苺と知り合い

窓がびりびりと震えた。見ると、夜中なのに空が赤い光で明るくなって、そのあとドーンという音と震動が部屋全体も揺らした。きっと隕石だ。震動の大きさからして近くに落ちたに違いない。
落ちたのは裏山の方角だろうと懐中電灯を持って山道を登る。10分ほど登ったところで木が倒れてめちゃめちゃになっていた。あたりには生木が裂けた匂いと、火事のあとみたいな焦げ臭さと、なぜかカルメラのような甘い匂いが漂っている。人影が見えた。近所の人だ。道で会えば挨拶するくらいで、知り合いともいえないけど。木が倒れえぐれている地面の前に並んで立ちながら話しかけた。
「隕石ですかね」
「いや、違うと思いますよ。ほら……」
指さすところを懐中電灯で照らすと、えぐれた地面の中心に赤いものが見えた。それ自体が淡く発光しているようだ。明かりを消してみると、たしかに明るくなったり暗くなったりしている。あたりにたちこめている甘い匂いのせいか、苺ジャムみたいに見えた。
そのあとに起こったことはあまり憶えていない。その苺ジャムみたいなものが動いたと思ったら、隣に立っていた男の顔面に触手のようなものが伸びて、ひきはがそうともがきながら倒れるのを呆然と見ていた自分にも触手が伸びて……いや、たぶん無事に逃げることができたんだろう。気がついたら自宅にいたんだから。
何日かあと、あのときいっしょにいた近所の人を見かけたが、変わったところは何もなく、なぜか声をかける気になれなかった。隕石が落ちた場所にも行ってみたが、たしかに木が倒れ地面がえぐれていたが、それ以外なにも変わったところはなかった。雷が落ちたあとだといわれれば、そのように見える。だから、たぶん……なにも問題はないんだろう。


ろきせの今日のお題は「苺」「知り合い」
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