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MLB「BAD BAT 事件簿」

 『おい,のび○!野球やろうぜ!』はたまた『おーい磯○!野球しようぜ!
 友人を野球に誘い出す謳い文句としてはこの二つが日本のトップシェアであることだろう。ジャ○アンもナカ○マも誘い出す時には共通して「バット」を担いでやってくる。前者に至っては日々の行動故に畏怖しかない。

言うまでもないが,このように野球をするには「バット」という道具が不可欠となる。どんな選手もバットが無ければホームランを放つことはできないのだ。当然,野球の長い歴史を語る上でもバットとの関係性は切っても切り離せない存在となっている。
 そこで今回はMLB「BAD BAT 事件簿」と題し,バットに関するMLBでの事件を少しご紹介したい。(バッドとバットをかけてます😊バッドとバットをかけてます😉大切なことなので二回言いました😉

事件File①「パインタール事件」

 1983年7月24日,旧ヤンキー・スタジアムにて行われたニューヨーク・ヤンキース×カンザスシティ・ロイヤルズの試合において事件が起きる。9回表二死一塁,3-4のロイヤルズ1点ビハインドという場面でロイヤルズ主砲のジョージ・ブレットがヤンキースのクローザー,リッチ・ゴセージ(元ダイエー)から逆転ツーランホームランを放った。
 しかしこの直後,ヤンキース監督のビリー・マーチンが球審のティム・マクレランドに対し,ブレットのバットに塗られた滑り止めの松ヤニパインタール)が,MLBの公認野球規則で規定された「グリップの端から18インチ以内」という範囲を超過して塗られている疑いがあるとして,ブレットの使用したバットを検査するように要求したのだ。
 マクレランドをはじめとする審判団はホームプレートの長さ17インチを用いてブレットのバットに塗られたパインタールを計測。タールが規定の18インチを超えて塗られていると判断し,先ほどの本塁打は違反したバットを使用した「反則打球」であったとして、ブレットにアウトを宣告。ブレットのアウトが3アウト目であるため試合終了がコールされ、ヤンキースの勝利となった。(YouTube動画リンク
  当然,ブレットは判定に激怒し審判の元に鬼の形相で駆け寄った。このシーンはMLBの中でも屈指の名シーンだろう。ロイヤルズのディック・ハウザー監督も猛烈に抗議したが,判定は覆らなかった。

 実は以前からマーチン監督やヤンキースの選手達はブレットのバットに塗られたパインタールが野球規則に違反していることに気付いていたが,あえてすぐには指摘せず,いざという時に指摘しようと決めていたのだ。まさに絶好の機会でブレットの違反を指摘し勝利をもぎ取ったのだ。そのためブレットの一打は「決勝本塁打」ならぬ「決敗本塁打(game-losing home run)」と評された。

(画像)当時のバット。確かにバット中央部までタールが付いている。

この事件にはまだ続きがある。実はMLB公認野球規則の「松ヤニを塗ってよいのは18インチまで」という規則は,「松ヤニを塗ることで打球飛距離を向上させることができるから禁止する」という意味で設けられているのではなく,「松ヤニが広範囲に塗られていると,ボールに松ヤニが頻繁に付着してボール交換回数が増えてしまうから禁止する」という,単に経済的な理由で定められたものであった。そのためロイヤルズが判定の見直しを求めて行われた審議ではロイヤルズの主張が認められ,ブレットが逆転本塁打を放った後の9回表2死,5-4のロイヤルズ1点リードの場面から試合が再開されることとなった。
 同年8月18日に行われた再開試合は9回裏にヤンキースが三者凡退に倒れ、ロイヤルズが5-4で勝利。1ヶ月越しの勝利をロイヤルズが取り返したのであった。

事件File②「コルクバット」の使用

Case:サミー・ソーサの場合

 通算609本塁打・1990年代~2000年代の代表的スラッガー,サミー・ソーサ。シカゴ・カブスに所属していた98年・99年にセントルイス・カージナルスのマーク・マグワイアと繰り広げた熾烈なホームランダービーは日本人でもよく知っていることだろう。そんな選手でさえ,1本のバットによって厳しい処分を受けることとなる。(もっとも,違うことで大きなバッシングを浴びることとなったが…。)

 全盛期は過ぎたものの,主砲としては十分な活躍を収めていた2003年,事件が起きる。6月3日に本拠地のリグレー・フィールドで行われたタンパベイ・デビルレイズ戦にて,バットを折られセカンドゴロに倒れる。しかしこの折れたバットが物議を醸すこととなる。(YouTube動画リンク
 バットの破片の様相に審判はすぐさま異変を感じる。本来一つの木から作られるバットはバット表面に着色がない限り単一色であるが,ソーサのバットは内部だけが明らかに茶色がかっており,それがコルクであることに気づくのに時間はかからなかった。当然ソーサは即刻退場,7試合の試合出場停止を命じられることとなった。

