遺書のいらない赤入れのすゝめ~修正の指摘は、最大限注意しよう~2/3

第1回はこちらです。

第1回では、
クソみてぇな赤字は命の危険があるぜ! 注意しような!
というお話しかしていません。

第2回の本ページでは、具体的にうまくいってるな、と感じる赤字の入れ方や考え方について説明していきます。

※実は第3回が本題です。それを見るだけでも大丈夫です。

具体的な進め方

1.制作前/チェック前準備
2.問題個所を発見
3.調査
4.赤字を記入
5.赤字後のコミュニケーション

上記のように進めていきます。そして、それぞれにポイントがあります。

1.制作前/チェック前準備

制作開始前に準備しておくものと、チェック開始前に再度用意するものが、調べてみたら似ていました。

イメージとしては、
・制作のルールや指標となるものを用意し、共有する
・制作開始してもらう
・でき上がったものを、制作のルールや指標をもとにチェックする
という感じです。
この「制作のルールや指標」を用意しましょう。具体的には、以下のものをいつも用意しています。

トンマナ合わせ
全体的なトンマナ(トーン&マナー)の統一は、口頭や文章でコミュニケーションすることが多いと思います。

サンプル文章やサンプル画像、このような雰囲気で、というページのURLなどを共有します。

コンセプトのすりあわせ
コンセプトとは、「その制作物がなんであるか、ひとことで言い表したもの」です。キャッチコピーみたいなものですね。
より詳しくは別の回で解説しています。
要するに、「この制作物って、なんだっけ?」「何のために作ったんだっけ?」「この企画ってなんだっけ?」という疑問にすべて応えられるような認識のすり合わせをしておきましょう、ということですね。

全体的な統一表記の用意
これ主に文章系のチェック必要なものです。制作現場で決められている統一表記がある場合はそれを用いましょう。決められている統一表記がある場合は、制作前の制作者に共有しておくことは絶対に必要です。
ない場合は、汎用的に使える個人的な統一表記を用意して代用しても良いでしょう。

また、個人的な文章表現のチェック表ももっておくと便利です。混同しやすい語を見比べたり、間違いやすい表現をなくすために使います。
・同音異義語(保証/保障/補償の違い、など)
・変換ミスが起こりやすい事例(協力/強力、など)
・正しい意味と一般的に浸透している意味に差があるもの(敷居が高い、斜に構える、など。慣用句に多い)
それらをまとめておくと(そして可能ならば共有しておくと)、チェックの指標になり、自分のなかでも統一した状態でチェックできるので便利です。事前に共有しておいたほうが、より誠実かな、と思います。

後出しで「実はこういう表がありましてね!」と伝えると、制作側としては「先に言ってよ!」となるのは明白ですからね。

カラーイメージ表の用意
これはデザインをチェックする場合、それも厳密にデザインチェックする場合に必要となるでしょう。できれば共有しておくこともオススメです。

色相環、カラーホイール、カラーサークルなどでググってみてください。
グラフィックデザインを行う場合、あるいはチェックする場合、メインカラーとサブカラーと差し色は、これを使って確認すると理解しやすくなります。
例えば「あったかい感じで!」と指示されれば、暖色系の色をメインに、近い色をサブに、補色を差しに、といった選び方をするでしょう。

「あったかい感じ」を、あなたは「ハワイアンな感じで、黄色味が強いオレンジ」だと思って指示したとしましょう。ですがデザイナーさんは「夏っぽい、赤味が強いオレンジ」だと思うかもしれません。
そうなるとメインカラーを変更する赤字を入れるはめになりますが、必然的にサブカラーも差し色も変えなくてはならない、という事態になることが多いのです。

イメージカラー表を共有し、だいたいどの色が自分のイメージに近いか伝えておくことで、「色味全変え」の修正を減らせます。

レギュレーションの用意
こちらも全体の統一表記と同じく、あるならば共有するのは必須です。

媒体の特性上使っていい表現やNGな表現、ロゴがある場合はアキの指定やOKな使い方とNGな使い方などがまとめられています。
ない場合は、統一表記やカラーイメージ表に追記する形で、個人的な"決め"を共有しておきましょう。

基本的には、以下のような内容になりやすいです。
・ネガティブ表現をどこまで許容するかの限度
・商標や他社製品との比較NGの度合い
・景表法や薬機法などの表示に関する法律への対応
特に薬機法は2021年8月に厳しめに改正されているので注意するに越したことはありません。
それほど厳密でない場合は、「この辺に注意してくださいね」と伝えるのみでも良い場合も多いでしょう。

