見出し画像

その抗菌薬は何のために使っていますか?


こんにちは。手術室看護師のnanaです。

私たち看護師は医師の指示のもと薬剤を準備します。もちろんその薬剤の薬効や副作用はある程度把握していますが,何をターゲットにその抗菌薬を使用しているかご存知でしょうか。

恥ずかしい話,私自身は若手の頃は「感染予防のために抗菌薬を投与する」という大雑把な解釈しかできていませんでした。

なので今回は何をターゲットにその抗菌薬を使用しているか?に焦点を当てたいと思います。



なぜ予防抗菌薬が必要か

術後感染症予防はSSI(手術部位感染)の発生を軽減させることが第一目標とされており,皮膚の常在細菌叢と術中に開放される臓器の常在細菌である汚染菌に対し,予防抗菌薬を使用します。

しかし,予防抗菌薬は組織の無菌化を目標としているわけではなく,術中の汚染菌を患者本人の予防機構でコントロール可能なレベルまで引き下げることを目標としています。


予防抗菌薬をどう選択しているのか

手術箇所となる臓器によって標的となる皮膚常在菌が異なるため,各手術箇所における常在細菌叢に抗菌活性を示す抗菌薬を医師は選択しています。

一般的にほぼ全ての手術患者に対して予防抗菌薬は使用します。そのため耐性菌を作らないためにも,術中の汚染菌に対する狭域抗菌薬を選択を選択することが重要です。

日本化学療法学会/日本外科感染症学会術後感染症予防抗菌薬適正使用に関するガイドライン作成委員会,編.術後感染症予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン.2016. より



また手術創は清潔度に応じて「清潔創」「準清潔創」「汚染創」「不潔/感染創」の4つのカテゴリに分類されます。

日本化学療法学会/日本外科感染症学会術後感染症予防抗菌薬適正使用に関するガイドライン作成委員会,編.術後感染症予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン.2016. より


清潔創

SSIの発生率は極めて低いことから予防抗菌薬の有用性が証明されていません。

術野の汚染菌として皮膚常在菌のみを対象としているのでグラム陽性ブドウ球菌が主体となります。そのため抗菌薬としては,セファゾリン(CEZ)やスルバクタム/アンピシリン(SBT/ABPC)が推奨されています。
※SBT/ABPCは嫌気性菌に対する活性を有するため第二選択となります。


準清潔創


予防抗菌薬の使用が推奨されています。

皮膚常在菌に加え,臓器特有の常在菌が予防抗菌薬の標的となります。

例えば上部消化管手術における術野汚染菌は食道や胃の常在細菌であるブドウ球菌や連鎖球菌であるが,胃酸の影響でその菌数は少ないとされています。そのため,予防抗菌薬としては第一セフェム系が推奨されています。


汚染創

SSIリスクの因子を認めない場合には予防的抗菌薬の投与対象外となります。

※SSIリスク因子は以下の通りです

①米国麻酔学会術前状態分類≧3(糖尿病など)
②創クラス III (IV は予防抗菌薬適応外)
③長時間手術”(各術式における手術時間>75 percentile)
④body mass index ≥25
⑤術後血糖コントロール不良(>200mg/dL)
⑥術中低体温(<36°C)
⑦緊急手術
⑧ステロイド・免疫抑制剤の使用
⑨術野に対する術前放射線照

不潔/感染創

治療抗菌薬が選択されます。


抗菌薬投与のタイミングと間隔


予防抗菌薬の初回投与は,手術(執刀)開始時にSSIの起因菌に対して十分な抗菌効果を示す血中濃度または組織濃度が必要となるため,初回投与は執刀の60分前以内に投与を開始することが推奨されています。

※VCMやフルオロキノロン系抗菌薬については,血中濃度を考慮して120分前以内の投与開始が推奨されています。

また整形外科手術などで駆血のためにターニケットを使用する場合には,少なくともターニケットを開始する5〜10分前に抗菌薬の投与を終了させておく必要があります。




投与量・術中追加投与の間隔

投与量は予防抗菌薬であっても治療量を投与量として設定します。ただし肥満患者に対しては十分な血中濃度の確保のため,抗菌薬の増量が必要となります。

日本化学療法学会/日本外科感染症学会術後感染症予防抗菌薬適正使用に関するガイドライン作成委員会,編.術後感染症予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン.2016. より


長時間手術においては,術中の追加投与が必要となります。手術中および閉創後の約2〜3時間は血中および組織に対して抗菌薬の治療濃度を維持する必要があるため,一般的に半減期の2倍程度の時間が再投与のタイミングとして推奨されています。

半減期と再投与のタイミングに関しては以下の通りです。

日本化学療法学会/日本外科感染症学会術後感染症予防抗菌薬適正使用に関するガイドライン作成委員会,編.術後感染症予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン.2016. より


また短時間における大量出血(1500ml以上)の場合には十分な血中濃度および組織濃度を維持するため,適宜抗菌薬を再投与する必要があります。



全ての薬剤投与にはきちんと意味があります。
全てを覚えるのは正直難しいと思いますが,頭の片隅にでも何をターゲットに抗菌薬を投与しているのかを入れておいてもらえると,看護の幅が広がると思います。


最後まで読んでいただいてありがとうございました。


この記事が参加している募集

仕事について話そう

仕事のコツ

with 日本経済新聞

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?