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QRコードってなに?

日本における大事な仕事、老齢の母を訪問して来た。

コロナ前に父が亡くなり、母はコロナ禍を一人でよく頑張った。既にホームに入っていたからコロナ中はスタッフさんや入居仲間にとても良くして頂き、海外在住で動きの取れなかった私も兄も本当に助かった。昭和一桁の亭主関白だった父は入居後さっさと逝ってしまったけど、母と一緒に早めにホームに入ることを決めてくれた事は「父ちゃん、でかした!」の思いだ。

コロナ後、私が日本への帰国を決めた理由の一つが、高齢になり時差がよく分からなくなった母が、とんでもない米国時間に電話して来たりするようになったからだった。緊急かと思って慌てて出たら「いやあ、なんちゃあないんやけどね〜。」と言われる事が何度も続く。さすがに腹が立つ一方で、やはり近くに居てやらんといかんのかなぁ、と帰国を決意した。子ども達から老齢の母へ、私の中でシフトが大きく切り替わった瞬間だった。

母を訪問すると必ずお金の話になる。終活=お金と物品の整理だ。

父は突然の他界だったので、それはそれで大変だった。自分の葬式代にと貯めていた預金が本人が居ないからとまとまった金額が引き出せ無かった。でも、連れ合いの母がいたから何とかなった。

一人になった母にその日が来たら「このノートに全部書いてあるから。」はただのメモ書きで何の法的効力も持たない。「あんた達で仲良く半分こにするでしょ。」は母親の幻想。家庭内の終活・相続の揉め事は法律関係・医療関係の専門家なら嫌になる程ご存知なハズだ。生前どんなに仲の良い家族であっても母の死後、世代を越えて全てを綺麗に整理するのは至難の業だ。法的効力のある遺言書を予め作っておくしかない。

「司法書士さんに面談の予約の電話した?」
「いやあ、もうすぐホームの無料相談で先生来はるやろうから。。。」
この会話が母訪問のたびに何度も何度も繰り返される。

おっと、本題、本題、QRコード。

母はスマホを持っていない。
小さくて見えない、ボタンがない、使い方が分からない、私には必要ない、と頑なに拒否る。通信会社から何度も機種変の電話が来たそうだが、「私はこれでいい(本当は、これがいい)。」としか言わないのである日、とうとう通信会社から(勝手に)ガラケーの新機種が(タダで)送られてきたそうだ。ホント、通信会社さん、お手数をお掛けして申し訳ありません。

それでも、海外在住の娘家族や孫達と顔を見てTV電話がしたい、と一念発起して(ホームの職員さんに手伝ってもらい)安いタブレットを購入。LINE通話が出来るようになった。

ところが子どもが新しいゲーム機を手に入れたのとは訳が違った。新しいデバイスが使えて楽しい感覚は子どもと全く同じ。でも、使い方を何度も忘れ、そして使えない自分を認めない。習ったはずなのに、忘れてしまっている自分が嫌なのだ。「これ、前に教えてもらったけどやり方忘れちゃったから、もう一度教えて。」と人に頼る事がどうやら恥ずかしい事らしい。

すると、適当なところをいろいろ触ってしまい結果、画面上訳の分からない表示になってしまっている。結局、最後はイエ電から(とんでもない時間に)電話が来る。「なんか、ラインが上手く繋がらんのよ」。こういう時は電源をバッツリ切ってもらって再起動するのが一番手っ取り早い。

そんな母が「今度、教会で能登復興支援のピアノコンサートがあるから一緒に行かない?」とチラシを見せて誘って来た。そして、ふと、下の方にあるQRコードを見て「最近、こういうマークよく見かけるけど、何なの?どうやって使うの?」と言ってきた。おっ!やっと情報とやらに興味を持ったか?

タブレットのカメラアプリを起動させ、QRコードを画面の四角い枠の中でスキャンする。青く表示されるURLをタップするとリンクが飛び教会のホームページへ繋がった。お手本を見せた後、「ほ〜、うん、分かった!」と言うので「じゃあ、練習してみよう!自分でやってみて。」とタブレットをボンと返した。

この3ステップが母にはとてつもなく大変な作業だった。特にQRコードのスキャンが。

まず、手が震える。タブレットを固定して持つことが出来ない。ピントが合わない、と思うとさらに焦って前後に動かしてしまうからいつまでもピンボケ。そして、QRコードがチラシのどこの位置にあるのか認識出来ない。カメラがどこを映しているのかが分からないから上を下への大騒ぎ。タブレットのカメラの位置も分からないから手やカバーでカメラを隠してしまい真っ黒い画面になったと焦る。

やっとスキャンされて画面の一番上にURLが表示されているのに、画面に表示されている他のアプリや表示に目が行ってしまい青いURLが認識されない。QRコードは道順。URLは鍵と説明。鍵がないとコンサートやってる教会に入れないから、と説明すると納得した。何をやっているか具体的な行動イメージがつくと理解できるらしい。

URLを開いた先で、ふと思い出したのか「いや、ほら、みんな終活が大変だって悩んでいるでしょ?別の部屋の方にこういうページがあるよって教えてもらったのよ〜。こういうのっていっぱい出て来るやないの。」と自慢げに「遺言書の作り方」をググったページ見せてきた。

ふむふむ、これなら司法書士さんに頼む必要は無い、と言うことを暗に仄めかしているのか。。。危な〜い!!!!超危険!

真っ向から否定するとヘソを曲げるので、まずはググってみた行為・努力を認め褒める。「ほ〜、凄いなあ、こんなにいっぱい出て来るんやね〜。」
「うん、それでね、、、。」と嬉しそうに一番上をタップしそうになる。

ちょっと待った!!!う〜〜〜ん、アルゴリズムなんて言っても分からないだろうし、、、、。今日はもうQRコードで頭パンクしているだろうし。

とにかく、こういう時の上の方にある人達(URLリンク)は皆安全・安心とは限らない事、詐欺グループが見てくれ良く網を張っている可能性もあり恐〜い事、を説明しクレジットカード情報や銀行アカウントの事がチラついて来たら即その場で電源を切る事を説明した。

「そやね、気を付けんとね。」と言ってたけど、ホンマに大丈夫かいな?

一緒に電車に乗ろうと改札を通った時、母は「私はこれを持っているから大丈夫。もう、回数券いらんのよ。(ニッコリ)」と交通系カードでピッと改札を通った。続いて私がスマホでピッと入ると「あんた、今、どうやったん?ケータイで何したん???」と手品でも見たような顔。

あ〜〜〜〜、もう、面倒くさ〜い!!!「うん、ケータイに切符が入ってんねん。」と明るくサラリとかわしておいた。




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