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ザ・ロング アンド ワインディングまんが道

「そうか、だから太郎さんは今だにこんな感じなんですね!」

この時、僕には、確かに彼女の頭の右斜め上あたりに大きな電球がピカッと光ったように見えた。

それくらい彼女は自分のその発言が腑に落ちている様子だった。

しかし、まあ、みなさん、いきなりなんのこっちゃ、と思っているだろうから、

ここで時間を少し巻き戻そう。

その日、僕はうちの職場で活用している、あるツールを提供している会社の若い男の子、女の子と小一時間ばかし打ち合わせをした後、新橋のいい感じの焼き鳥屋で、一杯やっていた。

とにかくなぜか最近、焼き鳥がマイブームなのである。

早速、赤ラベルの中瓶で乾杯する。

この瞬間、相手の二人は、明らかに仕事モードからプライベートモードに切り替わって、そのリラックスしている様子が見ていて、とても心地よかった。

そして、この状態なら、きっとなんでもフランクに話してくれそうだと思って、今、ハマっていることとか、最近、あったおもしろエピソードとか色々と矢継ぎ早に質問してみた。

そしたら、そこには、

今という時代を生き生きと楽しんでいる等身大の若者たちがいた。

それがとても嬉しくて、とても頼もしくて、僕もついつい気分が良くなって、自然といつもよりお酒のペースも上がる。

一方で、彼らと違って、個性的な趣味もマイブームもない僕は、なんか僕ばかり面白い話をしてもらって申し訳ないとも思っていた。

正直、仕事以上に面白いことなんか僕にはないんだよなあ。

それは何も今に始まったわけじゃなくて、これまでずっとそうだったし、きっとこれからもずっとそうなんだろう。

そんな根っからのワーカホリックな自分に内心、呆れつつ、そんなこんなで縁もたけなわな感じになった頃、男の子が平成仮面ライダーが好きだったという話題をしたとたん、突然、自分のおっさんカラータイマーがオンになった僕は、彼らに向かって、

かつて、あの仮面ライダーの石ノ森章太郎とおそ松くんの赤塚不二夫が安アパートの一室に一緒に暮らしていて、そこで一緒に漫画を描いていたということ

そして、その同じアパートには、あの藤子不二雄の二人も住んでいた、という

いわゆる伝説の「まんが道」エピソードを力説していた。

いかん、いかん、これは、おっさんがついやりがちな、若者が関心を持てないどうでもいい昔話だな

と思いつつも、もはやヒートアップが止まらない僕は、結局、こんな感想を熱弁していた。

「みんな知ってのとおり、彼らはその後、大成功を収めて、その安アパートを出て、ひとりひとり独立していくわけだけど、そんな風に成功する前の、お金も名誉なくて、でも、もがき苦しみながらも純粋にマンガに打ち込んでいるときの彼らの姿がとにかくキラキラと輝いていて魅力的なんだよね」

そして、冒頭の彼女の発言は、実はこの僕の発言を受けたものである。

つまり、これって面と向かって今の僕が「成功してない」と言われているようなものだから、内心、苦笑いしてしまったけど、彼女の一点の邪念も曇りもない表情を見たら、それが彼女なりの最大級の褒め言葉なのはよく分かった。

そして、確かに、これまで出世ともお金とも無縁な、つまり、分かりやすい成功を一切納めていない僕だからこそ、毎日、もがき苦しみながらも、こんな風に全力で仕事を楽しめているのかもしれない。

そんなふうに思ったら、とたんにそんな自分がめっちゃくちゃラッキーマンだと思えてきたから、不思議だ。

うん、僕は、やはり、そんな僕の人生、つまりは

ザロングアンドワインディングまんが道

もしくは

ネバーエンディングマンガストーリー

を全力で駆け抜くことにしよう。






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