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もし嘘だったらイケメン過ぎる話

僕が23〜24歳くらいの時に担当していた取引先で、かなりサイコパスな営業さんがいました(ここでは木村さんとします)。

木村さんの凄いところは、やりとりしていた当時は全くサイコパスだと感じなかったこと。木村さんから離れて数年経って、ようやく「あの人サイコパスだったのか」と気づいた。詳細は省きますが、無茶苦茶な要求を超マトモに真顔で言ってくる。何ならその要求で合意しないこっちの態度があり得ないような雰囲気を、ごく自然に醸し出してくる。。

木村さんは社内(東証一部上場企業)ではかなりの有望株で、最年少で課長になるほどやり手の営業。そんな人が当時新卒2〜3年目だった僕をやり込めるなんて朝飯前で、何年も不利な条件での契約を切れずにいたのです。アメとムチの使い分けも絶妙に上手くて、こっちが取引停止を持ちかける決意で訪問しても、帰る頃には何故か期待を持って契約更新していた。

後から裏事情も色々と知り、当時の状況でウチとの契約を切ればかなりの痛手になることは確実。しかしウチへの契約条件をアップすれば、そのPJは赤字になってしまう。そんな綱渡りな状況を何年も凌ぎ続けるには、まだまだ未熟だった若い営業マンをやり込めるしか無かったと、すっかり感心してしまったのです。

木村さんの振舞いには、修羅場から生還する交渉力・精神力・タフネスさなど、生々しいスキルを間近で見せてもらった。もう二度と、一緒に仕事したいとは思わないけど、凄い人なのは間違い無かった。

そんな、人としてはどうかと思う木村さんだけど、僕についた嘘(かもしれない)のお話。

***

1月下旬。当時勤めていた会社の役員を連れて木村さんを訪問。役員も一緒になって契約条件の見直しをお願いしてくれる筈だったが、2人揃っていつも通りにやり込められてしまう。状況を打開出来ない自分にイラつきながらも、木村さんがどのくらい手強いか役員に理解してもらったのは収穫だ、などと弱腰な解釈をしていました。

会社に戻って仕事を続けるも、どうにも体調が悪い。なぜかと言うと2徹明け。。流石に今日は早めに休もうと思い、残業もそこそこに帰宅した。熱もあるっぽいし仕事も休めないので、1日で回復させようと早めに就寝。

翌朝になっても熱が下がらないどころか悪化している気がしてきた。会社に電話して、念の為インフルエンザの検査を受けることに。なぜ念の為かと言うと、僕はこれまでインフルエンザになった事がない。その年は忙し過ぎて予防接種を受けていなかったけど、自分はインフルエンザを経験する事なく人生を終えるんだという、謎の自信がありました。検査結果はすぐに出ると聞いていたので、バッチリとスーツを決めて病院へ。もちろん、インフルエンザじゃないと確認して直ぐに出勤する為です。一度帰宅して着替えるなんて、出来る営業マンがとる行動ではない。しかも体感では微熱くらいなのだから。。

先生
「あー、間違いなくインフルエンザですねー。A型ですねー」

あっけなかった。人はこんなにも簡単にインフルエンザにかかるのか。そしてA型ってなに?5日間外出禁止とか、薬はいつ飲むとかの説明を聞きながらも、上の空。病院を出て、会社に電話したら、出てくれた上司が笑ってくれた。1週間も休むことに罪悪感があったので、少し気も楽になった。イトーヨーカドーで1週間分の食料を調達し、帰宅。

人生で初めてのインフルエンザなのに、めちゃくちゃ元気だった。家でフツーに仕事。こういう時、電話とPCさえあれば仕事できる営業職は強い。5日後に検査して、完治を確認。あっけなく感染し、あっけなく治ってしまった。会社に復帰してからは人生初のインフル体験を周りに話しつつ、夜はちゃんと帰ろうとも思うようになった。

しかし復帰して数日経ったある日、血の気が引くような報告を受ける。

木村さんのPJを担当してくれている先輩エンジニアから、木村さんがインフルエンザで休んでいると教えられた。しかも、僕が木村さんを訪問した数日後に体調が悪くなったらしい。

し・か・も。

その先輩は木村さんに、僕がインフルになったと談笑しながら話してしまったとの事。その時は本当に余計な事をしてくれたなと思いましたよ。いい人なんだけど、その辺には気が回らない人だった。

これはマジで怒られると思いました。体調管理は個々人の責任だし、僕が最も怪しいけど、僕が移した証拠はない。それでも、インフルエンザが流行っている時期に、体調不良の状態で取引先に会う決断をしたのは僕。相手の感情を考えれば、インフルエンザと判明する前の出来事だからセーフ、などとは全く思えなかった。ビジネスはそこまで甘くない。

「東証一部上場企業で最年少課長にまでなったエリートサラリーマンの俺が、こんな若造にインフル移されたのかよ。おかげで1週間も無駄になった。体調悪いなら延期しろよ。そもそも仕事が遅いから残業が増えて体力落ちて体調が悪くなるんだろうが。これだから使えないクズを相手にするのは嫌いなんだよ。そもs(以下略)」

