『デカメロン』読書メモ 第9日目

第9日目はテーマなしで自由に語る。どこのテーマにも入らない話を寄せ集めたのかな? どれも短い話が多い。

第一話は、二人の男にしつこく言い寄られる女が、一人の男には埋葬された遺体と入れ替わって棺に入るように、もう一人の男にはその遺体を自分の家まで持ってくるように、実行できたら思いを遂げさせてやるという条件を出すんだけど、二人は完遂できない。難題婚の要素があったり、落語の「算段の平兵衛」みたいに死体が利用されたりという部分はおもしろいけど、あっさりと終わる。

第二話は、尼僧が男と密会している現場を取り押さえられるけど、院長も実は同じことをしていて……という話。院長があわてて頭巾の代わりに男のパンツをかぶってしまうところは吹き出してしまう。

第三話はまたまたブルーノとブッファルマッコがカランドリーノを騙す話。第8日第九話で二人に騙されたシモーネ医師が二人の協力者として登場。騙されたあとずっと都合よく二人に使われてるらしい。そう思うとちょっとやばい二人組だなという気がしてくる。

第四話は、同じチェッコという名前の二人の男のうち一人は美男子でもう一人は酒と博打が好きなダメ人間、理不尽な嘘でもう一人を陥れる話。理不尽すぎて笑いにならないんだけど、もっと理不尽に突き抜けてしまえば笑えるんだけどダメ人間のほうは最後に罰せられて終わる。同じ名前で対照的な二人ということで、ドッペルゲンガー、分身テーマの話として面白くなりそうなんだけど短く終わっている。

第五話はまたまたまたブルーノとブッファルマッコがカランドリーノを騙す話。第三話と第八日第三話が伏線(?)になっている。第八日第三話で全身を殴られたカランドリーノの妻が復讐を果たすんだけど、カランドリーノは笑いものにされ顔と頭をかきむしられただけなので帳尻はあってない。

第六話は、第五話に出てきたニッコローザの話。暗闇の中でベッドを取り違える、艶笑小咄ってかんじだけど、乙女のニッコローザが第五話では高級娼婦みたいになってるので、このあとどういう人生をたどったのか考えてしまう。

第七話は、妻が狼に襲われる夢を見た夫が、妻に今日は森に出かけないように忠告するんだけど、妻は無視して森に行き、夢のとおりに狼に襲われて大けがを負う。夢の内容を聞かされた妻が「人に悪しかれと願う者は人の悪夢を見ます」と夢分析しているのが興味深い。夫が森に出かけて行って、そのあとをつけていくとそこに狼が現れる。まるで夫が狼に変身したみたいに。表面的には性格の悪い妻が夫の忠告を無視して自業自得の災難にあう話だけど、実は、性格の悪い女は罰されるべきだという心理を描いた話ではないか?

第八話は、からかわれた男が仕返しする話。グルメで金持ちの食事に招かれたりおしかけたりして暮らしてる男たちの話で、犯罪者じゃないけどアウトローどうしの騙し合いみたいな。でもすごくシンプルで短い話。

第九話は、前口上から"女は弱く創られているので男に隷従しなければならない、男に反抗する女は罰せられて当然だ"という調子で、話の内容も、妻が言うことを聞かないのでソロモン王に助言を求めに行き、助言どおりに杖で足腰が立たなくなるまで妻の全身を殴ると、翌朝から妻は従順になった、という、ミソジニー全開なDV肯定話。第十話の冒頭で、「女王が話したこの物語を聞くうちにご婦人方は多少の呟きを洩らしましたが若い殿方はお笑いになりました」とある。ボッカッチョも女性にとっては笑えない話だということは認識してたってことだけど、"男性向け"に収録したということなんだろうか。

第十話は、司祭が夫婦に人間を騾馬に変える術を授けるといって、妻のほうを裸にして四つんばいの状態で……という話。そのまま艶笑落語になりそう。尻尾をつけるためと称してナニをアレするんだけど、それを見ていて「尻尾にしては場所が下すぎる」と抗議する夫にたいして「上のほうに着けるのはいきなりではうまくいかない」と返すのはつまりそういうことか。




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