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日本語に残る古代中国語の影響2

写真:西嶽華山廟碑 西暦165年(後漢時代)の隷書(拓本)より

日本語の漢字の促音の不思議、高校で習った漢詩にヒントが!?

皆さんは、高校で習った漢文で頭を悩ませませんでしたか?
有名な唐代の詩人には、杜甫や李白、王維、孟浩然と聞けば思い出すかもしれません。実はこれらの漢詩と日本語の促音に関係があるといえば驚くかもしれません。

私は二十代に台北の国立台湾師範大学国語教学センターで中国語を習ったのですが、標準語(普通話)の読み書き発音ができるようになり、一般のカリキュラムが終わったので、先生から「これから更に何を学習したいか?」と聞かれたので、幾つかの学習候補の中から「唐詩三百首」を選んだのが、古代中国語の日本語への影響に気付いた第一歩だったのです。

漢詩を元に古代の漢字の読み方を調べてみましょう

以下は李白の有名な唐詩(7言絶句)です。古代中国語の漢字の読み方を説明するために必要なので、少しだけ我慢をしてください。
高校で漢文を習った方は、なんとなく覚えていると思います。漢字の上に記入したのは平仄(ひょうそく)です。唐詩は漢字の持つ音、すなわち平仄の順が決まっており、唐詩のルールとして、平仄に合った漢字を使わなければなりません。韻も踏む必要がありますが、ここでは割愛します。

早發白帝城   唐 李白
平平仄仄仄平平
朝辭白帝彩雲間   朝(あした)に白帝を辞す 彩雲の間
平仄平平仄仄平
千里江陵一日還   千里の江陵に 一日で還(かえ)る
仄仄平平平仄仄
兩岸猿声啼不住  両岸の猿声 なきて住(や)まず
平平仄仄仄平平
輕舟已過萬重山  軽舟 已(すで)に過ぐ 万重(ばんちょう)の山
訳)朝やけの彩雲の中,白帝城を出発した。千里かなたの江陵へ一日にして帰るのだ。両岸の猿の声がなきやまない。私の乗る軽い舟はすでに幾重もの山を越えている。

その昔、漢詩には詠む音の高低や長短があり、宮廷などで詩を詠む会が開かれた時、歌のように聞こえたと言われます。この音程が綺麗に聞こえるためには、漢字の音すなわち平仄を合わせる必要がありました。平仄が合わなければ美しい詩に聞こえず唐詩と呼べるものではなかったのです。

昔の中国語にも四声があって、それぞれ現代の中国語と対比されます。
平声ひょうしょう:普通話(現代中国語)の一声と二声 (平声)
上声じょうしょう:普通話の三声 (仄声)
去声きょしょう :普通話の四声 (仄声)
入声にっしょう :普通話では失われている。短い音 (仄声)
さて解説に必要な土台が出来上がりました。ここからが本番です!

あれ?唐詩を普通話(北京語)で読むと平仄が合わない

最初に台湾師範大学で唐詩三〇〇首を学んだといいましたが、平仄について先生に次のように質問しました。
「平声は普通話の一声と二声のはずですが、早發白帝城の中で白帝城の”白”や一日還の”一”は現代では二声と一声なのになぜ平ではなく仄なのでしょうか?」
それに対する先生の回答は
「白や一は現代では失われている発音の”入声”だから仄なのです。」
私はさらに突っ込んで質問しました
「それでは、”入声”は現代中国語にはないので、現代では平仄を合わせた漢詩は作れないのですか?」
先生の回答は
「漢詩のエキスパートである詩人であれば、平仄の合わせた詩は作れますが、素人では字典で平仄を確認しなければ無理です。」

この話から暫く経った後に私は、字典を調べなくても漢字の平仄の区別をつける方法を見つけました。 話の流れから勘の鋭い読者は気付いたかもしれませんが、なぜ私が漢字の平仄の区別をつけられるのか次回お話しましょう。



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