish an international organization to be known as the United Nations.”で終わる。
日本語では異なる語が、英文では同じ綴りの語である。つまり、連合国、国際連合に対し、UNITED NATIONS、United Nationsである。なお「国連憲章」に対しては”United Nations Charter”である。
上記英語の末文を忠実に、かつ文頭の「連合国」をそのまま用いて訳せば、その日本語は誤解なく読むことができるはずである。

第7章の優越。

第2条4項での加盟国の「武力」不行使規定に対して、第42条以下第50条までは安保理の特権的地位が規定されている。つまり「安全保障理事会は」(中略)「国際の平和及び安全の維持又は回復に必要な空軍、海軍又は陸軍の行動をとることができる。」の文を含む第42条以下である。
英:the Security Council (中略) it may take such action by air, sea, or land forces as may be necessary to maintain or restore international peace and security.
第2条第7項では内政不干渉の原則を言いながら、「第7章に基く強制措置の適用を妨げるものではない」とも言い、第39条から第51条が当原則に対し対等か優越であると解釈できる。ただしこれに対し、ある方から優越はないとのお話をいただいた。
これについて。
RtoP(またはR2P)が適用される以前であれば、慣習的解釈に基づくものとして私に対しても説得力はあったと思う。しかし2011年のリビア空爆のせいで、私には受け入れにくい話であった。つまり慣習の変更によって旧状態はすでに上書きされたと考える。
第51条は加盟国の「個別的又は集団的自衛の固有の権利」(英:”the inherent right of individual or collective self-defence”)を国連憲章のいかなる規定に対しても優越するものとして認めている。
つまり以下の文である。
日:この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。
英:Nothing in the present Charter shall impair the inherent right of individual or collective self-defence if an armed attack occurs against a Member of the United Nations, until the Security Council has taken measures necessary to maintain international peace and security.

第43条第3項。

「批准されなければならない」?
日:前記の協定は、安全保障理事会の発議によって、なるべくすみやかに交渉する。この協定は、安全保障理事会と加盟国との間又は安全保障理事会と加盟国群との間に締結され、且つ、署名国によって各自の憲法上の手続に従って批准されなければならない
英:The agreement or agreements shall be negotiated as soon as possible on the initiative of the Security Council. They (中略) shall be subject to ratification by the signatory states in accordance with their respective constitutional processes.
上記英文の (中略) 以下を忠実に訳すと、署名国によって、それぞれの憲法上の手続きに従って批准されることが条件でなければならない。であり、「署名国によって各自の憲法上の手続に従って批准されなければならない。」とは隔たりがある。

敵国条項または旧敵国条項。

第53条第1項。

テキストは後で全文を載せるが、一旦は試みに逐次的に訳す。
英:The Security Council shall, where appropriate, utilize such regional arrangements or agencies for enforcement action under its authority.
訳:安全保障理事会は、適当な場合には、その権限に基づく強制行動のために前記の当該地域的取極又は機関を利用する。

英:But no enforcement action shall be taken under regional arrangements or by regional agencies without the authorization of the Security Council, with the exception of measures against any enemy state, as defined in paragraph 2 of this Article, provided for pursuant to Article 107 or in regional arrangements directed against renewal of aggressive policy on the part of any such state,
訳:ただし、本条第2項に定義する敵国に対する措置であって、第107条に定める又は当該国の側における侵略的政策の更新に向けられた地域的取極が規定するものを例外とする強制行動は、安全保障理事会の承認がなければ、地域的取極の下又は地域機関によってとられてはならない、

英:until such time as the Organization may, on request of the Governments concerned, be charged with the responsibility for preventing further aggression by such a state.
訳:関係政府の要請により、機構が当該国のさらなる侵略を防止する責任を負わされるまで。

英:The Security Council shall, where appropriate, utilize such regional arrangements or agencies for enforcement action under its authority. But no enforcement action shall be taken under regional arrangements or by regional agencies without the authorization of the Security Council, with the exception of measures against any enemy state, as defined in paragraph 2 of this Article, provided for pursuant to Article 107 or in regional arrangements directed against renewal of aggressive policy on the part of any such state, until such time as the Organization may, on request of the Governments concerned, be charged with the responsibility for preventing further aggression by such a state.
全訳:安全保障理事会は、適当な場合には、その権限に基づく強制行動のために前記の当該地域的取極又は機関を利用する。ただし、本条第2項に定義する敵国に対する措置であって、第107条に定める又は当該国の側における侵略的政策の更新に向けられた地域的取極が規定するものを例外とする強制行動は、関係政府の要請により、機構が当該国のさらなる侵略を防止する責任を負わされるまで、安全保障理事会の承認がなければ、地域的取極の下又は地域機関によってとられてはならない。
日:安全保障理事会は、その権威の下における強制行動のために、適当な場合には、前記の地域的取極又は地域的機関を利用する。但し、いかなる強制行動も、安全保障理事会の許可がなければ、地域的取極に基いて又は地域的機関によってとられてはならない。もっとも、本条2に定める敵国のいずれかに対する措置で、第107条に従って規定されるもの又はこの敵国における侵略政策の再現に備える地域的取極において規定されるものは、関係政府の要請に基いてこの機構がこの敵国による新たな侵略を防止する責任を負うときまで例外とする。

