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約1年前のnoteはこちら。

どんな言葉で表したらいいのだろうか。

彼はやっぱり王子様だった。
王子様なんかじゃない、「王子様」なんてもんじゃない。

ダメだ、言いたいことが全然まとまらない。

早々に私は酔っ払った。
一刻も早くお布団に包まれたかった。

いや、違う。
私が言いたいことはそんなことじゃない。

相変わらず抱き締めるのが下手くそなところも愛おしかった。
また申し訳程度に頭を撫でてくれて私は暗闇の中でとびっきりの笑顔になった。

今度こそはお昼ご飯を一緒に食べたくて、
「明日はゆっくり過ごそう」ってちゃんと伝えた。

お昼になって、「おにぎり2つでいい」と言われても、
「わかりましたよー!」なんて言いながら心の中では全然わかってなくて、
それとなく彼は私の気持ちに応えてくれて、
結局お昼は一緒に食べた。

お酒を飲まないで、ただ普通に一緒にご飯を食べることがこんなに幸せだとは思わなかった。

「めちゃくちゃ美味しいじゃんここ。普通にリピートするわ」とはしゃぐ彼を見てなんだか嬉しくなって、
それだけでもうお腹いっぱいだった。

去年彼とおそろいにした香水はちょうど先月空になった。
また同じものを買おうか迷って、結局買わないまま今日まで来てしまって、
私は杏仁豆腐の香水をつけて彼に会った。

お布団に包まれながら、「何の香水つけてる?」なんて聞いた。
楽天で買ったなんとかって言ってた気もするけど、全然覚えてないや。

お父さんのことも、お母さんのことも、弟のことも、職場の人のことも、大好きな猫ちゃんのことも、
全部全部話してくれることが嬉しかった。

そりゃ私は、あなたのことを知れたら何だって嬉しいよ。
だけどね、私のことなんてちっとも聞いてくれないじゃん…って去年はちょっとだけ寂しかった。
ぐるぐる一人で考えてた。

だけどね、寒空の下で、
「このあたりにお前の元彼が住んでることは覚えてる」ってふと言い出して、
それがたまらなく嬉しかったの。

なんだ、全然忘れてないじゃん!
その話しなのなんて、もう4年前になるのかな…

バカだなー私。
あの本買って感想言い合おうねって言ってたのに、すっかりそんなこと忘れちゃってた。

あの時は行けなくてごめんねって真っ先に謝ろうって思ってたのに、
そんなこと忘れちゃってた。

「お互い歳を取りましたねえ」と言えるのは、
二人の間で積み上げてきた時間があるからこそだ。

愛とか恋とか、そんなものはとっくに乗り越えた。
解散しちゃった家族でもない、疎遠になった学生時代の友達でもない、退職した職場の先輩でもない、
ただ1年に1度この時期に一晩会うだけのこの関係が、
もっとも「人生」に直結している気がする。

田口が1年前に言った、「この歳になると周りは保険や積立の話ばっかりよ」から1年経って、私の周りもそんな感じになった。
田口曰く、「この歳になるとそんな話も落ち着いてきて、結婚とか出産とか離婚の話ばっかりよ」
きっと1年後の私もそうなるんだろうな。

酔っ払ったって騒ぐわけじゃない。
今聴いてる音楽、これから聴く音楽、昔聴いてた音楽はどれも丸被りで、
自分が見た映画をただ押し付け合うんじゃない。
各々観たあの映画の感想を言い合い、来月公開する映画に胸を躍らせてる。
TikTokのお気に入り欄を見合って、
「あーこれ見た」「あーこれお気に入りした」なんて話す夜更け。

会話がなくて困った元々彼、
特別な会話がなくても居心地いい元彼。
会話に困らなくて心地いいのが田口。

だってもう出てくる作品名全部わかった。
出てくる老いエピソード、全部同じだった。
出てくる悩み、全部同じだった。

ちょっと拗らせたこと考えてみるとして、
この関係になんて名前をつけましょうか。

私が結婚したら会わなくなっちゃうのかな。
田口に子供ができたら会わなくなっちゃうのかな。

友達だったら、そんなことはないか。
昔惹かれ合った者同士を、友達と呼んでもいいのだろうか。

友達…なんか違う気がする。

なんかわかんないけど、田口と一緒にいる時の私は、
家族にも友達にも恋人にも見せない自分でいられる気がする。
心の底から「女の子」でいられる気がする。

去年会った時はずっと緊張してて、田口の言葉一つ一つを心に刻むのに精一杯で、その瞬間を噛み締められていなかった。
今年はちょっとだけ成長して、普通に会話できるようになったけど、その分会話の内容を覚えていない。

だけど、お昼を一緒に食べたいってことだけはちゃんと伝えようと思ってたから、
それができたからいいの!

ちゃんと手を繋ぎたいって思ってたから、
それができたからいいの!

次会う約束をしようって思ってたから、
それができたからいいの!

もっといろんな感情があるんだけど、
とにかく全てが恍惚にとろけてしまって、
あんまり言葉にならない。

去年、何度も「本当に東京に行くのか」と聞かれた。
今年、何度も「東京な〜遠いからな〜気になるところはあるけど猫置いていけないのもあって行けないからな〜」
と言われた。

別に私から、「東京においでよ」と誘ったわけじゃない。

上手く言葉にできないけど、
お互いもっと近くに住んでたらきっともっと会いたかった、
って気持ちが同じことはなんとなくわかった。

思い込み?笑わないでね、
私結構本気でそう感じ取った。

今年のばいばいは「じゃ」じゃなかった。

「次のオリンピックの年に!」
「4年も待てないよ!来年ね!」

だった。

ばいばいしてから、田口から「また来年な」と連絡が来た。

それでいい、それだけでいい。

「私も好きだった」
なんて、一生言えなくていい。

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