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グラフィック・デザイナー(50代)の苦悩 テーマ#12 黒い要求

みなさん、こんにちは。フリーランス・グラフィックデザイナー(50代)のブブチチと申します。デザインを生業にして30数年。よくもここまでやってこれたなという思いと共に、デザイナー人生においての出来事や学んだ事を振り返りながら自由気ままにつらつらと書き連ねています。お時間ございます時にゆるくご一読いただければとても嬉しく思います。

みなさん、いかがお過ごしですか。ブブチチです。

琵琶湖の渇水が騒がれて久しい昨今、我が家の前に広がる浜辺も、ここ数年来見たことない水の減りようで生態系への影響をとても心配しています。

気のせいか水鳥たちの飛来も例年に比べて少ないような・・・。もうじきコハクチョウがやってくる時期なのですが、果たして大丈夫かなと動物園の飼育係(僕の憧れの職業)のような心配を毎日しています。

さて、余談はこれくらいにして今回のテーマにまいりましょう。今回のテーマは「黒い要求」です。二時間ドラマのサブタイトルに出来そうですね(笑)。

デザイン業界も長い間在籍していると、真っ当なご依頼ばかりではなく、時折「えっ?」というような「黒い要求」をしてこられる方々に出会うことがあります。

ひょっとしたら、今これをお読みくださっているあなたにもこういう事があるかもしれませんぞって、心の準備を促す参考くらいにはなるかもしれませんので、自身の恥を含めてこれまでの経験を少し書き残してみようと思います。

今回もまた、温かいお飲み物など楽しみながら、ゆるりとご一読いただければ幸いです。

黒い要求01ーキックバックを要求する人

本当にありがたいことですが、僕はクライアントや協力会社との人間関係にはとても恵まれている方だと思います。

お付き合いいただいている方々は、みなさん、とても誠実であり聡明であり、年齢関係なく僕もこうありたいと憧れる方々がたくさんいます。

しかし、そんな僕でも時々「誠実ではない人」に出会ってしまうことがあります。

中でも多いのはお金がらみ。キックバックの要求とか・・・。

キックバックとは簡単に言うと、取引先等に渡す謝礼金です。会社対会社の合意のもと行われるキックバックならなんら違法性や問題はありません。

しかしいわずもがな、僕らのような弱者に求められるキックバックとは、担当者個人からの内密な要求がほとんどで、そのお金は会社に戻るわけではなく、ご自分のポケットにしまわれる税金のかからないお金。言ってみれば立派な横領、詐欺、背任罪なわけです。

姑息だなあといつも思うのは、はじめはそんなに大きな額ではないんです。要求される額は。

僕が受けている案件そのものがそこまで大きな額のものではないからかもしれませんが、はじめは目立たないお小遣い程度の額を要求されることが多いです。

恥を承知で正直に打ち明けると、フリーランスになって間もない頃、キックバックの要求に一度だけ応えてしまったことがありました。

要求された額がそこまで大きな額ではなかったことと、当たり前のように仕事がほしい一心で、です。

加えて、それまで「黒い要求」とは無縁のサラリーマンデザイナーだったこともあって、独りになるとこんなことも飲み込みながら生きていかなくちゃいけないんだという誤解もありました。

ただの言い訳ですが、自身の利益を減らしてでも継続できる仕事の関係性がほしかったのです。今思えば本当浅はかですよね。そんなのは関係なんて呼べないのに。

1度目のキックバックに気を良くしたのかどうかは定かではありませんが、まもなくして続けて2度目の仕事の依頼も確かにありました。が、2度目の仕事の依頼時に要求されたキックバックの額は、前回とは比べものにならない額に増えていました。全体の対価から鑑みてもそんな額のキックバックを払っていたら、世の中のどんなバイトよりも時給が低くなるそんな額の要求でした。

はじめはとても人当たりの良い温厚な印象だったその担当者でしたが
「次も必ずブブチチさんに発注しますから、よろしくお願いしますね」
って言われた時のあのニタリ顔を今でも僕は忘れられません。

2回目のキックバックの要求もお仕事の依頼もお断りしました。

当然、仕事の話もその担当者との関係もそこでスパッと終わりです。ああ、そうですかって、こちらの目も見ずに言ったあの時の担当者の表情はまるで爬虫類みたいだったなあ。

そして多分ですが、社内には「あのデザイナーは使えないから」とかなんとか言ってると思うと、ちょっと腹立つなあ(苦笑)。

これをお読みくださっている賢明なみなさんなら、どうされましたか?

彼を通して仕事を請け負う限り僕は搾取され続けます。いつかキックバックの要求がなくなるなんて、間抜けな僕でもさすがにそこまで楽観的には考えられません。

そして今は小さな額だったとしても、一度でも甘い汁の味を覚えた人間の欲は際限ありません。今と同じ要求額が続くとも思えない。(現に2回目の要求は増えてたし!)

