見出し画像

MLB「5ツールプレイヤー」について

 表題の「5ツールプレイヤー」という言葉はご存じだろうか。いわゆる「走攻守3拍子揃った選手」という野手にあてがわれる表現が一番近いものだが,「5ツールプレイヤー」の意味はもっと狭義だ。そもそも5ツールとは“高いアベレージを残すことのできる『hitting for average』”,“本塁打などの長打を多く放つことのできる『hitting for power』”,“塁に出れば盗塁ができ,1本のヒットで一気にホームまで生還が可能な『baserunning skills and speed』”,“内・外野の奥深くから捕殺を可能にする強肩『throwing ability』”,“どんな打球にも追いつくことができ,時には芸術性をも感じさせる『fielding ability』”の5つの項目を指しており,「5ツールプレイヤー」とはこの5つを高い水準で兼ね備えている選手のことである。
 「こんな夢のような選手なんているのか?」と感じる方もいるかもしれないが球界に数人単位で存在する。身近なNPBで言えば「柳田悠岐」や「山田哲人」,「丸佳浩」,「秋山翔吾」,「鈴木誠也」らが最たる例だ。歴代の選手でいえば,「長嶋茂雄」や「山本浩二」が挙げられるであろう。MLBで言えば大谷の同僚でおなじみ「マイク・トラウト」や今年のMVP「クリスチャン・イエリッチ」と「ムーキー・ベッツ」,インディアンスの「フランシスコ・リンドーア」や「ホセ・ラミレス」も該当するだろう。こちらも歴代の選手でいえば,「バリー・ボンズ」や,私が先日サイン付レプユニを購入した「ラリー・ウォーカー」,以前記事にもした「アレックス・ロドリゲス」,「ケン・グリフィー・ジュニア」らが該当する。

画像1

 そして誰もがこの名を期待したであろう我らが総統ジョシュ・ハミルトン」もその1人だ。A’s戦で落球したから守備はお粗末?黙れ粛正するぞ。
 主な選手の名前を挙げて分かるとおり,スター選手が非常に多いことが見てとれる。私を含め,「5ツールプレイヤー」の魅力に取り憑かれている野球ファンは多くいるのではないだろうか。
 今回の記事では「5ツールプレイヤー」について色々な話をしていきたい。

MLB史上最強の5ツールプレイヤーは誰か


 またまた「最強」なんて陳腐でダサい言葉を使って恐縮なのだがご容赦していただきたい。
 まずご紹介したいのはウィリー・メイズ(SFなど)。1954年に首位打者を獲得した翌1955年に51本塁打を放ち本塁打王を獲得する。さらに翌1956年には40盗塁を決めて盗塁王に輝くなど打撃走塁のツールは完璧である。1954年のワールドシリーズにおける「ザ・キャッチ(動画)」に代表されるように守備のツールも特出しており,ゴールドグラブ賞を12回受賞している。

画像2


 バリー・ボンズ(SFなど)も外せない。盗塁王の獲得経験はないものの,1996年には史上4人しか為し得ていない40本塁打40盗塁)を達成。通算でも762本塁打514盗塁という記録を残し,唯一の500本塁打-500盗塁を達成している選手である。(いわずものがな本塁打数は歴代MLB記録)守備でもゴールドグラブ賞を7回受賞するなど非常に優れた才能を有していた。また面白い話であるが「バリー」の名付け親は奇しくもウィリー・メイズなのだ。
 ケン・グリフィー・ジュニア(SEAなど)もいいかもしれない。キャリアを通じて184盗塁と,比較的多くはないが,本塁打王4回の打撃力に加え,足の速さを生かした歴代屈指の外野守備でゴールドグラブ賞は10度獲得している。

40本塁打40盗塁達成者一覧
○「禁断の肉体改造」ホセ・カンセコ(OAK):1988年 42本塁打40盗塁
○「バルコ・スキャンダル」バリー・ボンズ(SF):1996年 42本塁打40盗塁
○「バイオジェネシス・スキャンダル」アレックス・ロドリゲス(SEA):1998年 42本塁打 46盗塁
○「広島カープOB」アルフォンソ・ソリアーノ(WSH):2006年 46本塁打 41盗塁

あっ(察し)

「惜しい!」4ツールプレイヤー達


 球界には5ツールプレイヤーに肉薄した4ツールプレイヤーも一定数存在した。思いつくだけ挙げてみるが皆さんも4ツールプレイヤーを挙げてみてほしい。

○『hitting for average』以外を兼ね備えた選手
 MLB:マイク・キャメロン(SEAなど),アンドレ・ドーソン(MONなど),カルロス・ゴメス(MILなど)
 NPB:秋山幸二(西武など)

○『hitting for power』以外を兼ね備えた選手
 MLB:イチロー(SEAなど),ディー・ゴードン(MIAなど)
 NPB:青木宣親(ヤクルトなど),井端弘和(中日など)

