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掌編・短文・詩らしきもの

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掌編小説と短文と、 詩にしては、散文的なもの
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記事一覧

ぜんぶを明けわたしたりしないから、生きてこれたんだな、わたし

と、今さっき思った。
非常に冷静沈着で、非常に現実的で、しかし非常に弱くもろい、その人が、さいごの砦みたいに、わたしを守っているらしい。
非常に弱くもろいから、受け入れるものの代わりにはなれないのだけれど、ずっと動かずに、わたしを守ってくれているらしい。

明けわたしと取り込み

わたしは全部、明けわたしている、と、いいたいところだけれど、ほんとうに全部ならば、きっともっと毎日はたのしいはずだ。

中途半端に差し出して、残った部分を大切にかかえ、これはわたしていないのだから、きっと安心、わたしは傷つかない。

そんなことをしているから、泣くのだろう。

それでもわたしは、だいぶ明けわたしているよ。
そこにあなたを取り込んでいる。

今日の日記

図書館へ行き、本を借りた。今日はあまり泣いていない。
図書館へ着いて車から降りると、腕に陽が当たり、日焼けすると思った。
毎年、腕ばかり焼ける。

借りた本をかかえ、車に戻るときに一度泣いた。
車の中でも泣いた。
ドラッグストアでマスクを買わなくてはならないから、泣き止むことにした。
コンビニで、注文したものへの入金をした。
子どもの、学校での写真を買ったのだ。
わたしの子どもは、わたしの子どもの

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偽ラタトゥイユ 2

偽ラタトゥイユを作ってきた。偽だけあって、すぐにできた。こんなんならすぐにやれと、思ってしまう。
それで、ほんとうに目下することがなくなったので、すごくうれしい。
わたしの家の窓から、ゴミ集積場までの長い道が見えて、わたしはそ道を歩いて、ごみを捨てにいく。
ゴミを捨てるのは、八時半までに済ませなくてはならない。燃えるゴミの収集車は、八時三十五分になれば、わたしの家の窓から見える道を、ゴミ集積場まで

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長く伸びた雲

二階の窓を開けにいったら、そらに長く伸びた雲があった。長く伸びた雲に、お願いごとをする癖をやめたい。なんにも叶えてくれない。わたしが選ばないからだといった。選べない。
雲よりも水色のほうになりたい。奥がふかくて、境界線もないから。それでもわたしは、長く伸びた雲に、ありがとうといった。
開口一番に、自分は、といってしまう癖を、昨日みつけた。失敗の原因はわかっている。

偽ラタトゥイユ

暑いですね。
私はもうクーラーをつけました。
各所掃除、リビングに掃除機をかけたから、もうあとはのんびりしようと思ってる。
夕飯に、偽ラタトゥイユを作らなけはればならなくて、それはもうやってしまってもいいんだけれど、やらない。午後の二時くらいになったらでいいと思う。
午後の二時になれば、洗濯物を取り込まなければならない。あんまり長くほしておくと、黒とか紺色の、綿のTシャツなんかが、色褪せてしまうか

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コロッケを揚げる

コロッケを揚げる

たぶん一年ぶりくらいにコロッケを揚げたと思う。

幸せじゃない。
またバカなことをしてしまった。
信じられない。
信じない。

帰りたい。
どこかに。
何もないところ。

ランチ

何が食べたいと、あなたは聞いた。わたしはなんでもいいなんて、こたえた。なんでもいいなんてこたえるのは、よくないし、つまらないのかもしれないけれど、しょうがなかった。空腹だった。なんでもいいわけではないから、なんでもいいなんてこたえてはいけない、わたしはそう思いつつ、なんでもいいなんてこたえた。
「パスタ食べる?」
それでわたしは「パスタ食べる」とオウムみたいに反復した。

サラダとパスタと飲み物を

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散歩

有楽町のとなりには、銀座があることを、わたしは知らなかった。もう少し歩けば、和光があって、有名な時計があると、わたしの手をひいた。
暑い日だったから、手のひらと手のひらは、汗でぴったりと密着していた。指も皮膚もすべてとけて、いっしょくたになれたらいいのにと、はじめは思っていて、願っていたのに、いつの間にか、慣れた感覚になっているし、実際、とけている。こうしたほうがいいと言って、横断歩道を一つわたり

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梅雨入り

すっーっとしていて、いい鼻をしていると言ってもらった。
あなたはどういう鼻?
顔をあげて、鼻を見た。
私とはちがう鼻をしていたけれど、好きだと思った。
最近、鼻にできものができるのだと教えてくれた。
マスクをしているからだとこたえ、その生活はだいぶ前からなのだから、ちがうかもしれないと考え、あとは暑くなってきたからだと、付け足した。それでもだいぶ、てきとうなこたえだと思ったけれど、気にしなかった。

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手紙

手紙

ずっと、大事にしている手紙があり、それを昨日、読んだ。
病院に入院していた私は、誰かにべったりと縋りたいと思っていた。べったりと縋る人が欲しかった。親に縋りついた私は、ショウカフリョウを起こして、食べたものを吐いたのだと思う。
親がくれるソレっぽいものを食べ、吐き戻すのは、その行為自体に縋りつく価値があった。だから、辞められなかった。
モノよりもサイクルに嵌まり込んで、疲れていた。

私は、中学校

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朝の中学校

朝の中学校

中学校へ忘れ物を届けに行った。朝の中学校には朝の中学生がたくさんいた。朝の中学生は朝の中学生である友達に会うとおはようと言っていた。そして何か話していた。何を話しているかわからないけれど、話した後に、二人で笑うような話題なようだった。

朝の中学生は朝の部活をしていた。朝の部活に向かう途中の中学生もいたし、遅れそうで焦る中学生もいたし、静かに通路の落ち葉を掃く中学生もいた。
私は水筒を持っていた。

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私もいつか釣られるのでしょう

私もいつか釣られるのでしょう

私の得意なことは、釣りとアイコン制作です。

いつも行っている釣り場があります。自然と釣り堀を足して二で割ったみたいなところです。大自然の中で大自然の魚を釣っているわけではありません。自然の地形を利用した釣り場に、養殖の魚を放流しているのです。魚は、結構飢えている状態で放流されているらしいです。だから、釣れるのは当然と言えば当然なのです。

家族のみんなが、あまりにもかからなくて飽きてしまった頃に

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掌編  土曜の午前中

掌編 土曜の午前中

私にだって、ケンジに言えないことはあるのだから、ケンジにも、私に言えない秘密はあるのだろう。ケンジの中には、何か暗いところがあって、それが時々、膨らむ。そりゃあ、曇りがない人なんて、いないと思うけど。

ケンジを送り出してから、三日分の、彼の洗濯物を片付けた。大したものはない。ワイシャツは週に一度、クリーニングに出すみたい。パンツとシャツと靴下、ハンカチとタオルが三つずつ、それから部屋着のTシャツ

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