何より、もしも、そのことがばれたら処分はその担当者だけではなく、まちがいなく僕にも及びます。要求されて断れなかったといくら言い訳したところでクライアントである会社をだましていたことにはかわりないのですからね。

余談ではありますが、今はもうその会社様とは取引はありません。

「こんな事、要求されたんですぅ!」って告げ口するのも面倒だったし、わずかな金額だったとはいえ一度払ってしまった後ろめたさもあって、さっさと身を引きました。キックバックまで払ってクライアントをひとつ失ったわけですが、続けていればいつか必ずもっと大事に発展していたようにも思います。

あの担当者は今でも爬虫類のような目で誰かにキックバックを要求しているのかな・・・。

黒い要求02-紹介料ってなんだそれ?

世の中にはいかに不労所得を得るかに懸命な人たちがたくさんいるんだなとため息交じりにつくづく思います。これはそんなエピソード。

昔、名刺交換した方から突然連絡がありました。仮にここではその方をZさんにしておきますね。

Zさんは色んな事業を複数やっていて、デザインに関する仕事を発注できる知り合いも多いから今度紹介してあげるよとのことでした。

これほどにありがたいことはありません。クライアントは幾つあっても嬉しいものです。もちろん僕は「ぜひ!」とお願いしました。

しばらくたって、Zさんからとある事業会社に所属する男性を紹介されました。

聞けばこの会社は創業まもなく、会社自体のブランディングを考えていて、それを手伝ってほしいとのご依頼。僕の職の領域です。俄然張り切ります。

ビジョンやミッション、パーパスやスローガンの整備など、やらなければいけない事が目白押しでした。

が、その前に名刺や封筒などオフィスアプリケーションの類いが不備で、まずはそれを優先して早急にデザインしてほしいと依頼を受けました。

ブランドを整備していく順序としては少し違うのですが、目下の応急処置を求められることはそう珍しいケースではなく過去にも経験があります。

そこで仰せの通りに見積もりを提出し、金額的な了承を得てすぐに、名刺や封筒など日常業務で使うであろうツール類のデザインに着手しました。

事は一番はじめのデザイン案を提出したときに起こりました。

数案のデザインを持参し、卓上に広げたときにその担当者は申し訳なさそうに僕にこう言ったのです。

「ブブチチさん、弊社社長の突然の気まぐれでブランディングの件はしばらく保留になってしまいました。本当に申し訳ないです。でも、先日いただいたお見積もりに充当する費用はちゃんとお支払いさせていただきますし、再稼働の折りには必ずブブチチさんにお声がけさせていただきますから今後もどうかよろしくお願いします」

もちろんショックでした。でも、よくあることといえばよくあることです。会社の大小関わらず、突然にプロジェクトが頓挫することって。

あーあーと思いはしましたが、提出した見積もりの額をもらえることは、とても良心的な対応ですので、僕も慌てず騒がず

「それは残念ですが、どうか気になされないでください」

と精一杯の大人な態度でお答えました。

で、件の費用を請求してつつがなく終了・・・・

だったのなら、この案件はなんの問題もなかったのです。最後の最後に、その担当者は僕にサラッとこう言いました。

「お支払いする額のうち○○万円をZさんに紹介料としてお渡しくださいね」って。

????

はじめは何を言われてるのか皆目見当つきませんでした。紹介料って・・・と戸惑う僕に、Zさんと私の方でそういう取り決めになっていましたので、と宣う担当者。

もちろん、僕は初耳です。

その事をお伝えすると
「ああ、そうだったんですか。Zさんは説明していませんでしたか。それは失礼しました。でも当初の取り決めなのでよろしくお願いしますね」との事。

そうか、取り決めなら仕方ないですよね・・・・って飲み込めるかバカ!

僕の中で警報がウォー、ウォーと大きな音で鳴り響きました。
どうやらこれは、もらえる分だけでももらって、さっさと手を引く方がよさそうだと。

聞いてもなかった紹介料分諦めないといけない(紹介料とやらは実に全体の4割くらいも!)のは机をひっくり返したいほどに悔しかったのですが、お支払いいただく額は紹介料を差し引いた額だけで良いので、僕からはそれで請求させてくださいとお願いしたところ「それはできない」の返事。

な・ぜ?

