遺書のいらない赤入れのすゝめ~修正の指摘は、最大限注意しよう~1/3

全国のディレクター、プロデューサー、場合によっては社長、そしてデザインや文章のチェックを担当するみなさん!
赤字、入れてますか!

私は入れたり入れられたりしています!

思うところがあって、赤入れ(チェックバックの指摘)について思っていることや、問題なく行うために実践していることをまとめました。これをやり始めてから、うまくいくことが多いな、と感じています。

現在チェック業務を担当している方や、チェック者を統括する方の参考になれば幸いです。現在はチェックを入れられるだけの方も、いずれ部下をもちチェック者になる際のためにチラ見してみてください。
チェックする気はない、永遠に現場で制作だけしつづけたい、という方は、「赤入れあるあるネタ」だと思ってサラっと笑い飛ばしてください。

第3回が本題です。それを見るだけでも大丈夫です。

はじめに

なんじゃこの赤、ブッ転がすぞ!(編集アリ表現)

と、思った経験はないでしょうか。私はたくさんあります。実行していない、またはバレていないので、まだシャバにいます。あるいは、あの赤字を見たら情状酌量で執行猶予が付くので懲役刑や禁固刑にはならないでしょう。

そんな危険な赤字を入れられてきた、または、おそらく入れてしまっていた経験があります。ですが、多くは赤字の入れ方や考え方の基本を知らないから、やってしまうのではないか? と思い立ちました。

クソな赤字は、命を危険にさらします。日常生活では向けられない殺意を抱かれることもしばしばです。

常に遺書を用意して、殺意と隣り合わせの赤入れをしないために、ちょっとだけ、赤字に関する考え方を見てほしいと思います。

基本的に修正指示は、受け手は不快になると認識しておこう

そもそも、他者からの修正指示(赤字)は不快に感じるものです。自分がヨシと思って出したモノに対するダメ! っていう指摘なので。
これはもう、人間の性質的にしょうがないです。そうは見えない、という人がいたら、めっちゃガマンしてるか、聖人かのどちらかです。
それに、修正が入らなきゃそれで終わりなのに、修正が入ったら追加作業が発生します。つまり、少なくとも面倒ではあるのです。

・最初から修正が必要ないような制作指示をしてくれ!
・こっちはいろいろ考えて作ったんだけど、そこまで考えて赤入れたか?
・赤字の通りに直すより、今のママのほうが絶対いい!
・どっちでもいいじゃん! ならママでいいじゃん、めんどくせー!
赤字を受け取った側は、上記のようにいろいろな感情が呼び起こされます。

個人的には「最初から修正が必要ないような制作指示をしてくれ!」という件、これに尽きると思います。修正が必要な制作を誘導してしまった、指示を出した側に非がある可能性があります。そのため(少なくともデザイナーさんやライターさん側から見ると)、赤字の対応は依頼者の能力不足を制作現場が尻ぬぐいしてやっている、という構造に感じられます。
すべてがそうだとは言いませんが、その可能性への自覚はもちましょう。

修正依頼をする側が圧倒的優位な立場であることを知ろう

立場的に、赤字を入れる側は依頼者または依頼者に近いものです。そのため、立場でいうと「赤字を入れる側が上」「赤字を入れられる側が下」という構造は、絶対です。制作側は社員だろうとフリーだろうと、お金をもらって仕事を受けているので、この構造が崩れることはほぼありません。

おそらく、赤字を入れる側からの「OK」がないと納品完了にならない、またはその業務が終了にならない、という関係にあるのではないでしょうか。
つまり赤字が入れば、赤字を入れられた側はなにかしらの対処をしなければならないということです。

この関係性のことは意識しておく必要があります。

「立場が上」であることを「偉さ」と誤解しないようにしよう

「赤字を入れる側が上」「赤字を入れられる側が下」という構造は絶対ですが、それは制作における関係のみです。
いわゆる、「職位が上であることは人間的に偉いことを示すものではない」ということですね。
社長とか部長とかはあくまで立場であって、業務を円滑に行うための役割に過ぎません。平社員と社長を比べて「社長のほうが偉い」というのは、厳密には語弊があります。業務における立場が上である、決定権が大きい、責任が重い、などと言うのが適切でしょう。

赤字を入れる側のほうがクリエイティブに対する決定権が大きいため、立場が上なのです。だからといって、決して作業者より偉いわけでも優れているわけでも、存在として上位なわけでもありません。

初めてチェック者になり赤字を入れる立場になると、この点を誤解し、まるで傍若無人な暴君のように権力を濫用して赤字を入れる人がいます。
「その人の本質を見るには、小さな権力を与えてみるといい」とよく言いますが、それによって本性があぶり出された結果でしょう。

自分の一声で他者が右往左往していると、まるで大きな権力を得たかのような錯覚に陥ります。権力を行使する快感を自覚することや、それを戒めることは難しいものです。ですが、その可能性もあることを知っておくことで、いざその段階になったら自戒できるかもしれません。覚えておくと便利です。

