見出し画像

都市計画制度の概要(2)

前回のおさらい

前回までは、都市計画制度における基本のトリセツとなる二つのマスタープランとその策定者、都道府県が策定する都市計画区域とその線引きからなる「区域区分制度」について見てきました。
今回は、都市計画区域内に指定される用途地域を用いた「地域地区制度(ゾーニング)」と、詳細な土地利用規制である「地区計画」について見ていきたいと思います。

わかりにくい!

区域区分制度とか地域地区制度とか、似たような言葉がごちゃ混ぜで、多くの方が挫折しそうになっているかもしれません。
こうなってしまうのも、元の理由を辿ると、日本のグラデーション的都市計画制度が色々な国のそれを参考に作られているというところにあります。

ドイツとアメリカの都市計画(ネタバレ)

ドイツの都市計画には、FプランBプランというものがあります。
FプランはFlächennutzungsplan。意味はFlächen Nutzungs Plan(=土地 利用 計画)です。日本では市町村が策定するマスタープランに該当しますが、市町村全域が都市計画区域に該当し、Fプランが最高位の計画であるところに差があります(ドイツにも都市発展計画という、より青写真に近い計画もありますが、法的拘束力を持たないのでここでは割愛します)。
対してBプランはBebauungsplan。意味はBebauungs Plan(=建設 計画)です。Bebauenは耕す、耕畜するという意味もあり、建設に当たる訳語は本来はBauenになるので、英語的にはDevelopment Planといった感じでしょうか。直訳的にはこの通りなのですが、輸入する際には「地区詳細計画」という名前が付きました。複数街区程度の比較的狭い面積にこのBプランは設定されます。直訳通りBプランは、建物等の建設にかかるかなり詳細な取り決めが図面的に表現されていて、日本の用途地域制度のような、土地の利用目的を定めるような緩やかな規制とはなっていません。なぜならドイツにおいてはそもそも計画が設定されていないところでの開発行為は基本的に認められないからです。Bプランがあるところで、プランに合致して初めて開発行為が許されるのです。
日本においてBプランの役割を果たしていると言えるのは「地区計画」という限定的な場所での制度になっています。そして、日本においては計画が設定されていないところでの開発行為は、建築基準を満たしていれば基本的に自由です。

また、アメリカの都市計画にはゾーニング制度というものがあります。
これは日本に「地域地区制度」として輸入されています。但し、日本とは違い、かなりたくさん種類があり、例えばニューヨーク市では基本形のゾーニングタイプだけで21種類もあります(全米最多)。

次回以降の記事のネタバレになってしまいましたが、ドイツとアメリカを由来とするマスタープランと区域区分制度と、ドイツを由来とする地区計画制度と、アメリカを由来とする地域地区制度があり、用語的に似通っているからわけがわからなくなるんですね。語感的な広さは、区域>地域>地区となります。

小まとめ

わっかりにくいですね。上から順にもう一度整理します。
・マスタープランと区域区分(米マスタープランと独Fプラン)
・地域地区(米ゾーニング)
・地区計画(独Bプラン)

やっと地域地区制度

さて、前置きが長くなりましたが、地域地区制度は「用途地域」と呼ばれる産業構造に着目した土地利用規制を基本として、他に各種用途に応じた地域地区が加わるような制度となっています。まずは主な用途地域の種類について見てみましょう。

ちょっとカラフル過ぎて見にくいですが、実際にこのようなイメージの色で地図上に示されるので、用途地域を設定することを「色塗り」と呼んだりします。各用途を基準に、どの地域なら建築できるのかというふうに、縦の目線で見ていくといいかと思います。網掛けの部分は建築できなかったり、規模・使途制限がある地域です。
また、用途地域ごとに建物の大きさや面積の規制も加えていきます。規制のメニューは容積率、建蔽率、斜線規制等を主として、条例により敷地や構造物の規制なども加えられます。
一番制限が厳しい地域が第一種低層住居専用地域(一低専)で、一番緩い地域が準工業地域です。所謂相隣問題が発生しやすいところですね。NIMBY。

その他の地域地区

ここからはちょっと多いので列挙してしまいます。特徴ある所について個別に説明していきます。
特に用途を定めるのであれば、制度のベクトルとしては制限が強くなる方向になるのが通常であろうと思うのですが、日本の場合は経済的な思惑も相俟って、規制緩和系の地区が多いところが何とも言えないです。この例で有名なものが、2002年に千代田区で指定された、「特例容積率適用地区」ですね。JR東日本は、東京駅の赤レンガ駅舎修復のため、駅舎上の残余容積率を周辺に売却し費用を捻出しました。

用途系:特別用途地区、特定用途制限地域、居住誘導区域居住調整地域都市機能誘導区域(※)

(※)立地適正化計画について
人口減少が進む地方都市においては、都市機能の集約化、いわゆるコンパクトシティ化、圏域再編が喫緊の課題となりました。そこで、2014年の都市再生特別措置法の改正で「立地適正化計画制度」が設立されました。
この制度により、地域生活に必要不可欠な都市機能を持つ施設(社会福祉施設、医療施設、教育施設など)を居住誘導区域内に設定された都市機能誘導区域内に設置する際、交付金支援や、容積率の緩和などの措置を受けることができるようになりました。
また、住居の新築や改築に際して届出があると、市町村は居住誘導区域に移るよう勧告したり土地をあっせんできるようになりました。

立地適正化計画についてはまだ動き出したばかりの制度で、策定された計画も多くありません。そこで、集中豪雨被害のあった広島市の策定途中の骨子案を見てみましょう。

広島市は市電とアストラムラインを中心に公共交通が発達した街ですが、これを核として居住地を集中させていこうという思惑と、スプロール化で市北部の傾斜地に広がる災害リスクのある場所についても、現状の居住形態を守りながら徐々に誘導していこうという思惑が感じ取れます。

利用密度系:高度地区、高度利用地区、特例容積率適用地区、高層住居誘導地区(江東区の東雲キャナルコートと港区の芝浦アイランドのみ)
景観系:景観地区、風致地区、歴史的風土特別保存地区、明日香村歴史的風土特別保存地区(明日香村は村全域が指定されている。その他の歴史地区は京都、奈良、鎌倉、逗子、大津など)
業務・交通系:駐車場整備地区、流通業務地区、臨港地区、生産緑地地区(2022年問題で調べると不動産サイトに詳しい)
防災系:防火地域、準防火地域、航空機騒音障害防止地区、同特別地区、特定防災街区整備地区(首都圏、大阪圏等の地震とそれに伴う火災等災害の回避のための換地処分等を行いやすくするもの、筆界毎に指定ができる)
事業促進系:都市再生特別地区、促進区域、遊休土地転換利用促進地区

やっとやっと地区計画......。

と言いたいところなのですが、だいぶ長くなってしまったので、地区計画は地区計画で別途記事を書きたいと思います。

参考文献

今回も以下を参考にしています。スライド資料は制度や統計をもとに自作となります。
 安本典夫(2017)『都市法概説(第三版)』法律文化社.
 香山壽夫(2006)『都市デザイン論』日本放送出版.
 川上光彦(2017)『都市計画(第三版)』森北出版.

なお、広島市の立地適正化計画については以下。

前回の記事


この記事が参加している募集

都市計画、都市デザインなどにまつわることをつらつらと書いていきます。記事の内容の間違いやご意見、ご批判等もお待ちしております。問題があった場合は訂正、削除もします。