プリンと風

プリンのプラスチックの容器をひっくり返して、底にある突起をぷちっと折った瞬間、突風が巻き起こった。キッチンの棚からなべやらフライパンが落ちる音が響く。全身をなぶる風がやんで、つぶっていた目を開けると目の前に得体のしれないものがいた。全身がクリーム色をしている、二足歩行で巨大な犬のような……生き物なのか?
「わたしはプリンの精霊です。あなたの願いを1つだけ叶えましょう。ただし、叶えられるのはお菓子に関する願いだけです」
いったいなんなんだ。幻覚を見てるのか、それとも夢か。
「プリンの精霊って……スーパーで買ってきたどこにでもあるプリンですけど……」
クリーム色の巨体がキッチンの空間にほとんどぎゅうぎゅうになっているように見える。大きく黒い眼がこちらを見つめている。犬のような顔が口を開いた。
「どんなプリンにも精霊がやどる可能性があるのです。しかし私が世界に顕現したのは200年ぶりです。1日に世界で作られるプリンの数を想像してみれば、それがどれくらい稀なことかわかるでしょう。さあ、願いを」
なるほど。これは夢だな。こんな夢ははじめてだけど。
「じゃあ、この家をお菓子に……いや、世界を、いやこの宇宙まるごと、生き物もお菓子に変えてください」
「よろしい。願いを叶えよう」
現れた時と同じように激しい風が起こり、目を開けると精霊は消えていた。
たしかに願いは叶ったらしい。部屋も自分の体もお菓子でできている。
問題は、いつまでたってもこの夢が覚めないことだった。


ろきせの今日のお題は「プリン」「風」
https://shindanmaker.com/981568

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