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読了記録「黒(百年文庫)」

前回とは異なり、さっくり読破。

文庫と銘打たれていますが、新書サイズに近い判型。本文一段組のレイアウトで用紙も少し厚めでめくりやすい。

3人の作家による短めの中編が3本収録されているというのがまず初めの全体的な印象。

冒頭のホーソーンの作品は、聖職者の内面的葛藤をテーマとしたサイコロジカルミステリーとして読めばいいのかな? と信仰心に一切無縁なオレは単純に思った。

2作目の夢野久作の作品は未読だったし、改めて彼の古臭さとはまるで無縁な瑞々しい文体と、人間の中にある悪(単なる「悪意」ではなくね)を美しいまでに純化して描く、その構成力に舌を巻く。

思わず朗読劇を主宰している知人の舞台演出家に「次にやるなら、コレどうよ?」と教えたくなったほどです。

斯様に夢野久作の文体は、実際に音読や朗読してみると、とてつもなく素晴らしい。すべてが舞台劇の名セリフのように無駄がなく、悪魔的とも言えるほど韻律(プロソディ)に富んでいる。

著名な「ドグラ・マグラ」でもモチーフとして出てくる無惨絵、残酷絵画が人の内的な根源悪を目覚めさせるトリガーとなるのは、オレも新聞錦絵の世界とかも齧ったので、さもありなんだけど、どことなく後述するサドの貴族趣味にも通底する気がして、これは収録作を選ぶ際の編者の意図的なリレーバトンとして象徴させる役割のようにも思えた。

公共の電波に乗せると不謹慎で不道徳的すぎると確実に怒られるだろうけど、できればオレはこの作品のラジオドラマ版を聴いてみたい。

そして3番めのラストに控えしはマルキ・ド・サド。

サドの作品を高齢者施設で読んでるという、このアンバランスで特殊な現実感覚自体に意識が若干トビそうになったわ。

翻訳は澁澤龍彦。

そのせいもあるのか、オレには極めて抑制され格調高い内容に思えた。と、こんなこと書いてる段階で、オレの道徳観や倫理観の箍が大いに緩んでる証左なんですけどね。

オレは高校の時に「ソドムの百二十日」とか読んで、ゲロ吐きそうになったけど(多分にパゾリーニの映画のせいもある)、サド未経験の方も、この作品なら入門編としてはベターかもしれない。作品のラストは、確かに哀しくもあるけど、それなりの救いもあるしね。

まあ、このポプラ社のワンテーマ縛りのセレクションの試みは、音楽のトリビュートアルバム的な意味合いも感じて、非常に面白かった。

(032)黒 (百年文庫) https://amzn.asia/d/gg2U8bA


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