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変なバイトをするのはやめよう


きっと大学3年の春頃だった。そのころは金の重みを知らなかったので社会不適合者であることを誇らしげに掲げ、バイトもしないで毎日カーテンを開けたり閉めたりしながら生きていた。お高い家賃も毎月のお小遣いも両親が支えてくれていたし、そもそも財布の紐が5重結びしてあるくらいには固い人間なので金は毎日の夕食代とたまにこっそりホモの漫画を買うくらいにしか使っていなかった。

しかし、自分に課せられた日課が歯磨きしかない生活にも限界が来て、なにかをしなければならない!と思い立った。

「バイトをしよう^^」
タウンワークを見る。
「便利屋にしよう^^」


世間知らずムーブ大発揮

わたしの怖いところは、興味を持ったら行動力がぐんぐん湧いてきてしまうところだ。知能はドバトくらいしかないのに。

申し込んだらすぐ連絡が来て、意気揚々と面接に向かった。
今でもよく覚えている。面接場所は新宿西口の喫茶店。応募した会社は『女性メンバー限定の女性によるサービス』が売りの便利屋だったはずなのだが、こんな薄暗いおっさんの巣窟みたいな喫茶店で面接するんだ……やっぱ東京ってちげえや。

相手方は先に到着していて、社会性のない私は「あ……ドモw」みたいな感じで向かいに座る。そこにはきちんとした綺麗目な女性が座っていて(もう顔も覚えていないけど)にこやかに面接という名のお茶をした。
そしてなんか知らんけど合格した私は、晴れて便利屋スタッフに組み込まれた。

こうやって書くと「え、それやばいやつじゃね?風俗じゃね?」と思われるかもしれないが、いたってクリーンなお仕事だった。代わりに料理したり、整理整頓を手伝ったり、エステ等の練習台になったりと、確かに男性の便利屋だったら頼みにくいようなニッチな依頼がそこそことやってくるようだった。

正直当時のわたしに危機意識はなかった。おら東京来だんだがら東京っぺえことするべ!が当時の心情に近い。


そうしてやってきた初めての仕事はゴミ屋敷の清掃だった。人生で初めてゴミ屋敷というものに足を踏み入れた。潔癖性なのに。まさにテレビで見るザ・ゴミ屋敷だった。6畳くらいのアパートに物ってこんなに入るんやと思った。
依頼人は女性で、わたしともう一人のスタッフと3人で片付けを開始した。正直3人でできる量じゃなかった。これをどうやって今日中に片付けるの……?と内心気が気じゃなかった。

先輩スタッフは黙々と、目に入る物すべてを片っ端からゴミ袋に入れていく。
依頼人はというと、我々を見ながらひたすら汗をぬぐっていた。首にかけたヨレヨレのタオルが印象的だった。なんか言ってんなと思ったら、どうやら先輩が捨てていくゴミの説明をしているみたいだった。捨てないでと言いたいのだろうか。しかし先輩の手は止まらない。説明を強める依頼人。先輩の真似をし容赦なくゴミ袋に突っ込むわたし。汗をかきながらモゾモゾしだす依頼人。埋まっていくゴミ袋。
ふと気づけば、依頼人が私のすぐ横に立っていた。構える私に、依頼人が一枚の写真を見せてきて、言った。


「あの、ダイヤモンドユカイって知ってる?」



「若い子は知らないかな。わたしダイヤモンドユカイが大好きなの」
……へ、へえ〜〜〜〜^^;;

2時間くらい経っただろうか。わたしが恐る恐る水場を片付けようとすると、「そこはやらなくていいよ」と先輩。
え?と思ったが、どうやら時間制で、全部片付けなくてもいいらしい。
なんだあ〜先に教えてくださいよ〜見なくてもいいもの見ちゃったじゃないですかあ〜

成果は正直、来た時とあまり変わらない、微妙に床見えるかな程度だったが、依頼人は満足げだった。
帰り際、先輩が厳しめに後は自分で片付けるように!みたいなことを言っていた。そういう感じなんだ〜ってなった。


こうして私の便利屋初仕事は無事に終わった。
達成感もなく、疲労というより身体中埃だらけでかゆい気がする。
得た物は封筒に入れられたペラっとした賃金と、よくわからない有名人にもそれなりに熱狂的なファンがいて、熱狂的なファンというものの実態はああであるという無駄知識だった。

私は……私は何を……何をしているのだろう……と思わなくもなかったが、東京っぽいことしてる♪♪と自分を肯定できるバカなので問題なかった。

この後も珍奇な仕事を何件かして、やばくね?と思うことがあったので
当時ほのかに好きだった人にネタとして話したら(おもしれー女w的な反応を期待した)

「そういうことしないほうがいいよ」と真顔で言われたので悲しくなってやめた。恋もやめた。


みんなもマジキチムーブを好きな相手に話すのはやめようね。

おわり


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