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都市計画制度の概要(4)

前回のおさらい

前回までは都市空間の規律として都市をどうデザインするかという、全体のプランニングについてみてきました。今回は開発許可という、個別の行為に関する制度の説明です。
都市空間を住みやすく、まとまりのあるものにするためには、都市全体としての在り方を決め、道路や病院等公共施設の立地を考え、地域別に建築できる建物の用途を決め……、と、色々な計画を立てて実行していくわけです。そして、その計画に実効性を付与するため、個々の土地に対する形質の変更についてチェックする制度が、この開発許可です。

開発行為とは

都市計画法4条12項には、「主として建築物の建築又は特定工作物の建設の用に供する目的で行なう土地の区画形質の変更」とあります。この定義を分解すると、前段の目的部分と後段の行為部分に分けられます。つまり、同じ行為であっても目的が違っていれば、開発許可制度の埒外に置かれる行為があるということです。
具体例を挙げましょう。同じ土地の造成という行為でも、建築物の建築を目的としないので、駐車場の造成は開発行為には該当しません(大規模な造成の場合、雨水処理施設の設置を必要とするなど、別の規制はあります)。

建築物と特定工作物

建築物とは、建築基準法2条1号に定められた「建築物」を言います。すなわち、①土地に柱か壁のいずれかが立てられ、それに屋根が付いたものを言います。その他、②これに付属する門や塀、③観覧のための工作物、④地下または高架の工作物内に設ける事務所、店舗、興行場、倉庫その他これに類する施設も含みます。④の例は鉄道高架下の商店などですね。
特定工作物は周辺の環境悪化要因や市街化惹起要因の度合いによって二種類に分けられます。
第一種特定工作物は、環境悪化をもたらしうるもので、コンクリートプラント、アスファルトプラント、クラッシャープラント、危険物の貯蔵・処理用工作物を言います。
第二種特定工作物は、出水災害や樹木乱伐をもたらす恐れがあるもので、ゴルフコース、1ha以上の野球場、陸上競技場、遊園地などを言います。

形質の変更

切土、盛り土または整地を言います。建築物の建設と不可分な行為である基礎打ちや土地の掘削はこれに含まれませんので、もともと建築物があった土地で、区画に変更がない場合は開発行為に該当しません。

開発許可制度の由来

日本の開発許可制度は、イギリスの1962年都市農村計画法(Town and Country Planning Act 1962)における計画許可制度(Plannning Permission)をもとに作られました。日本における開発許可制度の導入が1968年のことですから、割と早い輸入と言えます。当時の日本では都市のスプロール化の阻止が喫緊の課題でしたから、焦りもあったのかもしれません。ただ、やはりこの制度もご多分に洩れず骨抜き制度となってしまいました。
イギリスにおいては計画許可は全国土に及びますが、日本の開発許可では都市計画区域、準都市計画区域に限られます。また、対象についても、かの国が目的無限定の土地の形質変更、建築物の新築・増改築・解体、土地利用目的の変更と広範にとらえているのに対して、我が国では上述の通り限定的です。
イギリスはこの法制度により、ヘッダーイメージのような、1階部分は商店、2階以上は住宅といった用途制限、一定面積以内の看板、窓の形状の限定といった形態規制を包括的に運用できるようになっています。

日本は?

日本ではどうかというと、この部分はこれまで紹介してきた地域地区制度、地区計画制度で一律に網掛けをしたのち、具体的な行為規制は建築基準法における集団規定に詳細を譲るような運用となっています。
この集団規定については、「建築確認」という制度によって実効性を担保されています。この「確認」という行政上の行為は、きわめて裁量の余地が狭く(建築確認は「許可」に類似の制度と言われてはいるが、裁量の余地はあまりないと言っていい)、技術的水準の適合性があるか等の機械的な判断になってしまいます。意匠性を判断する場において、この確認という制度が適切とは言えない気がします。

次のネタ

今回はちょっと用語説明的で退屈かつ、私の主義主張っぽいことが多かったかと思います(もともとのnote開始の切っ掛けが、現行都市法制への問題意識にある)。
制度説明は次回の都市計画と住民参加くらいにしておいて、その次以降は都市交通計画や緑地計画、景観計画の具体例とか技術とか紹介できたらと思っています。そのほうが楽しいでしょうし。私も勉強していないところもあるので学び甲斐があるし。諸外国の説明はなんやかんや英米独と細切れで紹介してしまったので、必要に応じてやっぱりまとめて紹介するかもしれません。最終的には現行都市法制の今後についてかくあるべき、的なものも最新の研究の紹介とともに入れられたらなーと思ったり。

参考文献

初回に引き続き以下を参考にしています。おんぶにだっこですね。でもわかり易い本なので。
 安本典夫(2017)『都市法概説(第三版)』法律文化社.
 香山壽夫(2006)『都市デザイン論』日本放送出版.
 川上光彦(2017)『都市計画(第三版)』森北出版.

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