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第三部 MLB「ボンズ,クレメンスの殿堂入り問題を打破するもう一つの論法」

 これは”第三章 MLB「ステロイド時代」は本当に終わったのか”の副本として書かせて頂きます。(内容的に一緒の記事として出すのは違うかなと。)この記事に関しては完全に私見であるため,おまけ的なゆるーい感じで見ていってください。また,前章を読んでからの方が楽しめると思うので是非そちらから読んでみてね。

①ボンズ,クレメンスは「単純に品格・スポーツマンシップが無いから得票できない」説

 先程,たっぷりボンズとクレメンスの殿堂入り問題について講釈を垂れさせて頂きましたが,あの記事を書いている途中,もう一つの解決策を思いついてしまったのです。「そもそも,ボンズとクレメンスってステロイド云々じゃなくて品格・スポーツマンシップが無いから得票できないんじゃね?」というものであります。もうあれですよね,さっきの記事の前提を根本から覆しちゃいますよね。ただこの2人をよく知っている野球ファンであれば少しは理解していただけるんじゃないでしょうか。
 まず,アメリカ野球殿堂では確かに実績が主に考慮されるが誠実さ、スポーツマンシップ、人格といった部分も少なからず反映されると言われています。さて両名は果たしてこれを満たしていたのでしょうか。

Case.1「バリー・ボンズという男」

 まず成績を見ていきましょう。

2986試合 打率.298(9847-2935) 762本塁打 1996打点 2664四死球 688敬遠 514盗塁(141盗塁死) 出塁率.444 長打率.607 OPS1.051

 もはや実家のような安心感すらありますよね。注釈するとメジャー通算本塁打・四球・敬遠数歴代1位,さらにはシーズン本塁打・四球・敬遠・出塁率・長打率・OPS最高記録保持者となっております。またMLB史上唯一の500本塁打・500盗塁達成者であり,ゴールドグラブ賞も8度受賞。正真正銘の5ツールプレイヤーです。成績のみで彼を見た場合,恐らく歴代でも1,2を争うプレイヤーなのではないでしょうか。
 じゃあ,この男から「野球の成績」と「ステロイド使用」という要素を取り除いて見た場合,どんな人間性が見えてくるのでしょうか。

○ドラフト1位でピッツバーグ・パイレーツに入団,ルーキーイヤーの初日に1A(シングルエー)へ合流。監督室にノックもせずに勢い良くやってきて「俺はバリー・ボンズ。ドラフト1位選手だ」と豪快なアピール。当然監督に激怒される。

○クラブハウス内には自分専用のテレビとソファを設置して,チームメイトが許可無くソファに座っていた際には怒鳴りつけたという。

○2001年4月17日に通算500号本塁打を達成した際,パイレーツ時代のGMだったシド・スリフトから祝福の電話を貰った時には「あんたが早く俺をメジャーに引き上げてくれていたら、(500号に)もっと早く到達できたんだがね」と言い放った。

○「投手がMVPになるということは野手に対する侮辱。ワールドシリーズでMVPを取れば良い」,「ルースの頃は白人しかいなかったんだから基本的に認めていない。MLB史上最強の打者は俺だ」などと発言。

 これはほんの一部でしたが,いかがでしょう。確かに彼も優しい一面があったかもしれませんが「典型的お山の大将」タイプの選手といったところですよね。新庄剛と非常に仲が良かったことで有名ですが,それ以外のチームメイトとはあまり上手くいっていなかったらしいです。
 2016年にマイアミ・マーリンズの打撃コーチとして就任した際には,スプリング・トレーニングにて当時の主軸,ジャンカルロ・スタントンとクリスチャン・イエリッチにホームラン競争を挑んで圧勝。その際には「俺ってやっぱり天才!」と嬉しそうにしていましたが,17年と18年にスタントン,イエリッチがMVPを受賞したのをみると間違いなく彼は天才ですよね。ああいう傲慢だけど憎めない物言いを現役時代にしていればもっと評判もよかったのかもしれません。

case.2「ロジャー・クレメンスという男」

こちらも成績から。

709登板 4916.2回 354勝184敗 4672奪三振 防御率3.12 WHIP1.17

 歴代最多となるサイヤング賞7回は圧倒的。奪三振は歴代3位,通算イニングも16位と,まさに本格派右腕といったところ。タイトルも投手三冠を2回達成,とくに最優秀防御率タイトルは7度も受賞するなど80年代から00年代にかけてMLBに君臨した大エースです。
 さて,この男からもボンズと同じように野球の成績を除いた人間性だけを見るならばどんなエピソードがあるのでしょうか。

○「ヘッドハンター」と揶揄される程にビーンボールを多用。1986年のMVP獲得時,歴代本塁打数2位の大打者ハンク・アーロンが苦言を呈した際には「まだ彼がプレーしていたらよかったのに。そしたら頭にボールをぶつけてぱっくり割ってどれだけ俺に価値があるか見せてやるのに」と発言。

○妻と遊びの野球ゲームをしていたとき、クレメンスの投げた山なりボールを妻がジャストミートし、ボールは遙か遠くへ飛んでいった。そしてクレメンスが次に放ったボールは全力剛速球のビーンボールであった。

○2006年の春季キャンプ、WBCのための調整でマイナーリーグに登板した際に長男のコビー・クレメンス(当時1Aの選手)に本塁打をされると、次の打席での彼に対する初球はビーンボールであった。

○2000年7月のサブウェイシリーズ(NYM-NYY)で、メッツのマイク・ピアッツァと対戦した際、ピアッツァはクレメンスによって、頭部直撃の死球を受け、脳震盪を起こし、「ロジャーに対しての尊敬を失った」と語った。クレメンスとピアッツァは再び同年のワールドシリーズで対戦し、クレメンスの投球によってピアッツァのバットが折れると,クレメンスはピアッツァに対して折れたバットを投げつけるという前代未聞の事件を起こし両者睨み合いに。

