気球と光

ゴンドラにくくりつけた気球にヘリウムガスを注入する。固定索を外すとゴンドラはふわりと地上から浮き上がった。上空1万メートルに到達すれば、ジェット気流によって太平洋を飛び越え、たった2日で北米大陸に到着する計算だ。
夕陽を背にして東に進んでいく。眼下には深い青色をした大海原がキラキラと輝いている。なにもかも順調だった。目の前にそびえている巨大な積乱雲以外は。真っ黒な雲の中でときどき紫色の雷光が走る。出発からまだ10時間ほどしか経っていない。なすすべなく積乱雲の中に突入した。
ゴンドラは上下左右に揺さぶられ、雨があらゆる方向から叩きつけられる。雷が気球に直撃すれば爆発してゴンドラごと粉々になるだろう。放り出されないように必死でゴンドラにしがみついていると、ぴたりと雨と揺れがおさまった。ゴンドラから顔を出すとそこは見慣れた自宅の書斎だった。なにが起こったのかわからず、ゴンドラから這い出して部屋の中を見回す。デスクや書棚、たしかに自分の部屋だ。居間に続いているはずのドアを開けてみると、そこも書斎だった。同じ部屋だ。その部屋のドアを開けるとまた書斎があった。何が起こっているのかわからない……いや、わかった。突然頭の中に理解が発生したというかんじだった。ここが、自分の頭の中から取り出された記憶から再現され作られた空間であること。別の銀河からやってきた異星人にここに連れられてきたこと。自分が同意すれば別の銀河や宇宙のあらゆる場所への旅に同行できるということ。
アメリカどころか地球を飛び出して別の銀河まで行くことになるとは、と思ったが、もちろん拒否するつもりはなかった。



ろきせの今日のお題は「気球」「光」
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