2.問題個所を発見

作業を行う際は、「考えればなんとかなる系の作業」と「手を動かしてやらないとどうしようもない作業」の二つに切り分けることも大事です。

問題個所を発見する作業は、後者です。やらないと終わらないので、やりましょう。

事前準備で用意したトンマナ、コンセプト、統一表記、カラーイメージ表、レギュレーションのとおりになっているか確認していきます。

文章チェックの進め方のコツ
トンマナなどと照らし合わせながら文章を全部読むのは大変です。しかも、それはそれとして文章的にOKか否かもチェックし、問題があるならより良くしなければなりません。文章をチェックする業務が、校正・校閲という一つの職種として独立して認識されるくらいには、専門的な技能が必要です。

ここでは、いつもやっているコツがあるので紹介します。全体のチェックの進め方と説明が前後する箇所もありますが、問題点を把握する時点で知っておいたほうが便利なのでここで示しました。

そのコツとは、以下の手順で問題点の洗い出しと調査、赤入れを行うことです。

【1】全体をざっくり読んで構成を把握
【2】全体をもう一度素読み
【3】素読みしながら引っ掛かったところは目印
【4】あとで目印を振り返って詳細を調査
【5】実際に赤入れ

「【1】ざっくり読み」の段階では、なんとなく気にするのみで、赤字はまだ入れません。構成や全体の話のもって行き方を知っていると、赤字を入れる際の精度を上げることができます。
例えば、「唐突に出てきて分からない言葉」があったとします。それに対して「説明を前段に入れること」「言い換えの提案」「削除」いずれかの赤字を入れることでしょう。
ですが実は、構成的にあとで説明が入っているから、「言い換え」や「削除」は後半に影響を与えるため避けるべきかもしれません。
おそらくより適切なのは、「後半の文章を前に持ってくること」という赤字です。全体を知っておくことで、このように効果的な赤字を入れることができるようになります。

「【2】素読み」の段階で、「【3】引っ掛かるところに目印」を入れます。この目印が赤字の元となります。ここではまだ詳細にチェックしません。頻出する「赤字の元」がある場合は、あとで一気に赤字を入れる際にもう一度全体を読むので、すべてに印をつけなくても大丈夫です。
ここではまだ詳細な調査はしませんが、事実かどうかで後の展開がめっちゃ変わる事柄を見つけたら、早急に調べたほうがいい場合もあります。後半の展開が書き直しですべて変わることもあるので、残りのチェックがムダになるからです。その場合は、ライターさんにすぐさま連絡して対応してもらいましょう。

【4】目印を個別に調査し、必要に応じて【5】赤字入れをしていきます。
調査の結果、一つの明確な指摘点を見つけた時点で、もう一度全体をざっくり「同一の赤がないか」という視点で見て、同一の赤には一気に赤入れします。こうすることで、赤字入れの作業そのものを短縮でき、かつ赤入れ漏れを減らせます。
しかも、【1】でだいたい全体を把握しているので、「同一の赤がないか」を確認するのも容易になっているはずです。

3.調査

問題点を発見した際、統一表記、カラーイメージ表、レギュレーションと突き合わせて、問題がないか確認します。
統一表記とレギュレーションは絶対的な指標ですが、カラーイメージ表は雰囲気なので、上がってきたデザインのほうが当初の想定より良いなら、上がってきたモノを優先してOKにするのもアリです。

また、事実確認や裏どり(いわゆるファクトチェック)、レギュレーションで示すほどではなかったけど違和感がある表現の修正などの「校閲」に属する対応もここで行います。できるなら、明らかに間違っていそうな事実確認は、見つけた段階で行っておきたいです。
この段階で行うファクトチェックは、ちょっと表現を変えればいけるとか、賛否ある、みたいなものを、どの程度の温度感で、どの程度の正確さで表現するか、という程度にしたいです。

1回目のページでは、「不要な赤字を減らすのもチェック者の仕事」というお話をしました。この調査という作業で、「気になったけど調べてみたらOKだったわ」という赤字を潰し、入れるべき赤字のみを残します。