 ボンズに比べればまだ全然インパクトは弱いかもしれませんが,頭に当てても絶対に謝らないというふてぶてしい姿勢が米国でも相当イメージが悪かったそうです。
 ただ彼も相当な努力家であり,打者や審判の傾向をまとめたノートを常に記していたそうです。多くのチームメートがそのストイックさを尊敬していましたし,関係も良好だったことからボンズとは少しばかりイメージは良いのかもしれません。確かに殿堂入りの得票では常にクレメンスの方が得票率高いですしね。

 さて,この2人,いざ「スポーツマンシップ,誠実さ,品格」を有しているか?と問われるとどうでしょうか。少なくともこの項目に胸を張って投票できる記者はあまりいないのではないでしょう。

②疑惑の男「I-ROD」

 2017年,殿堂入り資格1年目でクーパーズタウンに上り詰めた男がいる。強肩・強打で90~00年代のMLBを沸かせた伝説の捕手,イバン・ロドリゲスだ。テキサス・レンジャーズでデビューし,マーリンズでワールドチャンピオンに輝くなど通算311本塁打・2844安打を記録。守備も超一級品で,あのイチローに「彼から盗塁をするのが夢」とまで言わせた男である。

 そんな伝説の男にすら「疑惑」はあったのです。またまた登場,かのホセ・カンセコは著書で(当時のTEX時代のチームメイトである)ラファエル・パルメイロ,フアンゴンザレス,イバン・ロドリゲスがステロイドを使用していた」と証言。パルメイロは3020安打・569本塁打を記録した大打者。ゴンザレスはI-RODの幼馴染みでもあり434本塁打を記録。しかし両名とも薬物使用疑惑に揉まれ,今日まで殿堂入りとは無縁となっています。
 だがしかし。同じく証言がなされていたI-RODは先程のとおり,有資格1年目にて殿堂入りを果たしているのです。ここでも命運を分けたのは「スポーツマンシップ,誠実さ,品格」だったのでしょうか。たしかにI-RODは現役中に様々な財団を立ち上げるなど,人間性の部分ではボンズ,クレメンスとは大きく水をあけているのかもしれません。
 ただ彼はステロイド使用を問われた際,「神のみぞ知る」などと曖昧な回答。これに果たして「誠実さ」はあるのでしょうか。
 そして殿堂入りした際には「球界には過去を水に流すべきことがある。野球そのものに目を向けようじゃないか。素晴らしい実績を残しながら、殿堂入りできない選手がいる。本来はそうあってしかるべきなのにどうして殿堂入りできないのかと思う」と発言。
 いや,これどう考えても黒やんけ。禁止薬物使用してた仲間をかばう発言やんけ。

③BBWAAよ!これが俺の理論武装だ!

 一度,I-RODがクロかシロかは置いておいて,BBWAAの話に戻る。私が勝手に「2022年問題」と呼んでいる先出のボンズ・クレメンスとオルティスの殿堂入り問題。先程の記事においては

2022年
ボンズ,クレメンス ⇒ 殿堂入り
オルティス     ⇒ 殿堂入り

もしくは

2022年
ボンズ,クレメンス ⇒ 殿堂入り不可
オルティス     ⇒ 殿堂入り不可(今後も不可)

としない限り,整合性が取れないと記した。しかし,BBWAAにはもう一つ,整合性を取るための術があるのだ。

ここにはもちろん「スポーツマンシップ,誠実さ,品格」を用いる。

2022年
ボンズ,クレメンス ⇒ 殿堂入り不可(先程のエピソードなどから分かる通りスポーツマンシップ云々が欠落している為)
オルティス     ⇒ 殿堂入り(スポーツマンシップ云々を満たしている為)

 こうしてしまえばいいのだ。「アメリカ野球殿堂ではステロイド使用を問題視していません。単に人間性で選びました」と言ってしまえばもう大丈夫。
 いきなりこんなことを言い始めると恐らく「ボンズとクレメンスを落選させたいが為の言い訳だろ!」と異論が噴出するかもしれない。だがこれも大丈夫。
 「以前にもステロイド疑惑のあったイバン・ロドリゲスを一年目で殿堂入りさせてますのでボンズ,クレメンスをわざと落選させる意図はありません。ちゃんと人間性だけを見てます。ステロイド使用は選考上全く関知してません。」と回答すればもう平気。最強やん?
 しかもこの理論を用いることによって同年に資格を得るA-RODへ投票しなくても整合性を保つことができるし,「疑惑」止まりのオルティス,I-RODの殿堂入りについても全くケチがつかないのだ。ここまでBBWAAに忖度をできる理論武装は存在しないのではなかろうか!!!

「いやいや,ステロイド使用した時点でそもそもスポーツマンシップ欠落してね?」という意見は僕の理論武装が一瞬でボロボロに砕け散るのでやめようね。

最後に

 もうこれは”第二章「What is doping?」Vol.1「トランスジェンダーのスポーツ参画とスポーツマンシップ」”でも同じ事を言ってるんですけど,結局こういう「スポーツマンシップ」や「誠実さ」なんてものは野球での実績のように数値化できないので記者の主観に依るところがすべてなんですよね。極端に言えば「こいつキライだから投票しねーわ」なんて判断も可能な訳です。別にI-RODの殿堂入りが不満でぶち切れているのではなく,この日和見的な感覚が気持ち悪いというかなんというか・・・。とにかく,I-RODの殿堂入りは良しとして他の疑惑者を許さないスタンスはどうにもこうにも今後,尾を引く可能性はあります。

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