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わかってる

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ここ2、3日の日記

ここ2、3日の日記

金曜日
どういう天気だったか思い出せない。
雨が降ったかもしれない。木曜と金曜は雨が降ったのかもしれない。水曜日が暑かったのは覚えてる。
上の子どもが塾に通いはじめて、週に三度、車で送り迎えをするという習慣ができた。
「傘いる?」って聞かれたから、「いる人はいる」と、答えたと思う。そういう雨降りだった。塾から車なんて、すぐだから。でも、濡れたくない人は、傘をさしたいと思う。
上の子が忙しそうで、私

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わかってる 7

わかってる 7

カップルで、相手を交換してセックスできるところがあるらしいの。行ってみたくない?

私は、永井さんに持ち掛けた。相手を交換してセックスをする意味は、自分の相手が他の誰かとしているところを見て、少なからず興奮するという点にあるのだろうと、思っている。でも、永井さんが私をパートナーとして、その状況に興味を持ったり、ジレンマを感じたりは、考えにくい。案の定、永井さんは、私以外の女の子とできる、という要素

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わかってる 6

わかってる 6

「ねえ、弓川さんと本当にするの?」
「そりゃあ誘われたらするだろ」
「信じられない。あの子、メンタル危ない予感がするよ」
人のこと、言える立場かな。
「それは俺も思うけど、あの子、彼氏がいるらしいから、ただちょっと、やってみたいだけなんだと思う。いるんだ、そういう女は」
社員は交代で休日をとる。弓川さんは、週に四日の勤務である。木曜日、二人の休日が重ねてとってあった。私はいつも通りに、オフィスビル

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わかってる 5

わかってる 5

十件に三件も、電話に出てくれる。打率のいい地域だ。電話に出るどこかの母親。なあんだ、セールスか、の落胆。私はカーソルを電話番号の羅列から動かし、インターネット画面を立ち上げた。ここがどんなところなのか知りたくて、地図で調べた。新しくできたばかりの住宅街か。こういう地域は、新規で電話回線を引くと、似たような番号になることが多い。大きな河の側の、きれいに区切られた碁盤の目。田んぼだったところを、宅地開

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わかってる 4

わかってる 4

永井さんに、私はMっ気があるのだと伝えていたが、私にはMの要素はないと思う。それはいいとして、Mっ気がある女を相手にして、Sっ気のある男があれたこれややるのは、男の側はそそるんだろうか。いじめてくださいっていう女をいじめて、楽しいんだろうか。そういう人もいるのだろうが、永井さんは、違う気がする。あの人はもっと、やばい人だ。

ずっと、電話をかけている。部長が持ってきた今日の電話番号のリストは、外れ

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わかってる  3

わかってる 3

女をめちゃくちゃにしたい。というのが、永井さんの望みだった。女をモノみたいにしたい、モノみたいにめちゃくちゃしたい。

いたって普通のセックスをした後、永井さんは言った。
本当に相手がモノのようだったら、めちゃくちゃにしたいとは思わないはずだ、と、私は考えた。だから、永井さんは、女を、女のままにして、モノみたい扱いたいのだろう。

「そうされるのが好き」と、私は言った。モノみたいにめちゃくちゃにさ

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わかってる 2

わかってる 2

私が入社して二週間ほど経った頃、社員の一人が産休をとるため、送迎会がおこなわれた。この産休の社員の後継として、私は入ったのだった。会は、私と、あとは私と同じ時期に採用されたオペレーターの歓迎会も兼ねており、居酒屋の、大きな座敷をかりて催された。二十人くらい集まった。夏の終わりで、やっと夕方が、過ごしやすくなったあたり。

飲み会は、滅多にないことらしい。その日は朝から、どこかワクワクとした雰囲気が

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わかってる 1

わかってる 1

永井さんは、私の恋人ではないが、私たちはときどき、セックスをする。セックスをする場所は、お互いの家ではなく、ラブホテルでもなく、他のホテルでも旅館でもなく、例えば、夜のオフィスや、深夜の歩道橋の上や、ビルの中にあるひと気のないトイレや、ショッピングモールの駐車場だった。
永井さんにとって、セックスは趣味、またはスポーツと同じで、私のことは、同じ部活の仲間のようなもの、と、彼は言った。永井さんには、

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