4.赤字を記入/5.赤字後のコミュニケーション

あなたの赤字に遺書が必要になるか否か、ほぼここで決まります。のちほど、遺書がいらない書き方については詳しく解説します。

ですがその前に、一旦、こういう感じで赤字を記入して、赤字後のコミュニケーションを取るとうまく行きやすいかったよ、という経験談を語ります。

意図を聞く機会をもつ
特にデザインの場合で必要になるでしょう。文章やコピーの場合も、あったほうがいいこともあります。

「どっちでもいい、けど、直したほうがいいと思うけどなぁ」系の赤字の場合、最終的に直すか否かの判断で重要になります。制作者側も、意図の説明の機会がないままに意図した箇所に「入れられると思っていた赤字」を入れられたら、説明の機会がほしくなるものです。

チェック者側から、意図を探る機会を設けるのが良いでしょう。ベテランの制作者であれば、「チェック者が引っ掛かりそうな箇所」に関しては、提出時に意図説明と代替案も同時にもらえることもあります。

具体的に指示する
赤字の内容は、具体的であればあるほど良いです。理想は、制作担当者ではない人でも直せるくらいの指示です。

デザイン指示
・移動であればピクセル単位で指示する
・色であればカラーコードで指示する
・オブジェクトであれば、サンプル写真で指示する

「ちょっと右に」とか「黄色で」とか「もっと豪華な物で」とかではなく、「〇ピクセル右に」「このカラーコードで」「添付した時計台のような感じ」といった指示ができるとより良いでしょう。サンプルを渡す場合は、色抽出をしてそのまま使ったりできるような状態でコミュニケーションをとると、修正者もやりやすいです。
(と、偉そうなことを言いましたが、最近の私はそこまで厳密ではなく、だいたいデザイナーさんに任せていることが多いです。)

文章指示
・事実に反する事柄が書いてあった場合は、調査記事のURLを張り付ける
・可能であれば代案を入れる

こちらも、「こんな感じで」ではなく「〇〇を××にサシカエ」というような、明確に何をどうするかの指示を入れます。

文章が長くなっても、代替案を置いておきましょう。複数思いついた場合は、いくつか書いておくことも有用です。

考えてみても代案案が思いつかない場合、そんなものはない場合もあります。代替案がないのであれば、ライターさんに再度考えてもらっても出てこないかもしれないので、まるごと削除するか、またはママで行ったほうが良い場合が多いものです。一応、指摘として赤は入れつつ、ママでもOKである旨も併せて伝えましょう。

あまりにも適当だったなら、調査から再度依頼する
文章でたまにありますが、あまりにも赤字が多い場合、特にファクトチェック関係の赤字が多い場合、差し戻しが必要となります。
この点だけは仕方がないので、差し戻して、再調査と執筆からやり直してもらってください。
調べれば分かる系のミスは、チェック者の問題ではなく制作者の問題なので、責任を取るべきは制作者だからです。こればっかりは、仕方がないと思います。
このようなことが起こらないよう、事前の制作に関する打ち合わせの段階で、事実確認の重要性や記事/ページが求める正確度について共有しておきましょう。

感覚に任せた箇所は受け入れる
デザイナーさんやライターさんの感覚にお任せした箇所なら、基本的に文句は言わないことにしましょう。「ちょーっと思ってたのと違うなぁー」っていうことが、トンマナ合わせ系で多く起こります。
変にこっちが指摘しちゃって修正してもらうと、ギリギリ保ってたっぽいバランスが一気に崩れ、最終的に「……やっぱり最初の案に戻しでお願いします。ごめんなさい。」ってことになりがちです。

それでもなお、お任せした箇所の仕上がりが気に入らない場合、なぜ気に入らないかをなるべく言語化して伝えましょう。

ですが、お任せ箇所への指摘は個人的にはやめたほうが良いと思います。制作者はあなたではないので、あなたとは違ったモノを制作するし、制作できます。あなたではない人が作ったからこそ、あなたでは生み出せなかった価値がある、という場合があるためです。

制作者は自分のコピーではない、と認識する
自分が作ったときと同じ制作物ができるまで、赤字を入れ続けるチェック者がいます。制作経験者で完璧主義者の人に多い傾向があると感じます。
これは、いわゆる「自分のコピー/クローンを作りたい人」であると揶揄されており、どの現場でも一定数存在しています。そういう人はチェック者に向いていないので、直せないなら職を辞しましょう。
前述しましたが、制作者はあなたではないので、あなたと同じモノは作りません。違う人が作るからこそ違った価値観でモノができ上がってくるのです。

