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澤村伊智「特撮なんて見ない」(ひねりが加えられた青春小説)

東京創元社の「紙魚の手帖」という雑誌(電子版)を創刊号から購読しています。以前は、「ミステリーズ!」というミステリー専門誌でしたが、ミステリーに限定せずSFやファンタジー、ホラーなども含む少し広いジャンルの文芸誌「紙魚の手帖」として数年前に変わりました。

私は短編連作のようなものは別として、連載小説は話を忘れてしまうので、その都度はあまり読まないでいます。最新号(Vol.15)でvol.3から始まった澤村伊智の「特撮なんか見ない」という全10回の連載小説が最終回になったので、まとめて読みました。

話は世界的な映画際の授賞式で、受賞した作品のプロデューサー佐倉真帆が、そのスピーチで高校三年生のときに製作した映画への感謝を述べるところから始まります。
そして、高校での特撮映画の製作への話が始まります。転校してきた男子生徒・湯浅が、自主製作する特撮映画の主演女優として真帆を勧誘します。真帆は受け取った脚本を読み、湯浅へ多くのダメ出しをします。真帆は、マニアの間では有名な特撮映画のプロデューサー石川天縫(てんほう)の孫娘だったのです。それを知った湯浅は、脚本を書き換えるとともに、真帆を自主映画のプロデューサーとして仲間に加わることを提案し、映画の製作を開始します。
真帆はプロデューサーとして才能を発揮し、映画製作に必要な出演者や、着ぐるみやジオラマなどを製作できる人を校内から見つけてきますが、集めたメンバーは学校では少し浮いた個性的な人ばかり。そして、主要なメンバー達は特撮や石川天縫の映画が大好き。こんなメンバーで映画製作はどうなるか・・・、というような、学園祭での上映を目指して特撮映画を製作する様子を描く青春小説として話は進みます。

これだけだと、「2005年のロケットボーイズ」と同じで、愛すべき個性的な面々による目標達成型の青春小説になってしまいます。

「特撮なんか見ない」には、単なる青春小説というだけでなく、ひねりが加えられています。1つは、話の中では映画の製作を止めるように脅迫状が送られてきて実害も出るのですが、その犯人は誰なのか?というミステリーとしてのひねり。もう一つは「特撮なんか見ない」というタイトルが意味するところは何なのか?というドラマとしてのひねり。

澤村伊智の小説は始めて読みましたが、「特撮なんか見ない」は、読みやすく楽しめる青春ミステリー小説でした。

前田ミックの扉絵のイラストも話の内容に合っていていい感じでした。


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