第2項。

英:The term enemy state as used in paragraph 1 of this Article applies to any state which during the Second World War has been an enemy of any signatory of the present Charter.
日:本条1で用いる敵国という語は、第二次世界戦争中にこの憲章のいずれかの署名国の敵国であった国に適用される。
ちなみに、1945年6月での署名国数は51。第二次世界大戦ではなく、なぜか「世界戦争」との語があてられている。

第77条。

敵国条項に数えられるが、言及だけである。
該当するのは第77条第1項b.。
英:territories which may be detached from enemy states as a result of the Second World War; and
日:第二次世界大戦の結果として敵国から分離される地域
ここでは「第二次世界大戦」である。

第107条。

英:Nothing in the present Charter shall invalidate or preclude action, in relation to any state which during the Second World War has been an enemy of any signatory to the present Charter, taken or authorized as a result of that war by the Governments having responsibility for such action.
日:この憲章のいかなる規定も、第二次世界大戦中にこの憲章の署名国の敵であった国に関する行動でその行動について責任を有する政府がこの戦争の結果としてとり又は許可したものを無効にし、又は排除するものではない。

第53条第1項に謳われる「第107条」である。
しばしば言われることだが、用語に対する具体的な範囲が示されていない。つまり、太字部分によって規定される国名、「責任を有する政府」が指すものについて、いずれも文字のうえでは具体的には示されていない、ということである。
そしてこの第107条は、第106条とともに「第17章 安全保障の過渡的規定」に含まれている。英文も同じ構成で、”United Nations Charter, Chapter XVII:
Transitional Security Arrangements” であり、条文ともども訳語は正対している。

解釈にもよるが、言葉どおりとれば、この憲章の署名国の旧敵国に対する各署名国の行動や決定は、この憲章によって覆されないし上書きもされない、となる。

いわゆる死文化について。

この各条項がすでに死文化している、とはよく聞こえる論旨である。
たしかに国際法の例に倣い本条項をみれば、これらが死んでいることには同意する。
しかし重要なのはその先である。たしかに現在は死んでいるが、いつ息を吹き返すともしれないものであると強調しておく。
国際法上の文は、いつでも不意に息を吹き返すものであることははっきりと認識しておかなければならない。
このことについて、日本はかつて痛い目をみたではないか。
第二次世界大戦はドイツのポーランド侵攻により開戦、その後のフランス侵攻。
これらはそれぞれ1939年、同40年であり、日米開戦が同41年。

1907年のハーグの開戦に関する条約は、日独米仏ポーランドもすべて批准していたが、ルーズベルトの指導下、日本の開戦手続きに対しては、強烈な非難が沸き起こった。
この条約に関し、一書より引く。

しかし、あの条約は、あの時点で本当に客観的に国際法秩序となっていたのだろうか。
紙に書いてあることが法であるとは限らない。その社会に広く法的確信とともに定着しない限り、法ではない。形式も手続きも瑕疵なく成立しても、ついには法とはなれなかった「法」はいくらもある。
公平に見て、当時の国際法学会にはかなり厳しい評価が存在した。当のアメリカの国際法学者の中にも、「開戦ニ関スル条約」は発効はしたが直ちに陳腐なものになってしまった、という意見が少なくなかったはずである。

小室直樹著ビジネス社刊「国民のための戦争と平和」より_p.123(傍訓は略した)

つまり当時の、当のアメリカにおいてさえ発効後すぐに陳腐になったと少なからず考えられていたはずの同条約が、開戦後のアメリカ国内において息を吹き返したのだ。
死文化とは、まさに事情変更の原則により当該法文が死んだとみる向きであろうが、その死文が息を吹き返した事例については、誰しもが一考すべきである。

United Nationsそのものに対する私見。

United Nationsは、第二次世界大戦の結果を、その有利な者たちが確定維持しようとする試みであると私は解釈する。
これは、この機構が大戦終結前から準備され、大戦末期に多くの国々が枢軸国に対し参戦し、かつ終結直前の時期にこの憲章に署名したことからも窺える。
そして安保理と常任理事国の絶対的な優位がある。1995年の敵国条項改正削除の採択も未だ果たされていない。その敵国に日本は該当する。
その日本の各地に、常任理事国のひとつであるアメリカの軍、はっきりいえば占領軍(Occupying Force)が常駐している。治外法権を有し、首都圏上空を含む複数の空域を制圧し、沖縄本島上空を覆うアライバル・セクターがあり、令和のいまも米国第7艦隊の旗艦が横須賀港をいわゆる母港としている
ところで常任理事国といっても、ロシア連邦と中華人民共和国はかつての署名国とは別の政府だと言うこともできる。
しかしそのロシア連邦は、実効支配する「北方領土」から一切の後退も割譲もしないだろうし、中華人民共和国も現在の国境線からの後退はいっさい受け入れないだろう。
その常任理事国が第二次大戦後のほとんどすべての戦争当事国であることは事実だ。それらが国際紛争を解決する手段としての「戦争」であるかぎり、「武力介入」、「強制行動」、「空爆」、「戦争」など、言い方を変えても意味はない。それらが合法であるかないかなど、誰に何の意味があるのだろうか。そこに本質があるか!
United Nationsが国際紛争の解決に有効に機能することはたしかにあるだろう。しかし現実として安保理と常任理事国が存在し、それらが国と国で構成されているかぎり、永続的平和を第一の目的としてその機関が維持運営されうるとは、私は考えない。
United Nationsに注力することは、果たして国際社会において、名誉ある地位を占めることに繋がるだろうか。

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