「自分がやったほうが早い」は禁句
これも制作経験者がつい口にしてしまうのですが、こう考えると苦しくなるのでやめましょう。
なんのための「制作者」と「チェック者」の分業か分からなくなります。

正確性や言い回しなどに気を使いながらデザインしたり執筆したりするのは、制作者にとって大きな枷になってしまいます。だから、それを一旦「あとでチェック者がチェックするから」という感じで、気をつけるべき事項からちょっとだけ遠くに置くことによって、より自由に、より大胆に制作ができるようになります。

だから、あなたがやったほうが早いのは事実だと思いますが、あなたをチェック者にすることにも一定の価値があるのです。

またこれは特に、制作者を育成する必要がある場合に顕著です。もどかしいかもしれませんが、チェックと育成の両方があなたの任務であると認め、粛々と遂行しましょう。

自分がやるときの3倍の時間までは許容する
これは主に、制作者をチェック者が育成する立場にある場合のことです。

自分でやったほうが早いと思っても、やってはいけません。そして、結果的に自分がやったほうが早かったな、と思うくらいの時間をかけて赤字を入れて指摘(≒指導)しましょう。
場合によっては、今後の指標を与えるために赤字に何パターンか代案を添えるなどして、制作側に選ばせたり、何がダメだったのか、どうすれば良かったのかを考えてもらう機会を設けることも効果的です。

つまり、制作者の育成も目的になっている場合、自分でやる際の何倍もの時間をかけることすらも必要になるのです。赤字一つの代案案に対して、だいたい3パターンくらいあれば、制作者側もいろいろ考えたり、今後の引き出しを増やすための知識にしたりしてくれそうです。
(これはあくまで、一つの赤字に対してです。「この文言、俺だったら1分で書けるけど、代替案を増やすために3分くらい使うかぁー」みたいなことです。制作期間全体と比べて、その3倍の時間をかけてはいけません。納期がオーバーしてしまいます)

赤字で指導できる箇所と、そうでない箇所は切り分ける
もしも同じようなミスを多発させてしまっている制作者であるなら、赤字による指摘ではなく、別の機会を作って指導するようにしましょう。個別の制作能力や解釈の問題ではなく、もっと根本的な「作業環境」や「制作の手法」などに問題がある可能性があるためです。

赤字で指導できるのは、どうすればトンマナやコンセプトの解釈違いを起こさずにすり合わせられるか、などです。誤字脱字が多いとか、コピペを間違いがちとか、そういった初歩的なミスには別の理由があります。制作におけるコンセプトなどの解釈違いと、作業環境や作業の進め方が悪いことは、明確に切り分けて考えると良いでしょう。

そもそも、赤が入りすぎるモノを上げてくる人とは二度と組まない

これは別に、相手がダメとかそういうわけではないです。
チェックバックに時間と労力がかかり過ぎるな、と感じるなら、お互いに目線が合っていない可能性が高いのではないでしょうか。
その理由はおそらく「お互いが、絶望的に目線合わせをしにくい背景をもっている」からです。

私はけっこう、漢字の閉じ開きと単語の使い方、専門用語の使用頻度などに気を使います。でも、何度お伝えしても、上記をぜんっぜん意識的に書いてくれない方がいます。それは、その方がダメというわけではなくて、今まで制作スキルを身につける過程で、まったく異なる背景をもって成長し、完成体になったことが原因です。

例えば私は、「クセを少なくし、読みやすさにこだわる文章」を目指しています(お仕事ではね)。そんな私の文章を、「書き手の個性が感じられる文章こそが最高だ!」と思う人がチェックしたら、メタメタに真っ赤になって帰ってくるでしょう。

基本的には、制作物の目指す方向を確認し、その方向に合わせて制作していくべきです。ですが、その方向性があまりにも合っていなかったら、そもそも、依頼した人物の選定段階でミスっている場合があります。

個性的で独特な表現が得意なライターさんに、作業標準書や機材のマニュアルライティングを依頼してはいけません。
雰囲気感や世界観の醸成が必要なストーリー序文に、機械的な文章が得意なライターさんを用いてはいけません。
あまりにも赤字が多すぎるなら、それに類するようなミスマッチが起こっていることを疑うべきでしょう。

今回はここまで

長くなってしまったので第3回へ続きます。

第3回では、いよいよ本題である「遺書のいらない赤字」についてお話します。

それでは、みなさんに良きクリエイターライフがあらんことを。

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