記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

映画『PERFECT DAYS』

映画『PERFECT DAYS』を観てきました!今年初めて映画館で観た作品になります。上映が始まった頃にも、その後もちょうどいいタイミングがあれば行きたいと思っていたけどなかなか合わず、もう配信になってからでいいかなあ〜と思い始めていました。しかし、とあるきっかけがあって行ってきました!

この作品の前知識といえば監督がヴィム・ヴェンダースで役所広司が主演してること、どうやら劇中にかかる音楽が良いらしい&とにかく良い作品らしい、ということぐらい。とはいえヴィム・ヴェンダースの作品は『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』しか観たことないので監督についてはまあほぼ何もわかってないに等しいです。なんにせよ映画を観る時は先入観を取っ払って観るのが一番なので、もしまだこれからこの映画を観る予定だという人がいたらこの動画の下からは読むのをおすすめしません。ていうか今まで観るつもりがなかった人も、普段映画を観に行かない人も、この映画は観に行った方が良いです、本当に!

…というわけで、ネタバレ大アリな感想書きます!どこから書いたらいいんだろう、というくらいこの映画を観てる間にいろんなことを思いましたが、まず第一に、私が思う良い映画とは観客に伝えたいことやテーマがはっきりしてる、ということ。そういう意味でいうとこの作品はわかりやすくてとても良かったです。ビジュアル的なテーマは一貫して木洩れ日や光と影。

都内にある公衆トイレの掃除人を職業としている主人公の平山は、お昼休憩で立ち寄る神社の木々をいつも見上げては木洩れ日の写真を撮っています(しかもフィルムカメラ!)。同じ場所の木洩れ日でもその日によって少しずつ違うのですね。それはまた近所の住人が掃くほうきの音で目が覚める平山の日常も同じで、判を押したようなルーティンの生活に見えても同じ日はまたとなく、その日々は少しずつ違う。そのコントラストの美しさを味わって生きること以上に幸せなことがあるだろうか?おそらくそういうことを描きたかった作品なんじゃないかなあ〜と。

光と影はまた、物語が進行していくにつれ徐々に見えてくる、平山の人生の物語においても描かれてるように思います。冒頭の方に、年下の同僚に平山さんは謎が多い人だ、というようなことを言わせていますが、それは映画を観てるこちら側としても同じ。どうしてトイレ清掃を仕事として選んだのか、それも自作の掃除用具で隅々まで磨きあげて決して手を抜かないという仕事っぷり。なぜそこまで徹底してやるんだろう?この人はどういう人生を送ってきた人なんだろう?

そんな観客はやがて平山の過去やひそかな楽しみなどを少しずつ知っていき、トイレの清掃人を仕方なくやっているわけでなく、その仕事を自ら選び取り、独りの生活を心から楽しんでいるんだな、と知っていくことになります。突如現れた平山の姪っ子のニコ(この名前もやはり音楽関連ぽい)との会話から、彼女は平山の姉か妹かの娘だとわかるわけですが、彼女は初めての家出をし、おじである平山を頼ってきたのでした。平山はニコを見てすぐに姪だと気付かないくらいにずっと会っていないけど、ニコは家出をするならおじさんの家と決めていたくらいに平山を慕っています。

謎は多いけれどそれなりに人望もあるし、人柄が良いらしいことは平山がよく通っているお店の人たちの平山への対応でもわかります。さらに家出した娘を迎えに来た平山の妹が運転手付きの車で現れたことから、平山はもともとイイとこのボンボンでおそらく父の跡をついで次期社長になるはずだったんじゃなかろうか?などと推測出来ます(ここはあくまでも映画を観ただけの私の想像です)。しかしそれはうまくいかなかった模様。父親と相当な確執があるらしいしそれが原因なのかな…だから一人でこういう生活をしているんだな、ということもわかってくるのです。

運転手付きの車に乗れるくらいの立ち位置と言えば世間一般における成功者であり光輝いてるように見えるけれど、平山にとってそんな光はどうでも良かったのでしょう。世間一般的に見たときに光の側にいるニコの母親が平山がトイレ清掃員の仕事をしていることを心良く思っていないのは、清掃の仕事が影の仕事だからだと思っているのに他ならなく、でも平山は自分自身の仕事に誇りも持っているだろうし、変わりゆく日々のコントラストを愛でて暮らせる毎日は光そのものなんだろうと思います。

平山が姪っ子に向かって言うセリフに、人はみな同じ世界に生きているようでいて、自分と妹(姪っ子の母)とは違う世界を生きてるんだよ、というような言葉がありましたが(うろ覚えなのでちょっと違うかも)、まさにそうだなあと思います。人があまり気に留めないようなものに気付き、美しさを見いだすことの出来る平山の生き方は多数の人から見れば変わり者だと思います。ただ、平山は薄情な人間ではないと思われ、本当は妹のことも気にかけているのだと思います。住む世界が合わないために家族と離れて暮らすしかない、という現実はなんとも切なく寂しいなあと思いました。

そんな平山は今どきスマホを持たず、音楽はカセットで聴き、家にはテレビもなく、古本屋で買う文庫本が寝る時のお供で、前述したようにカメラはフィルムカメラ、お風呂は銭湯の一番風呂へ通う平山は何十年か前で時が止まったかのような暮らしぶり。目覚まし時計もありません(私は絶対起きれない(笑)。いつも行く飲み屋には野球中継が流れてたり、銭湯では相撲中継が映し出されたりと、これまたとっても昭和!中年以降の人にはとても懐かしい感じがするかもしれません。

