水と柚子

30年以上銭湯を営業していて、あれはなんだったんだろうと思うことが1つだけある。
いつもと同じように営業時間前に浴槽に水を半分ほど入れて、浴場の掃除の準備をしていた。ぼちゃんと音がして振り向くと湯舟に黄色くて丸いものが浮かんでいる。手に取ってみると柚子だった。思わず天井を見上げる。高いところに窓はあるが閉まっている。誰かが投げ入れたのかと脱衣場のほうを見てみても、従業員も誰もいなかった。手に持った柚子に鼻を近づけてみる。たしかに本物の柚子らしい。
なにかのお告げだろうかと思って、冬至でもないのにその日は柚子湯にした。湯船に浮かぶ柚子にお客はけげんな顔をしていたが、不思議な柚子のおかげで繁盛するようになったとか、その逆に商売が傾いたとかということもなかった。
ただ、最近は地域の銭湯もどんどん潰れていっているのに、いまでも営業できていることが奇跡みたいなものだとは思う。

ろきせの今日のお題は「水」「柚子」
https://shindanmaker.com/981568

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