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思い切って読んでよかった!『森田芳光前映画』

アフターシックスジャンクションのパーソナリティの宇多丸氏が魂込めて作ったと言っていい『森田芳光全映画』をとうとう読んだ。550ページで基本上下二段組で、ページによっては3段組。とにかく読んでも読んでも終わらない、ついでに言うと上質紙で分厚くて物理的にくっそ重たい、ページをめくるのにも開くにもよっこらしょとなる。読むまでのハードルがめっちゃ高くて、存在を知っていたが手をつけなかった。

が、実際の本屋で実物を見てなんとなく背表紙を見て、鈴木京香氏の名前があることにぐらりと来て読むことを決意。が、いかんせん金額的にハードルが高く、図書館で借りることに。
実を言うと住んでいる地区の図書館には存在しておらず、図書館に購入の依頼をしようとしたら、別の市に蔵書していることが判明し、市をまたいで借りれることとなり、読める次第になった。図書館とはありがたいシステムだなと思った。ついで、今まで購入のリクエストを出すなどという、今までやったことのない行動に出させる推しというか憧れの存在の凄さを実感した。

脱線、鈴木京香目当てに読み出した本書だが、何というか全体として筆者達の熱量がすごいと言うしかなく、結局お目当ての箇所以外もほぼ通読してしまった。邦画に興味はなく、森田芳光という監督の名前すら知らなかったが、読み出すと面白くてやめどきがわからずついつい読んでしまう。それもそのはず『黒い家』とか『武士の家計簿』とか『阿修羅のごとく』とか、メジャーな作品で邦画ファンでもない自分でも知ってる映画を作った人という衝撃。自分がいかにイメージで邦画を見ないで来たかを痛感。
そして、森田芳光という監督を徹底して掘り下げる宇多丸氏、三沢和子氏の情熱の凄さよ。時代の変遷や映画がどうやって出来ていくのかという裏話や演じる役者さんのエピソードが、よくぞここまで掘り下げること出来るなーと感心する構成。堅苦しい研究所というよりは、基本は森田芳光監督の作品を上映したときのトークショーを文字起こししているのでサクサク読める。また各作品でどういうカメラワークにするとか、撮影の方針とかが読んでいて新鮮。脚本についてとか、どうやってキャスティングを決めるかなどのぼんやりした映画の作り方を覗き見れるようで面白い。情報が多くて一読しただけでは消化したとは思えないが、一気呵成に一人の監督が作った映画と時代背景を味わえる贅沢な本である。

『39 刑法第三十九条』について
一番のお目当てがこの映画。理由は鈴木京香が主演だから、なので一番最初に読んだのだが、役者の本気具合がすごすぎて驚いた。演じる上で陰気なキャラクターなので、猫背を維持してた結果、鈴木京香が整体の担当者に背骨が曲がってきていると指摘されたエピソードにびっくり。
今も第一線で活躍している俳優なだけあり、プロではあるが、それだけ本気で取り組んでいるからいい作品に出て残るのだなと思った。そしておそらくこの本を読まねばどういう俳優なのかと知ることも出来なかったので読んでよかったなと思う。インタビューやネットの記事ではこういうの読めないしな。
鈴木京香はさておいて、この映画を初めて見たときはショックを受けた。日本映画でもこんな暗くて変なカメラワークで、ホラー映画でもないのに不穏な気配全開で見てて怖い映画があるのか!という衝撃。主人公と母親が一緒に会話してるだけで、何か取り返しのつかないことが起きるのでないかというヒヤヒヤ感じにイザベル・ユペールの『ピアニスト』をふと思い出す。
後半のミステリ的な展開も一気に纏めてしまって最後まで抑制を効かせて締めてて、地味だけど通好みな映画だなーと思った。

この本を読んだからと言って今後森田芳光監督の映画を積極的に見るという予定はないが、ふとした時にあれを見ようかなという監督の一人として記憶に残って長く付き合っていけたらいいなと思う。

そして、全く興味のないに人間にも手をとらせるファンというか最早森田芳光の伝道師とでも言うべき宇多丸氏の情熱にも脱帽、そんな好きに支えられて自分の推しの情報にも触れられてなかなか稀有な経験したなという一冊でした。




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