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【NYY】The Wonderful Wizard of Oswaldo

ちょうど1年前,MLBは選手会とオーナー陣による労使協定交渉が混沌を極めており,メジャーリーグ史においても数少ない「ロックアウト」という事態に陥っていました。
当時のNYYといえば,ロックアウトまでに正遊撃手の確保ができず,クエスチョナブルな状態で厳冬に突入。当時市場に出ていたGalvisやSimmons,はたまたKiner-Falefa獲得を進めていくと目されていました。

しかしですよ,その状況下において私がチョイスすべきと推していたのはOswaldo Cabreraであったことを覚えていますでしょうか。

当時のCabreraは,2021年シーズンに2Aでブレークアウトを果たし,オフにはRule5プロテクトで40人ロスター入りを達成したばかりでした。

このnoteで私が述べていたのは以下のとおり。

①走攻守の完成度からCabrera遊撃手起用には一定のメリット
②マイナーでもシーズン30HRに肉薄するパワーバットを下位打線に置く光景は楽しみ
③スイッチヒッターであることも右打者ばかりの打線を抱えるチームにとってはプラス材料
④両翼守備にもチャレンジしてくれれば帝国謹製スーパーユーティリティー爆誕

では実際にCabreraが過ごした2022年シーズンはどのようなものになったのでしょうか。振り返ってみます。

★春季キャンプでのアピール不足

Cabreraは満を持してスプリングトレーニングで試合出場を果たし,グランドスラムを放ちましたが,6試合で僅か2安打に留まるなどアピール不足。
結果的に開幕ロスター入りすることはできず,3Aでのスタートが決定しました。

実はこの際にも遊撃のみならず,二塁・三塁にも就いており,守備起用に関しては首脳陣もポリバレント的な考え方をしていたことが伺えます。
また,打撃に関してもCabreraのみならずその他のNYYプロスペクトがさらに苦戦を強いられていたために,私としてはそこまで悪い印象はありませんでした。

★3Aでの不振・怪我

2021年の最終盤には3A昇格を経験し,スモールサンプルながら9試合で5HRを放っていただけあって,私も順調なステップアップを期待していたわけで,開幕直後に猛打賞を記録した日には「MLB昇格は秒読みなんだろうな」と感じていました。

しかしここからの大不振は見事なもので,4月9日からの7試合では僅か1安打に封じ込められ,4月の月間成績はBA.209・OPS.677・23三振という悲惨な結果に。5月に入っても成績は悪化の一途を辿り,今度は肩を負傷。2ヶ月の離脱を余儀なくされます。

「MLBで活躍」どころか「MLB昇格」すら大きく遠のく状況でありましたが,当時NYYは破竹の勢いで勝ち星を重ねつつあり,マイナーからの底上げが必要無かった位置にありました。

一方では,Anthony VolpeやOswald Peraza,Jasson Dominguezら他の野手プロスペクトも軒並み大不振に陥っていたこともあって,若手好きの自分としては大変辛い時期を過ごすことに。彼らは5月からV字回復を見せてくれたのが救いでした・・。

★復帰後の覚醒。そして…

7月4日にLow-Aで出場を果たすと,同12日には3A復帰。ここからCabreraの見せた大立回りは圧巻でした。
復帰戦初日からHRを放つと,7月24日から9試合連続安打(12安打・3HR)の大活躍を見せると,そこから1試合の無安打を挟んでなお8試合連続安打。復帰後の3A成績に限れば,25試合でBA.330・7HR・OPS1.040というもの。
故障前は32.6%という危険水域にあったK%も,復帰後は19.8%まで改善させていた点もお見事👏。

元々の売りであった守備も良好で,Baseball Prospectus算出のFRAAにおいては複数ポジションを守りつつも7.1を記録
同時期にはDJ LeMahieuのコンディション不良が報じられるようになり,Cabreraのメジャー昇格が高まっていました。

そんな最中,3Aにおいて興味深い動向がありましたよね。
ヤンキース入団以降,SS・2B・3B起用が続いていたCabreraが,右翼手として2試合先発したのです。これは丁度Matt Carpenterが足を骨折した時期であり,「ひょっとしてCabreraを内外野に就けるUTとしてデビューさせるのでは…?」という期待が生まれました!これは私が2月から構想,,いや妄想していたプランでもあります。

実際にこの直後の8月17日,Cabreraは念願のアクティブロスター入りを果たし,同日にはMLBデビューを飾ることになったのです。

★センセーショナルな守備での貢献

ベネズエラから駆けつけた両親が見守る中,デビュー2試合目にて初安打を記録したのは見ていて嬉しかったですね!マイナーで見せていたリフト技術が通用していたのも安心でした。

打撃においては2試合連続猛打賞を記録するなど片鱗は見せていましたが,残念ながら8月度の本塁打はゼロ。(これは3度もあった機会をOakland Coliseumに阻まれた感はありますが・・。月間成績-BA.235/OPS.611という数字からも平均を下回るパフォーマンスであったことが分かります。