画像3

○『baserunning skills and speed』以外を兼ね備えた選手
 MLB:エイドリアン・ベルトレ(TEXなど),ノーラン・アレナド(COL)
 NPB:村田修一(横浜など),前田智徳(広島)

○『fielding ability』以外を兼ね備えた選手
 MLB:ブラディミール・ゲレーロ(MONなど),ゲイリー・シェフィールド(FLAなど),アルフォンソ・ソリアーノ(広島,NYYなど)

※『throwing ability』以外を兼ね備えた選手は思いつきませんでした、、、マイク・トラウトはこれにあたるのだろうか。

 見ての通り,上記の選手達も5ツールには及ばずとも名前は良く聞く選手ではなかろうか。5ツールと同じように4ツールプレイヤーも決して多いとはいえず,「守備走塁に秀でているが打撃は全然ダメ」,「天才的な打撃センスを有するも守備が下手」,「全体的に平均的で打撃or守備が少し秀でている」といった「1~3ツールプレイヤー」と呼べる選手が大半であろう。

「第6のツール」の出現と「ツールの分類」について


 2000年代初頭にオークランド・アスレチックスビリー・ビーンGMが統計学を用いた手法でチーム作りを開始し出塁率の重要さに気づくと,新たな「第6のツール」として“batting eye”(いわゆる選球眼)を有する打者に重きを置くようになった。当時の最たる補強の例が「スコット・ハッテバーグ」だ。バットを追い込まれるまでは極力振らず,驚異の選球眼で四球を選ぶ様はさぞ斬新なバッティングスタイルであったことだろう。
 同時にこれまで評価されてきた「犠打」,「盗塁」,「得点圏打率」などの価値を見直したりと,現代のデータ野球の礎を築いたのだ。(これ以上は話題がまた変わってしまうので別の機会に)

 そして私が主張したいこともある。『baserunning skills and speed』の『speed』と『baserunning skills』は別々に分類するべきだと声を大にして言いたいのだ。足が速いことと盗塁・ベースランニングが上手いことは必ずしも相関するわけではないと思うのだ。今年のマニュエル・マーゴット(SD)を例に挙げよう。マーゴットは『speed』のツールでは秀でており,守備でもDRS+9など足を生かしたプレーを披露している。しかし今季の盗塁成功率が.524(21-11)ということからもわかるとおり『baserunning skills』のツールは少なくともまだプロレベルではない。これはマーゴットに限った話ではなく,他にも同じような選手がいるとおもう。

画像4

 これらを踏まえると野手のツールは従来の5ツールではなく,『hitting for average』,『hitting for power』,『speed』,『baserunning skills』,『throwing ability』,『fielding ability』,『batting eye』の計7ツールが正しい形なのではないだろうか。こうなるともう「才能」&「練習」&「指導などのチーム方針」が完璧に絡み合わない限り,7ツールプレイヤーの出現はめったに望めないことが容易に分かる。

「5ツールプレイヤー」はチームに必要か


 MLBにおいては,5ツールを兼備するプレーヤーこそ理想的選手像である,と長く考えられて来た。だが,一部選手育成部門担当者やアナリストの中には「現実にはそのような選手は極めてまれであり、仮に大きな可能性を内包するプロスペクトが存在したとしても、突出した運動能力を有するアスリートは一般的に未熟で完成度が低く、野球特有の技能を体得するまでに多大な歳月を必要とする傾向が強い」という意見も存在する。最近では「そもそも5ツールは一人の野手が持つべき才能なのか,5ツール以上の最重要ファクターが存在するのではないか」と5ツールプレイヤーの存在意義に根本的疑問を投げかける声が,一部統計学専門家らの間でも提唱されている。要するに5ツールプレイヤー育成のために時間と資金を割いてもチームが優勝できるわけでは無いのだ。毎年とんでもないWARをたたき出しているマイク・トラウト擁するロサンゼルス・エンゼルスも,トラウトの実働7年のうち1回しか地区優勝できていない現状がある。

画像5


 しかし未だに5ツールプレイヤーは多くの野球ファンから羨望されており,観客を呼び込める「スーパースター」という観点からすれば5ツールプレイヤーに勝るものはないのではないかと考えている。

最後に

 私が好きな野手を挙げさせて頂くと「ジョシュ・ハミルトン」,「アレックス・ロドリゲス」,「バリー・ボンズ」,「ラリー・ウォーカー」,「ブラディミール・ゲレーロ」,「ケン・グリフィー・ジュニア」などを筆頭に4~5ツールを有する選手が非常に多い。打って,守って,走れる選手というのは子供の時から憧れだったという人は私以外にもいるのではないだろうか。
 5ツールプレイヤーは欲するにはあまりにも希少であるが,その輝きたるや他のプレイヤーとは比にならないものがある。その輝きを求めてはならないと分かっていても諦められないのが野球人としての性なのではないだろうか。


☆フォロー&コメント大歓迎です

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?