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都市計画制度の概要(3)

前回のおさらい

前回は用途地域を中心とした地域地区制度について見てきました。
今回は地区計画について見てみたいと思います。だんだん、計画の範囲が狭く、規制の内容が詳細になってきましたね。当初の予定からだいぶズレていますが、まぁ、毎度のことです。

地区計画制度導入の経緯

地区計画が導入されたのは1980年の法改正のことです。それまで広域的な規制は用途地域を中心とした地域地区制度が担っていたのですが、メニューが不十分で良好な環境を誘導する役割を果たせていませんでした。そこで新たに街区単位で計画を策定できるようにしたのです。
導入に際してドイツのBプランを参考にしたのは前回説明した通りです。そして、Bプランがすべての開発の基準となるものであるのに対して、日本の地区計画制度は、計画がないところでも開発ができてしまうという差が生じてしまっていることについても。

地区計画を適用できる場所

現在は、ほぼどこでも地区計画を定めることができます。
しかし、制度導入当初は市街化区域内の市街地再開発事業を実施する場所、スプロール化が懸念される場所、良好な居住環境が形成されている場所などに制限されていました。厳しい建築制限をかけるのだから、それ相応の理由が必要だろう、という理解があったのだろうと思われます。

地区計画の効果

地区計画の内容は「整備、開発および保全の方針」(地区計画マスタープラン)(また出ましたね。聞き流しましょう)と「地区整備計画」に分かれます。地区整備計画で指定できる内容は、施設の配置・規模から容積率・建蔽率の限度、壁面後退位置、壁面・屋根の意匠など多岐にわたります。
地区整備計画が定められると建築行為は届出が必要となり、計画不適合の場合、市町村長は設計変更等の勧告を出すことができます。
また、勧告のみならず、この地域内に適用される建築制限条例を併せて定めると、強制力を持った規制となります。この条例を連動させた地区計画は全体の70%内外と言われています。
規制を上乗せする形の手法でありながら、実際には敷地の高度利用のための容積緩和などが頻発し、法制度としては難解なものになってしまった側面もあります。土地の細分化を防止するなどの意図もあるにせよ、利用実態は規制の詳細化と規制の緩和がバーターとなっているところが多いことは否めません。

具体例(1) 千代田区大丸有地区

丸の内の仲通りとその界隈の道路に面した建物については、壁面の後退位置と軒高31mまでを揃えるように指定されています。
これは、1919年の市街地建築物法以来、建物の高さ限度規制が100尺(31m)であり、その制限いっぱいに建てられたオフィスビルが所狭しと大丸有界隈に軒を連ね、統一感あるスカイラインを形成していたことに由来しています。
この規制が1963年に撤廃され、1966年には高さ127mの東京海上ビルがこの地区に計画されます。
当時他の土地に大量のビルを保有していた三菱地所や東京都等反対側と、建築界を中心とした賛成側で世論は大きく分かれ、美観論争を巻き起こしますが、無事(?)ビルは竣工しました。
当ビルの設計者がコルビュジェに師事し、日本建築界の第一人者である前川國男だったというのも何とも言えない話です。
その後の、三菱地所のCMでおなじみ「Marunouchi is happening.」の様子を見るとなんだか皮肉に思えますね。オフィス需要もあり、大丸有地区はちょっと墓石のような形をした超高層ビルが数多く立ち並ぶこととなります。

写真1 昭和の丸の内仲通り

写真2 現在の丸の内仲通り

写真3 旧東京海上日動ビル新館

写真4 現在の東京海上日動ビル

具体例(2) 横浜市元町地区

こちらは街並み誘導型地区計画と呼ばれるものです。
ハイソな店舗が並ぶストリートの統一感ある街並みを誘導するために、後退位置を定めて街路を拡幅する代わりに斜線規制を緩和し、建物上部の居住空間を確保し、職住近接の商店街をつくる計画です。また、二階部分が張り出したことにより、雨天時のアーケードの役割も期待できます。

写真5 横浜元町地区の商店街

写真6 通り沿いの斜線規制緩和

箸休め

複雑な話が多かったので、今回は箸休め的に写真を多めにイメージしやすくしてみました。
NewsPicksのコメントでご要望頂いていました都市計画への住民参加については、次回書こうと思っている開発許可制度の後に説明したほうが、全体を通しての理解が深まるかと思いますので、次々回あたり(うまくいけば)に解説したいと思います。

参考文献

今回も以下を参考にしています。
 安本典夫(2017)『都市法概説(第三版)』法律文化社.
 香山壽夫(2006)『都市デザイン論』日本放送出版.
 川上光彦(2017)『都市計画(第三版)』森北出版.

なお、千代田区と横浜市の地区計画については以下。

使用写真については各写真にリンクを貼っております。

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