赤字を“入れてやってる”という傲慢は捨てよう

赤字は、結局は制作物を良くするための指摘です。指摘を受け入れてこそプロだろ、とは思います。思いますが、それはそれとして、少なからず受けた側がムッとしちゃうのはしょうがないですよね。
それに、「指摘を受け入れてこそプロ」っていうのは、上の立場にある者が下の立場にある者に対して、威圧的に「なぁッ! 受け入れてこそプロだもんなぁ、そう思うよなぁ! 思うって言え!!」と、押しつけるものではありません。

「指摘を受け入れてこそプロ」というのは、指摘される側が、自分の荒ぶる心を鎮めるためにやむを得ず使う言葉です。赤字を見たら、常に「うるせぇアホが!」と思いますが、「いや、自分の成長のために、制作物のクオリティアップのために、ガマン、ガマン……」と自戒するわけです。それを他者に言われると、すごいムカつきます。

赤字を入れる場合、攻撃的な精神状態になっていることを自覚しよう

赤を入れる場合、「こうじゃねぇーーーんだよなぁーーーー」「ちーーーがーーーうーーー!!!」と思いながら入れるのではないでしょうか。

つまり、赤入れされる側以上に、赤入れする側もすげーーーイラついてムカついていることが多いのです。

赤入れするときは、自分がもっとも攻撃的になっている、という自覚をしましょう。攻撃的な感情をそのままぶつけたら、対立が生まれるのは自明です。
しかも相手は、「指摘されたことでムカついている人」です。相手も攻撃的な気持ちになっています。
攻撃者VS攻撃者。戦いの予感。

だからこそ、赤字の内容には注意を払う必要があります。この件は、後ほど詳しく説明します。

赤字を入れることは手段の一つに過ぎないと知っておこう

初めてチェック者になったときに陥りやすい間違いとして、こちらも挙げられます。
チェック者なんだから、なんでもかんでも指摘しておかなきゃ! と思ってしまうことは、よくあります。つまり、赤字を入れることそのものが目的になってしまった状態ですね。

赤字を入れるのは、あくまで手段です。より良い制作物を作ることが目的です。(ひいては、それによってビジネス上の成果を上げることや目標を達成することが目的です。)

良い制作物を作るためならば、「綿密に準備する」「正しい粒度で意見交換する」「目線合わせのコミュニケーションを強化する」などの、ほかの手段もあります。

赤字はそれらの手段のなかでも最終手段です。不要な赤字を入れないこともチェック者の仕事の一つではないでしょうか。
そしてもし、制作初期段階から関わっているなら、赤字を入れなくても済むように制作を進めることのほうが、より比重の大きな仕事となるでしょう。

とはいえ、必要な赤字は必要なだけ入れよう

ここまでは、赤字を入れ過ぎないように、という話をしてきました。それと矛盾するように感じるかもしれませんが、ちゃんと、赤を入れて指摘はしましょう。直すべき箇所は、直すべきだからです。

赤が多くなりすぎて入れるのがめんどくさいとか、赤が増えすぎて赤を入れられる側もかわいそうだな、とか、そういうのは指摘をやめる理由にはなりません。なりませんが、ついやめちゃうものです。

特に、チェックバックにかけられる時間を大幅にオーバーしてしまうような場合は、「時間がないから」という理由で赤入れをやめることもあります。

「締め切りを守るために赤入れを短縮する」なら、制作物に対する姿勢として、個人的にはOKだと思います。チェックにかける時間の見積もりの甘さと、己のチェックバック能力の低さが原因なので、鍛えて出直しましょう。

でも、ちょっと赤が多くなりすぎたな、とか、そういう理由で赤入れをやめるべきじゃないな、とは思います。

あなたが赤字を入れるとき、あなたも赤字を入れられているのだ

赤字の質を見れば、その人の背景が分かります。
赤字はクリエイティブに対する指摘なので、どのような指摘の仕方をするのか、どのような指摘をされて制作スキルを身につけてきたのかが、その人の赤字を見ればハッキリと分かるからです。

ダセぇーー赤字入れるやつは、ダセぇーー制作現場でやってきた、ダセぇーークリエイティブしか作れねぇ、ダセぇーーやつ。
と、いうのが持論です。今までの経験上、だいたい合っていました。
あるいは、制作物を作るスキルはあるけど、人生を渡るためにその身に携えた能力はたったそれだけで、人間性もビジネス性能も極めて低い人であることが多かったです。

制作側は、赤字の質でチェック者を値踏みします。適当に手なりで赤字を入れず、誠意と緊張感をもって赤入れすることをオススメします。

今回はここまで

長くなってしまったので第2回へ続きます。
実は全3回です。そして本題は第3回です。

第2回では、じゃあ、具体的に赤字を入れるときに何をしてるの? ということについてお話します。

それでは、みなさんに良きクリエイターライフがあらんことを。




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