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物理学的にはありえないくらい希少な物質の集まり──『生命とは何か』読書感想文

書籍データ

[補足]シュレーディンガーさんはこんな人

要約と感想

1944年の著作であることをふまえて、その頃の物理学の見地からの生物学(遺伝子学)認識のされかたはどのようなものだったのか。

訳者あとがきを参照すると、下記のような時代だったいう。

生物の生命現象には、生命を持たないあらゆる物質が従う物理学の基本法則による支配を原理的に超越した何らかの生命力が関与しているかもしれないという思いが、世界の第一級の物理学者たちによっても漠然と抱かれていた。

その前提を持って読むと、内容が正しいか正しくないかではなく、「生命の現象は、物理学で証明されている現象と対比することによって、別なアプローチではあるが法則として説明可能になるのではないか」と提起したところにこの書の意味があるということがわかる。

なんとなくまとめると、本書のシュレーディンガーの説は下記のようなことになる(たぶん)。

  • 物理法則は莫大な量の原子の関係による統計的な観点で成り立つ。

  • しかし生物の染色体における原子量は、その法則が成り立つには著しく少ない。

  • にも関わらず、その構造は驚くべき安定性を保っている

  • 物理学における「無秩序から秩序を導く」というアプローチは生物学には応用できず、生物学においては「秩序から秩序が生まれる」という見方が正しいのではないか


生物がエントロピー増大をどのように食い止めているかという方法への言及部分は、素人目に見ても真偽のほどが疑わしいのでここでは書きません。
(シュレーディンガー自身も本書の中で一般向けにそのことを正確に述べるのは難しいといっていますし、彼が言いたかったことの本来的な解釈ができないということもあります)


この本のハイライトは、「時計仕掛けと生物体との関係(p.168)」の部分だと思います。
そこで述べられていることを要約(一部意訳)すると、

生物体は遺伝子物質を形づくっている非周期性結晶(個体)をかなめとしているので、熱運動の無秩序から十分保護されている。

つまり生物とは、「驚くほど少ない原子でかつ安定している」という神がかった状態で存在する物質からなるもの──物理学的に見れば、ありえないくらい希少で、神秘的で、芸術的な事象として認められるのが生物なのだ。

この部分が、シュレーディンガーを驚かせている事実であり、かつ最も彼の言いたいことなのではないかと私は思っています。


今、量子力学の本を並行して読んでいるのですが、遺伝学も読んでみたくなるなあ。

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