見出し画像

シーゲル博士の心の健康法 ~優秀な外科医ががんサバイバー達から学んだこと~

今から30年近く前だろうか。偶然書店で見つけた本だった。この本は、私の人生に多大な影響を与えたが、買って数年はほとんど読まず、読んでも心にたいして引っかからなかった。

初めてのうつ病で倒れた後、長期間大量に向精神薬を服用していたことによる副作用で、廃人寸前になった経験から、医者も薬も大嫌いになった。
それはもはや、敵視と言っていいレベルだった。

気功の名人との出会いにより、激しい好転反応、離脱症状を乗り越え回復し、頭が回転するようになって、再びこの本を手に取った。(本書は日本教文社発刊の『奇跡的治癒とは何か』という本の続編と言えるものである)

シーゲル博士ことバーニーは、優秀な外科医であったが、治すことにこだわり、患者と一定の距離を置く医療の在り方に疑問を持ち、せめて患者(?)を抱きしめることができる、獣医に転職しようか悩んでいた。

そんなある日、サイモントン療法を行う、サイモントン夫妻の瞑想や描いた絵から深層心理を読み解く方法を知り、それらを実践する中で、職業は変えずにやり方を変えることを決意する。

診察室の机を挟んで患者と向かい合うのではなく、心の距離をとるのを止めて、率直に患者と向き合うようになった。すると、患者も心を開いてくれ、治療がそれまでよりうまく進むようになる。

なかでもバーニーが注目したのは、余命宣告された患者の中で、それに反して生き残るサバイバー達だった。彼らには共通点があり、それを多くの人と共有することで、生き残れる人が増えるのではないかと考え、ECAPというグループを立ち上げる。

バーニーは西洋医学の外科医なので、手術はもちろん、放射線治療、抗がん剤といわゆる標準治療を行うが、ECAPには、マクロビオティックなどの食事療法・瞑想療法などいわゆる代替医療で治そうとする患者や、何もしない人もいるが、その件でもめたり争ったりしない。皆他人を尊重するのだ。

バーニーいわく「治療法が治すのではなく、自分の身体が治す」
そして「人生が癒された結果、その副産物として治癒が起こることもある」サバイバー達はそのことをわかっていて、自分に合った方法で自分を癒す。

バーニーによると、患者のタイプは三種類に分かれるらしい。
①患者の15~20%
意識するしないにかかわらず、死を望んでいる。悩みから逃避できる方法としてがんその他の重病を歓迎する。

②患者の60~70%
きちんと薬も飲み、約束の時間に診察に来る。医師の言う通りにする。時には、医師が宣告した時期に亡くなっていく。

③患者の15~20%(例外的患者=サバイバー)
ありのままの自分をさらけ出す。されるがままではいない。自ら学んで自分の病気の専門家になり、医師にどんな治療を受けるのか質問し、一緒になって治療に参加する。自分に責任を持つのだ。
ある意味、医療スタッフにとっては、扱いにくい患者でもあるが、単なる我がままとは違う。

うつ病を始め自分の様々な不調、そして、この本に出会って、私はたくさんのことを実感として学んだ。

治療法が治すのではなく、自分の身体が治す。治療法はあくまで手助けなのだ。そう心から思った時、医者も、病院も、薬も、手術も、必要な時はその手を借りることにした。

現代西洋医学が得意な分野、自然療法などの代替医療が得意な分野、合わせ技で、速やかで身体への負担を最小限に抑えながら、回復を図る。

私の他の記事にも、何度かシーゲル博士というキーワードが登場するが、バーニーのこの2冊から学んだことは、今の私の人生観の一部となっていて、それが私の周囲の人の助けにもなっている。

ある時、がん宣告された友人から「標準医療は受けたくないと思ってる」と電話が来た時、その話しの内容から進行の早いタイプのがんが疑われた。

食事療法で治そうとする彼女には、時間がないのではと心配になり、バーニーの話を中心に、私の持てる限りの情報と知恵を駆使して、決して真正面から彼女のやり方を否定せず、違う方法も選択肢に入れ、よくよく吟味したうえで、何が起きても後悔しない治療法を選ぶように勧めた――悟られないように振舞ったが、内心は焦り散らかしていた。

それでも、少しは彼女の標準治療に対する拒絶感を軽減できたようだった。それもすべて、バーニーのおかげだった。そして、バーニーと同じように、『どんな選択をしたとしても、全力で応援する』と伝えた。彼女はとても喜んでくれた。

その後、周囲の勧めもあり、彼女は標準治療を選択した。宣告後数年が経つが、今も元気にしている。彼女自身、標準治療に対して、かなりの偏見があったと言っていた。そして今は、自分の選択に納得し、感謝している。

人間はいつか必ず死ぬ。
できることと言えば、その時できる最善の方法を…それはもしその治療法を選んで死んだとしても、後悔しないと思える選択をするしかない。バーニーも、そう言っている。

またこの本は、たくさんの人の臨終に立ち会ったバーニーの経験から、死は決して忌むべきものではなく、新たな旅立ちだと気づかせてくれる。

病み疲れた体から、魂が解き放たれるタイミングを自分で選ぶ人達もいて、死に目に会えないということが、必ずしも悲しいことではないと教えてくれ、それもまた、私の周囲の人を救う気づきだった。

バーニーは、素晴らしい医者であり、信仰者であり、人間であり、聖職者的医療と呼ぶその思いやり溢れた医療で、多くの人の人生を癒す手助けをした。

ちなみに…私はアメリカの彼に手紙を書いたことがある。当時はエアメールで到着に一週間かかったが、ほぼ二週間後に返事が来た。私の手紙を見てすぐに返信を出したということだ。しかも、手書きだった。

英語もろくにできず、間違いだらけの見知らぬ日本人からの手紙への返事を書く―—何か国語にも翻訳出版され、医師の仕事と講演にも忙しい人が、そんなことをする理由は、本物の慈愛を持つ人物である。ということ以外にはありえない。

この本を通して、そんな素晴らしい人物と出会えたことを心から感謝している。

バーニー・シーゲル著
『シーゲル博士の心の健康法』新潮文庫 
『奇跡的治癒とは何か』日本教文社刊

この記事が参加している募集

人生を変えた一冊

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?