 コルクバット発覚後,ESPN等のスポーツ誌は,1919年のブラックソックス事件に関わる有名なフレーズをもじって,"Say It Ain't Sosa!"(嘘だと言ってよソーサ!)という見出しをつけこの事件を報じた。本人は「試合前の打撃練習のエキシビジョンで使用するためのものを誤って使用した」と弁明したが,コルクバットは本来のバットと比較してかなり軽量であるため,この弁明の信憑性というのはあまりにも低い。
 当時,「打球の飛距離を伸ばすことができる」と噂されていたコルクバットを使用し,処分を受けた選手はいたが,ソーサの使用はとりわけ波紋を呼んだ。そんな中,物理学の専門家からは驚きの検証結果が報じられた。大学教授であるロバート・K・イデア氏によると「少し軽いバットを使うと、ボールに当たったときの飛距離が短くなる傾向がある」,「普通の木のバットで打ってだいたい114メートルの飛距離が出る打者が、コルク入りバットで打つと、約90センチ短くなる可能性がある」という。この検証結果が出てからというもの,公式戦でコルクバットを使用するものはいなくなった。

Case:アルバート・ベルの場合

 こちらも,8年連続30本塁打100打点,実働12年ながら通算381本塁打を記録したスラッガー,アルバート・ベル1990年代屈指のトラブルメイカーとして君臨した彼もまた,コルクバットの使用者として有名だ。


 1994年7月15日のクリーブランド・インディアンス対シカゴ・ホワイトソックスの一戦で事件が起きる。ホワイトソックスの監督であったジーン・ラモントが、ベルの使用しているバットを調べるように審判に進言したのだ。ソーサの一件とは違い,バットが折れて中身が露わになったわけではなかった為,ラモントが如何にして察知したかは不明であったが,彼の抗議を受けてベルのバットは審判の控室に保管され,試合後に調べられることとなってしまう。
 実はこの時,インディアンスのマイク・ハーグローヴ監督はベルがコルクバットを使用していることを知っており,バットが調べられてしまうと処分は避けられないと感じていた。そこでハーグローヴ監督は妙案を思いつく。
 リリーフ投手のジェイソン・グリムズリーを控室に潜り込ませ,バットをすり替えるように命じたのだ。グリムズリーは球場の狭い換気口を伝い,バットが保管されている部屋に天井から侵入すると,ベルのコルク入りバットをチームメイト,ポール・ソレントのバットと交換。その後,ブルペンまで戻り,見事に作戦は成功。
…とはいかず,試合後に審判の控室の天井が一部剥がれ落ちているのが見つかり,誰かが天井から侵入したことはバレバレ。保管してあったはずのベルのバットを見てみると,「ポール・ソレント」という文字が刻印されたバットにすり替わっていたのだ。
 なんとも間抜けな話であるが,結局ベルはこの一件により7試合の出場停止を科せられるのであった。

事件File③「スーパーボールバット」の使用

さすがにここでジェネレーションギャップは生じないと願っているが,皆さんは「スーパーボール」をご存じだろうか。滅茶苦茶跳ねる小さなゴムボール,子供の頃はあれでよく遊んだものだ。なんと,そんなスーパーボールをバットに詰めて使用した選手も存在したというのだ。
 1974年9月に行われたニューヨーク・ヤンキース対デトロイト・タイガース戦にて事件が起きる。当時ヤンキースの名三塁手であったグレイグ・ネトルズがバットを折りながらもヒットを放つも,審判からアウトを宣告されてしまう。タイガースの捕手,ビル・フリーハンがネトルズの割れたバットからこぼれ落ちたスーパーボールを発見したからである。
 ネトルズは「シカゴのヤンキースファンから”幸運のバット”としてもらったもの」と弁明したがもっとうまい言い訳はなかったのだろうか。
スーパーボールをバットに詰めた検証動画リンク

 因みに,,,先ほどご紹介した「パインタール事件」にて,最初にジョージ・ブレットのバットが規則違反であることに気がついたのはこのネトルズなのだ。「お前が言うな!」と感じた野球ファンも多くいたであろう。しかし違反をする者が最も違反に詳しいとはなんとも皮肉なことか。

事件File④「違反バット」の嫌疑

 1996年,オリオールズのデービー・ジョンソン監督はアルバート・ベルの違反バットを見抜いたラモント監督のように,ある選手に疑いの目を向けていた。同年に高卒3年目にして打率.358 36HR 123打点 15盗塁 141得点 215安打 OPS1.045という成績を残し, 首位打者・シルバー・スラッガー賞を獲得したアレックス・ロドリゲスである。9月1日のシアトル・マリナーズ戦にてジョンソン監督はA-Rodが打席に入ると「バットに細工がしてあるはずだ!」と審判に訴え,バットの交換を要求。A-Rodは苦笑しながらもジョンソン監督の要求を受け入れ,チームメイトであったケン・グリフィー・ジュニアからバットを拝借。なんとそのバットでホームランを打ってしまうのだった。これにはジョンソン監督も穴を掘って埋まりたかったに違いない。
YouTube動画リンク

(ただ,今思えばこの嫌疑の目もあながち間違いではなかったと感じる。)


最後に

 昨日景気付けにシャンパンを買ったのですが,瓶にコルクがついており,「そーいやコルクバットとかあったよな~」と思い書き下ろした次第です。今ではバットに関する事件は特にありませんがブライス・ハーパーの独立記念日バットとか最高ですよね。バットの中は弄れない分,模様や色で華やかに彩ってほしいものですよね。


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