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気になる統計 2020年賃金構造基本統計調査

2021年3月31日に厚生労働省から2020年賃金構造基本統計調査の結果が公表されました。一般労働者の賃金は、男女計307.7 千円、男性338.8 千円、女性251.9 千円で男女間賃金格差(男=100)は74.4 となっています。

前年と比べると男性、女性それぞれの賃金がわずかに上昇しているのに全体の賃金に変化はないようです。若干妙な気がしますが2020年から推計方法が変更されたらしく単純に連続させることはできないようです。男女間格差は前年の74.3から0.1ポイント改善していますが大きな差ではありません。また総務省が実施している労働力調査の結果をみると2019年と2020年の就業者の男女比にほとんど変化がありません。コロナ禍の中で雇用の状況も凍結したような状況になっており賃金もほとんど上がらず、男女間格差もほとんど改善してないようです。

調査結果の概要から男女別年齢階級別の状況を示すグラフを引用します。

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男性には年功型の賃金カーブが強く見られますが女性はそれほど強くありません。これについては一般的に我が国においては女性は結婚や出産を契機に一度退職して子育てが落ち着いてから復職するパターンが多くみられるため典型的な男性正社員のように順調に年功で賃金が上がり続ける人が少ないことが指摘されているところです。

数値を表にまとめたものも掲載されているので引用します。

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50~54歳の階層をみると男性も女性も対前年で多少増えているのに平均値が低下しているのが分かります。こうした現象は女性の就業者数が増えている場合に起こります。男女それぞれの数値が上がっても低い方の人数が増えていると個別には賃金が下がっていなくても平均値が下がるのです。この1年では就業者は増えていないのですがコロナ以前のアベノミクス下では女性と高齢者の就業が増えていたことが知られています。特に女性に関しては一度退職していた中年層の就業率が上昇していたようです。

他方男性30~34歳階層の賃金が減っており、これに伴いこの階層の男女平均値も減っています。この階層では実際に賃金が下がっているのではないかと思われます。

次に学歴別の状況をまとめたグラフを引用します。

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学歴が高くなるほど賃金も高くなりますがこれはまあ当然でしょう。年功賃金のカーブはどの学歴でも女性の方が男性より小さくなっていますが学歴が高くなるほど女性においても男性ほどではなくても年功による上昇のカーブが強くなってくることがうかがえます。

最後に産業別の状況をまとめたグラフを引用します。

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年功による賃金上昇が大きいのは男性の金融業、保険業と教育、学習支援業と医療、福祉です。教育、学習支援業は女性においてもかなり年功による上昇があります。医療、福祉で女性の年功カーブが小さいのは看護師の女性比率が高いためではないかと思われます。

これらの業種の就業者数を労働力調査でみてみると年功カーブが大きい金融業、保険業と教育、学習支援業と医療、福祉の就業者数は5年くらいのスパンでみると増えているようですが、年功カーブが比較的小さい製造業や宿泊業、飲食サービス業の就業者は増えていないようです。

産業別の賃金の増減をみると年功カーブが大きい産業では金融業は3.3%、医療、福祉は4.9%と大きく賃金が上がっているのに対し教育、学習支援業がマイナス2.5と大きく低下しています。年功カーブが小さい産業ではやはり宿泊業、飲食サービス業の賃金がマイナス0.7%と下がっています。他に運輸業や卸売業、小売業でマイナス1.1%と下がっています。

全体平均でみると凍り付いたように動かないようにみえる数値は実際は年齢別や産業別のコロナの影響の違いが均された結果であり、細かくみると格差の拡大が進行している可能性もあると思われます。

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