御社から支出する額は同じですよ?と言っても「それはできない」の一点張り。

そこではじめて気がついたのです。この二人、はじめからそのつもりだったんだと。どこかで聞き分けのいいデザイナーを探してきて、適当な仕事で請求させて、紹介料という名目のお金をせしめるつもりだったんだって。

たぶん紹介料として得たお金はこの担当者とZさんとで分けるつもりなのでしょう。

請求するにあたって、デザイン料金と紹介料を分けることを頑なに拒否してきたのは、会社としては紹介料なんていう名目支払いは認められないから。

デザイン料金は一応、成果物として目に見えるものができているので、支払い処理がしやすいのでしょう。

どうりで、完結もしていない仕事に対し満額支払うなんて太っ腹なこと言うはずです。こうなっては、当初の依頼であった会社のブランディングの話が本当だったのかさえ怪しくなります。

熟考の末、僕はすべてを放棄することにしました。

請求は一円たりともしない。なので紹介料とやらももちろんお支払いしない。今日持ってきたデザイン案もすべて引き上げる。もしもブランディングの話が再稼働したら別のデザイナーをお探しくださいと申し加えました。

件の担当者が、そんな事を言わずにどうか請求してくださいと謎の粘りをみせたのは、果たしてお小遣いを取りそびれたくなかったかのか、はたまた僕が会社に対して告げ口すると怯えたのか、今となってはわかりませんが、なんとも後味の悪い体験でした。

もちろん、その会社とはそれっきりです。

黒い要求03-無料奉仕と成果報酬

たぶんこれは多くのデザイナーの方が一度は経験したことがあるんじゃないかなと思います。

無償でのデザインワークの要求。

適当でいいから。簡単なものだから。必ず別の仕事を発注するから。その時にこの分のっけて請求してくれていいから(経験から言うと100%次はない)。エトセトラエトセトラ…。

この場をお借りしてはっきりお伝えしておきますね。

この手の要求は、ある意味お金を要求されるよりたちが悪いと僕は思っています。

僕はプロのデザイナーです。デザインで報酬を得るために学生時代を合わせると実に40年近くの時間を費やし、学び、訓練し、戦い、生きてきました。そのためにお金だってずいぶん自己投資してきました。

何を大げさなと笑う人もいるかもしれませんが、デザインは僕にとって生死を左右するほどに大切な糧です。

それを無料で・・・と要求された時のなんとも切なく悲しい気持ちをどうお伝えすればいいでしょう。

さらには、適当でいいからと要求されて、はいそうですかとレベルの低いデザインを平気で世に送り出せる自分なら、今すぐデザイナーなんて辞めます。

じゃあ、あんた、あれか?魚屋に、魚いっぱいあるんだから、無料でくれよって平気で言えるのか?と叫びたくなります(笑)。

それからもうひとつ。これに似たお話として成果報酬での依頼をしてくる方々の例もお伝えしておかないといけません。

どういう事かと申しますと、僕は広告代理店や制作会社からの依頼で、競合プレゼンのためのプレゼン制作物のお手伝いをすることがよくあります。

誤解を恐れずに言えば、プレゼンのお手伝いは正直、本制作より面倒で割に合わない依頼です。

幾案ものコンセプトやデザイン案を用意しなければいけませんし、その多くはたいてい短時間で、です。

あくまでプレゼンなので、本制作に比べるとクオリティはまだまだ詰め切れていないレベルのものですが、それでもきちんと伝わり感情に作用するレベルまでは仕上げなければいけません。

にも関わらず、採用されるかどうかわからない事に代理店も制作会社もそこまでお金を投資するわけにもいかないので、僕がいただくプレゼン協力費用と言うのは、制作物の量や質に似合わない安価な額を提示されることも珍しくありません。

それでもそのお仕事をお引き受けするのは、競合プレゼンに勝てば当然その仕事は僕にまかせてもらえるという暗黙の約束やその人たちと一緒に仕事がしたいと思う気持ちがあるからです。

だから僕自身も、ともに戦う仲間として多少のリスクを負います。

ところが嘘みたいな話、プレゼン協力費は支払えない。競合に勝てたとしても仕事を発注するかどうかは社内の調整もあるので絶対とは約束はできない。その代わりブブチチの事例のひとつとして使用するのは許可してあげるので成果報酬型でどうかひとつよろしくと理解に苦しむ依頼をしてこられる会社様がいて、なんて言ってあげればいいのだろうと逆にその会社様や担当者の行く末が心配になるくらいです。

自分たちは一切のリスクは負わないし、もしも利益を得れた場合もそれは全部自分たちのものだけど、とにかく手伝ってよって頼んで、喜んで!って応えるデザイナーが何故いると思うのだろう(笑)。

これは僕の勝手な感想でしかありませんが、そういう会社様って、依頼の仕方や言葉遣いは丁寧で、一見とても謙虚に見えるのですが、言葉の端々に「仕事を与えてやってる」というなんとも上からの圧が必ずあります。不思議ですよね。本質は必ず態度や言葉に出るんです。

最後に念のため付け加えておきますと、無料奉仕も成果報酬も、僕自身の意思でやる限りにおいては否定するものでも拒否するものでもありません。

返しきれない恩があったり、いずれ必ず返してくれる信用があったり、何よりその人と一緒に仕事がしたいという時は、僕の意思で無料であろうと成果報酬であろうと喜んで従事します。

でもね、そういう人たちほど「無料でやって」なんて絶対におっしゃられないです(笑)。

今回も最後までお読みくださって本当にありがとうございます。どうかお風邪など召されませぬよう、くれぐれも用心なさってくださいね。

                                 ブブチチ


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