現在の時刻は20:30を回ろうとしている。

今僕は家にいない。

近所の公園で、買い込んだビールと焼き鳥を頬張りながら、まるでおっさんのようなことをしている。

はっきり言う。逃げた。

僕はもう家にいる資格はないと思う。


さっき、寝かしつけ前に長女がぐずった。

ぐずったときに「とぉと嫌!かぁかがいい!!どっかいって!」と言われた。

腹が立ったし、悲しかった。

そりゃ最近は、以前より構えていないことはわかっている。

ならし保育で、子どもたちの環境が変わり、身も心も疲弊しているからだ。

エネルギーが足りない。

でもエネルギーがないのに、エネルギーを使うことはできない。

僕は本当は「子ども」という生き物が好きではない。

話通じないし、こっちのペース崩してくるし、自分が必死に守っている境界線を軽々超えてくるからだ。

それでも必死に「良いお父さん」になろうと思った。なりたかった。

でも、ついに今日限界を超えた。

子どもに手をあげた。

別に直接殴ったり、蹴ったり、罵倒したりした訳ではない。

ただ、限界を超えて、腑が煮え繰り返りながら、「みんな、かぁかかぁかばっかり言いやがって!!どいつもこいつも邪魔やねん!!!」と言い、壁や床を殴ってしまった。

今も少しだけ右手が痛い。

ちょうど2階の寝室で双子と一緒にいる間だった。

これ以上長女の相手は無理だと悟り、双子を寝かしつけている妻に助けを求めた。

長女の相手は妻がすることになったが、代わりに僕が双子の相手をする。

次女(双子の姉)の方は、「とぅと」と言いながら、頭を撫でてくれた。

次女だけは僕のことが嫌いではないらしい。

そう思った途端に、それまでおとなしかったはずの三女(双子の妹)が「かぁか!!」と叫びながら激しく泣き始めた。

また「かぁか」である。

しばらく放置しても泣き止まないので、必死になだめる。

が、何度も出てくる言葉が「かぁか」「かぁか」「かぁか」。

その瞬間自分の中で何かがプチンと切れた。

気がつくと、僕はさっきのセリフを吐きながら、壁や床を殴り、蹴っていた。

その瞬間、三女はピタリと泣き止んだ。

泣き止んだ瞬間に「やってしまった」という無数の後悔が僕を襲った。

僕はいつのまにか、母のようになってしまったのだ。

僕の母も、気に入らないことや腹が立つことがあると物に当たる人だった。

僕自身が殴られたり、叩かれたりしたことは一度もない。

ただし、物にはとにかく当たる人で、家中の壁は穴が空いており、物も壊れまくっていた記憶がある。

僕はそれが怖かった。

いつその物が自分になるか、わからなかったから。

だから、母の前ではなるべく母が気にいるようなことを言い、母の主張に合わせた。

いつ自分が穴の空いた壁のように犠牲になるかわからなかった。

ただただ怖かった。

気がつくと、周りの顔色ばかりを伺い、自分の意見が言えない大人になっていた。

物に当たるのもDVの一種だということは、ここ一年くらいで知ったことだ。

こんな経験があったから、僕も物に当たらないように気を付けていた。

それでもしてしまった。

三女も次女も心底怖かっただろう。

僕はしばらく床に突っ伏していたが、音が聞こえて心配になった妻と長女が寝室に来た。

必死に全員を寝かしつけようとする妻。

おとなしくなり、一言も声を発さなくなった双子。

「かぁかと一緒にいたい」と言い続ける長女の声が聞こえる。

気がつくと妻は「先に双子ちゃん寝かせるから、長女ちゃんは一階で待っといて?とぉとと一緒に待っとくのはどう?」と提案していた。

すかさず長女は「とぉと嫌!かぁかが良い」と言った。

限界だった。

僕は長女に「大丈夫やで。とぉと家からおらんくなるから。」とだけ言って、出て行った。

玄関を出て扉を閉めると「おとうさ〜ん!おとうさ〜ん!!」と泣き叫ぶ長女の声が聞こえた。

きっと追いかけてきたんだろうと思う。

僕はその声を無視して出て行った。

そして、今に至る。

これからどうしようか。

もう子育てとライター活動の限界を迎えている気がする。

子育てにリソースを割くと、もうこれ以上はスケールできない気がしている。

お金ってなんなんだろう。

子育てってなんなんだろう。

ライターってなんだろう。

フリーランスの働き方ってなんだろう。

今は何もわからないし、考えられない。

子供たちにもどんな顔して会えばいいのかわからない。

会ってはいけないような気さえする。

ただ、ひとつだけはっきりしていることは妻には負担をかけてしまったことだ。

もっと早めに「メンタルが保たない」旨を相談しておくとよかったのかも。

つくづく最低な父親・夫だと思いつつ、残りのビールを飲み干すことにする。

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