と思われているに違いない。。。。

そして2ヶ月後、打合せで再び木村さんを訪問。

***

打合せはPJ状況の確認など、いつもと同じように進む。でも僕はインフルエンザの件をどう謝罪しようか、そればかり考えていた。

〜心の葛藤〜
「今日を逃せば謝るタイミングはもうない。後からメールも変だ。謝罪こそ逃げずに対面でやるべきだよな。でも2ヶ月も経ってるし、今さら蒸し返すのも藪蛇?どうしようかな。木村さんからは全く触れてこないし、もしかして忘れてる?いやいや、絶対覚えてるよ。だとしたら試されてる。こっちがどうするのか。木村さんが怖いのは確かだけど、相手が木村さんじゃなかったらどうする?やっぱりちゃんと謝ってる筈だ。こっちに落ち度があったのは確かだし、相手によって態度を変えるのはやっぱりダメだ」
〜心の葛藤おわり〜

という訳で、やっぱり謝罪すると決意。怖いけど。仕事の話がひと段落したので、ビビりながらも切り出す。。

「木村さん。申し訳ありません!恐らく私、木村さんにインフルエンザを移してしまいました。私は木村さんとお打合せさせて頂いた翌日、病院でインフルエンザと診断されました。正直あの日は熱っぽく、お打合せを延期するべきでした。しかしお時間を再度調整して頂くのは申し訳なく、何食わぬ顔で伺ってしまいました。私の身勝手な判断で木村さんまで巻き込んでしまい、本当に申し訳ありませんでした」

何を言われても受止める覚悟で謝罪した。決して仕事が出来る方では無いけれど、自分の言動には社会人1日目から責任を取ってきたつもりだし、逃げたことは一度もない。逃げも隠れもせずに最後まで対応することは、僕にとって絶対に譲れない姿勢だった。

しかし木村さんは僕の予想に反して、少し笑いながらこう切り返しました。

「あー、、そうそう。僕もインフルになっちゃったんだよ。キミは身体強そうだから、インフルになったって聞いて意外だったよ。毎年なっちゃうの?え、初めて?あはは、それは災難だったね。疲れが溜まってたんだよ。ところでA型・B型どっちだったの?A型か!じゃあキミが僕に移した訳じゃないから気にしなくて大丈夫だよ。僕はB型だったんだ。珍しいからちょっと驚いたけどね」

と、全く責められる事なく終わってしまった。ホッとしたかったこともあり、最初はその話を信じたけど、帰り道で会話を反芻するうちに、僕を気遣っての発言だったかもしれないと気づく。

まず、過ぎたことを悔やんでも仕方がないし、悪意がなかった僕を責めても全くメリットがない。木村さんは感情的に怒ることは殆どなく、仕事でも文句がある時は必ず論理的に詰めてくる。

そして、その年はA型の感染が大半で、B型はかなり稀だった(インフルエンザに型があること自体、初めて知りましたが…)。それでも一応、僕がA型と確認してから、自分はB型だと言ってきた。

本当にB型だったなら普通のやり取りなんだけど、もしA型だったのにB型と嘘をついたのだったら、完璧過ぎる対応だ。

1.相手を気遣う。
2.事実を確認する。
3.事実を根拠に(優しい嘘をつき)、相手を庇う。

もう一度、やりとりを確認してほしい。


「木村さん。申し訳ありません!恐らく私、木村さんにインフルエンザを移してしまいました。私は木村さんとお打合せさせて頂いた翌日、病院でインフルエンザと診断されました。正直あの日は熱っぽく、お打合せを延期するべきでした。しかしお時間を再度調整して頂くのは申し訳なく、何食わぬ顔で伺ってしまいました。私の身勝手な判断で木村さんまで巻き込んでしまい、本当に申し訳ありませんでした」

1秒後。

木村さん
「あー、、そうそう。僕もインフルになっちゃったんだよ。キミは身体強そうだから、インフルになったって聞いて意外だったよ。毎年なっちゃうの?え、初めて?あはは、それは災難だったね。疲れが溜まってたんだよ。ところでA型・B型どっちだったの?A型か!じゃあキミが僕に移した訳じゃないから気にしなくて大丈夫だよ。僕はB型だったんだ。珍しいからちょっと驚いたけどね」

・・・

気味が悪いほどに完璧な対応だ。A型の人から感染したら必ずA型なのか?とか細かい疑問は後から出てきたけど。。その時はとにかく、僕のせいで木村さんがインフルエンザになった訳ではないと、完全に安心してしまった。

***

もし嘘だったらイケメン過ぎる。その瞬間に会話しながら思いついても、予めこの話になった時の切り返しとして考えておいても、イケメン過ぎる。

けど、もし僕にアメとムチを使い分けている1シーンなのだとしたら、やっぱりサイコパス過ぎる。。。。

真実は木村さんしか知らないけど、個人的には「もし嘘だったらイケメン過ぎる話」であってほしい。

木村さん、今日も元気に出世街道を爆走してるかな。


まあ、そんなかんじよ。

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