しかしこの成績であっても,当時のファンの中に「Cabrera不要論」なるものを唱える人は皆無でありました。それは何故か。

それは連日連夜で披露された超ファインプレーの数々によるものです。

まずは8月19日のTOR戦,MLB昇格後ライトでは初めての守備機会で見事なるHRキャッチ。当時負けを重ねていたNYYにパッションを与えるシーンでありました。

翌日の試合では三塁手として先発し,ネット際の飛球にファインダイブ。タフでハートの熱い選手を好むニューヨーカーの心をがっちり掴みます。

さらにその翌日には本職の遊撃手として先発し,手際の良いジャンピングスロー。言うまでもありませんが,NYの貴公子を彷彿とさせる所作ですよね。

そこから僅か2日後のサブウェイシリーズでは,同点を阻止する正確無比なスローイングを披露。これは先述のHRキャッチに続く2回目のライト出場であり,マイナー含めても僅か4度目の外野出場です。驚きですよね。このあたりから,Cabreraの名前が他球団ファンにも知られていくようになった印象です。

Cabreraのスローイングはこれに留まらず,最終的には右翼手として6捕殺・左翼手として1捕殺,しかもそれを僅か270イニングで達成しているのです。(外野手におけるチーム最多数)

同様に,マイナーで経験のなかった一塁手起用にも応え,同僚Marwin GonzalezのUTポジションを完全に奪い取る結果となりました。

★Oswaldo Cabreraの守備指標一覧
Pos Inn DRS UZR OAA
1B 13.1 ±0   ---  ±0
2B 19.0 +1   ▲0.5 +1
3B 28.0 +1   ▲0.1 +1
SS 70.0 +2   ±0.0  +1
LF 70.0 ±0   +0.5  ±0
RF  208.2 +9  +6.4   +1

★秋にようやく本領発揮

9月7日のMIN戦にてキャリア初となるサヨナラ安打を放ちますが,その時点でのOPSは4割代に低迷。守備では真価を見せていたものの,依然として打撃力には疑問符が付いていました。

ここでCabreraに幸いしたのは,負傷者続出によってこの打撃成績であっても出場機会を得られたことでしょうか。これにより実践の中で打撃フォームの調整を続けることができましたし,MLBレベルでのゾーン管理能力を培うことができたのかもしれません。

その成果がようやく実ったのが9月11日のTB戦。5番打者に座ったCabreraは第一打席目で得意とする低めの速球を上手くリフトに乗せ,打球は遥かライトスタンドへ。”彼らしい”本塁打がMLBの舞台で生まれました。

以降,完全に流れに乗ったCabreraは快打を連発することとなります。
9月21日のPIT戦では初回にグランドスラム。元NYYプロスペクトであるRoansy Contrerasのスライダーを痛烈に捉えました。(助手ちゃんの心境は複雑であったが・・)

この間にはゾーン管理系の指標は高水準に傾いていき,BB/Kにも如実に反映されていた印象です。

Fangraphsより。初HRの23試合目以降からの良化が著しい

最終的には9月だけで5本塁打を記録し,OPS.827の活躍。シーズントータルでも44試合OPS.740 wRC+111fWAR1.5/rWAR1.9という期待以上の結果を残しました。

秋の舞台・ALDSにおいても1勝2敗で迎えた絶体絶命の1勝1敗の拮抗した場面で渾身の勝ち越しツーラン。この一発が逆王手・シリーズ突破に繋がりましたよね。ルーキーらしからぬバットフリップには惚れ惚れしたファンも多いのではないでしょうか。

★シーズン総括。そして2023年。

振り返ったように,一定の期待を受けたもののシーズン序盤には不振と怪我に泣くことに。しかし着実にマイナーで結果を残し続け,外野にも就けるスーパーユーティリティーとしてデビュー。守備だけではなく,打撃でもインパクトを残すことに成功したといってよいでしょう。(高BABIPやGB%の上昇は気になるところですが。課題は挙げたらキリがありません)

そして迎える2年目のシーズン。Cabreraに期待される役割はどのようなものになるでしょうか。Depthを確認してみます。

2B Torres/LeMahieu/Cabrera/Peraza/(Volpe)
3B Donaldson/LeMahieu/Cabrera
SS IKF/Peraza/Cabrera/(Volpe)
LF Cabrera/Hicks/Stanton
RF Judge/Cabrera/Stanton

本職の内野には同じUTのLeMahieuやIKFがおり,TorresとDonaldsonもスタメンを張る予定。また昨年デビューしたPerazaに加えて,NYY№1プロスペクトのAnthony Volpeの登場もあります。
と考えると,今季Cabreraの起用法は外野(主にLF)を守りつつ,内野の数合わせにも使用される形でしょうか。Benintendiへの残留交渉も噂されましたが,現時点では左翼手補強を行わずに今日を迎えていますので,CabreraがLF争いのトップランナーとなりそう。

これはファンの肌感覚ですが,CabreraのLF守備はRFに比べてやや打球判断等が芳しくないように見えたので,そこだけ不安です。これは単純に数十イニングしか経験がないからでしょうがね。また,あれだけ守備のバリューがあるのに,LFに就かせるのはどうなの?とも。鈍足には難易度の高いヤンスタのLFなら納得だけどさ。

★リーグを代表するスーパーUTとして

最後になりますが,彼への願望を再び書かせてください。

冒頭で語ったように,私の妄想がそこそこ叶えられたためにMy Favoriteに押上がっています。ここから彼に臨むのは以下の点でしょうか。

・2022年同様に,コンスタントに内野・外野での出場を!
・資質はあるためシーズン15HRを残して!
・課題の右打席でも成果を!

というもの。今季と同じUT起用を受けつつも,よりハイレベルな打棒を披露してもらいたいですね!久々の野手プロスペクトの活躍に我々ヤンキースファンの胸は躍るばかりです・・!!


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