今の映画はだいたい若い子向けに作られてるものが多いけど、この映画は特におじさん向けでもあり、けど若い子が観てもいろいろ思うところや新鮮な発見があるだろうと思います。さらに映画ではおじさん冥利につきるアレコレもあって、たとえば同僚の若い彼女(未満)を成り行きで自分の車に乗せることになってしまうけど、平山の持ってるカセットを聴いてこの曲が好き、と言われたり(これって嬉しいよね!)、あげくにはそのうら若き女の子から頬にキスされちゃうのです!平山、これは嬉しくない訳がない(笑)

さらに行きつけの小料理屋のめちゃくちゃ歌がうまい美人の女将(なんと石川さゆりさん!)からは他の常連に差をつけてもらえるくらいの特別扱い。自分もこういうお店を見つけたい…!と全国のおじさまたちはきっと思ったに違いない(笑)しかし5年その小料理屋に通ってて男の影が無かったと思われるのに、突如現れたハンサムな謎の男(あえて古い言葉を使う(笑)と抱き合う女将を見てしまった平山のショックたるや想像に難くない…。今までずっとやめてたと思われるタバコをコンビニで買って吸ってしまうところからもそれは伝わってくるのでした。

そのハンサムな彼は現在進行形の女将の恋人でなく、実は余命わずかな彼女の元夫。彼はお店から走り去った平山をどうやって見つけだしたのかわからないけど、川のそばでハイボールを飲みながらタバコを吸う平山を見つけ出し、自分の身の上話を打ち明けます。そしてこの先彼女を頼みます、と平山に託すのです。平山はどんな思いだっただろう?平山は「そんなんじゃないんで」と2回返していたけれど。今後の2人はどうなっていくのか…そんなところに含みを持たせつつそれでも日々は続いていく。平山の笑ってるような泣いているような複雑な表情を映し出しつつ、ゆっくりと映画は終わるのでした…

とまあそんな風にお話も良かったですが、都内の公衆トイレがいろんなデザインのがあって面白かったです。あえて絵になるようなトイレを選んだんだと思うけど、あの鍵を締めると透明な建物が不透明に変わるトイレは一時期話題になってたから知ってました。いつか入ってみたい!(笑)あとは平山の家の外から見えるスカイツリーや首都高の景色がザ・下町の東京、という感じで良かったな。首都高はほぼ通ったことがないのでその辺の景色も私には新鮮でした。

あと、平山の通う古本屋さん。古本屋の店主は平山が何か選んで買うと、それに対する講釈をひとこと言ってくるんだけど、それがあるあるな感じで面白かったです。私も中古レコード屋さんで何か買うと、店主がこのミュージシャンはこうでね、ああでね…と情報を教えてくれるんですよね。また、毎日立ち寄る飲み屋さんに今日もお疲れ!と声をかけてもらいつつも、うるさい詮索はされない程よい距離感の人間関係もいいなあ〜と。

そして、そう!音楽。平山が車の中で聴くカセットの曲がそのままBGMとして使われたりしていますが、やはり平山の好みだけあって昔の曲ばかり。公式じゃないかもですが誰かが作ってくれた劇中のプレイリストはこちら。

「(Sittin' On)the Dock of the Bay」「House Of The Rising Sun」「Perfect Days」あたりは聴いたことありました。そんな私が劇中歌で一番驚いたのは「Feeling Good」。マイケル・ブーブレが歌ってたこの曲がカバー曲だったと知らなかった!!いや、確かにマイケル・ブーブレはスタンダードを歌う人ではあるけど…!しかも歌ってるの男の人と思ったら女の人じゃん!ひえー!びっくりした!!

と、いうことで…映像良し、お話良し、音楽良し、俳優良しのとっても良い映画でした!私はあんまり脚本のこととかよくわからないんだけど(映画は好きだけどあまりそういうのを気にして観たことがないのです)、セリフにも余計なものがなく、シンプルで最小限な感じ。それもすごく良かったなあ。ルーティンをこなす時の平山の動きと同じで無駄がないというか。しかし、海外の手が入らないとこういういい映画が日本では作れない感じなのがなんとももどかしいですが…。

そしてエンドクレジット後に"木洩れ日"という言葉と意味が紹介されてましたが、確かに美しい言葉ですよね。改めて認識させてくれて、世界に紹介してくれて本当にありがとう、という気持ちになりました。『PERFECT DAYS』もう一度じっくりゆっくり観たいです。

(20240208追記)
平山にとって"変わりゆく日々のコントラストを愛でて暮らせる毎日は光そのもの"なんじゃないかと書いたけど、それはそれとして、光と影のコントラストがあるから写真も面白くなるわけで、光だけじゃ、影だけじゃ、面白くないし美しくない。自分は影でもいい、影にいる人間がいるからこそこの世界は美しくなるんだと思っているのかもしれない。

…などとまだまだいろいろ思ってるんだけど、こんな風に映画を観てから何日経ってもいろんな思考をさせてくれるのは本当にいい映画だと思います。

(20240212さらに追記)
『PERFECT DAYS』2回目観に行ってきました!!最初に書いた感想の内容は微妙に記憶違いなところもあるけど、1回観た自分の備忘録としてそのままにしておきます。ということでさらに追記。

2回目を観てみて、エンドロールに流れるピアノの調律が微妙にハズれてることを思い出しました。音が合ってないのは当然わざとだろうし、それがまた平山の人生みたいで、でもそれは言ってみればこの世を生きている全ての人の人生のようだなあ〜と。

まあつまり、生まれて死ぬまで完璧な人生なんてどこにも見当たらない。そうなりたくてもどこかズレてしまう。それが人の人生じゃないかと…私はそう思うんですよねぇ。監督がどういう考えで音の外れたピアノの音を最後に流したのかはわかりませんが…ということでエンディングも良かったです。最初から最後まで本当に良い作品でした。

この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?