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君を君を愛してる寒い夜も

『天空のエスカフローネ』は1996年のアニメーションで、私はリアルタイムでは観ておらず、DVDで一気観した層である。


この90年代の色使い。


どうやら、コンセプトとしてロボットアニメに少女漫画要素を取り入れる、という目論見があったようで、今作ではいきなりJKがファンタジー異世界に飛ばされる。
異世界転生ではなく、異世界転移であり、『十二国記』のようなものである。

転生というと、私には『火の鳥 鳳凰編』における茜丸を思い出すが、茜丸は何度も何度も転生を繰り返す未来を火の鳥に告げられるが、然し、人間には二度と転生出来ないのだという。
まぁ、そんなものである。何の徳も積まない人間が王族やチートに生まれ変わることなど、言語道断であり、実際には魂すら消滅するのが関の山である。

さて、『天空のエスカフローネ』は主人公である神崎ひとみがファンタージェン、じゃなかった、異世界ガイアに転移して、そこで冒険を繰り広げていくうち、その世界での人型戦闘機械を操る王子バァンとなんかドキドキするような付かず離れずを繰り返して……というような内容であり、それ以上のものはない。
無論、恋敵も登場し、バァンとの仲は縮んだり、縮まなかったりだが、私はこのアニメーションを興味深く観た。

このアニメーションにおいて、高山みなみさん演じるディランドゥなる敵が登場するが、このギャランドゥ、いやディランドゥは高山みなみさんの演技ボルテージが最高潮に達しており、とにかくこのキャラだけを観ているのが楽しい。常に淵状態のヒソカであり、『仮面ライダーブラックサン』におけるルー大柴なみの怪演である。出自もとんでもなく、私が生涯追い求めているテーマ、両性具有の一つの形であり、不憫で可愛い変態である。そして殺戮者であり、高山みなみさんって本当にすごいなぁ、と思うことしきりである。

さて、この作品はJKであるひとみが、DT(童貞)であるバァンと出会い冒険をするガール・ミーツ・ボーイであるが、二人はなかなか進展しない。だんだん距離が近づいていくのである。初めから恋愛がスタンピードになるはずもなく、然し、想いというのもの、特に恋愛というものは常にアンストッパブルなのである。
ヤキモキを毎月毎月楽しむのが少女漫画だが、然し、冷静にこのアニメーションを観ていると、こいつらはオープニングで高らかに愛を歌い合っていることに気付く。
まずはオープニングだが、当時16歳のリアルJKだった坂本真綾がヒロインのひとみの声優を務め、そして主題歌を歌っているわけであるが、この主題歌『約束はいらない』は名曲である。



ねぇ、愛したら、誰もがこんな孤独になるの?♪
という歌い出し、そう、人間は愛したら孤独になってしまう生き物であり、1人のほうが孤高であり、意外とタフなのである。愛は全てを脆くさせる。
君を君を愛している寒い夜も♪
なんて、とんでもなく恥ずかしい歌詞であるが、美しい曲である。恋の戸惑いを感じさせて、よろめいちゃいそうだ。

そしてエンディングの『MYSTIC EYES』であるが、私はこの曲を聞いた時にあまりのダサさに腰を抜かしたものだが、今までに都合1000回は聞いている名曲であり、珍曲である。


私は車で移動するときに、エスカフローネのサウンドトラックを爆音でかけながらハイウェイを疾走するのが習わしの一つになっている者だが、この『MYSTIC EYES』はイントロのたびに、相変わらずだせぇ曲だなぁ、と思いながらも、口ずさんでしまう、そんな曲である。恐らく、私は令和において、この曲を世界で、いや宇宙で一番聴いている者だといっても過言ではない。

この曲は、恋をした男の気持ちを歌っているが、歌詞の中に、
僕だけが瞳の中にCrush♪
という、どういうこと!?と思わず毎回言ってしまう、なんともいいフレーズに溢れており、これは皆、言わずもがな、バァンの気持ちである。

このアニメーションはオープニングではひとみが愛を歌い、エンディングではアンサーソングの如くにバァンが愛を返すのである。

この、あまりにも熱い二人のラブソングの応酬に、もはや本編の物語はどうでもよく、私自身、どんな物語だったかはよく覚えていない。
然し、この思いを歌に託す、というのは重要なことである。歌に、物に、自然に、愛を託す、というのは、日本人の情緒的に重要なことである。

そして何よりも、バァンの童貞性、バァンの中2的恋愛感情の炸裂がエンディングに溢れていて、私はシンパシーを感じずにはいられない。
そうだ、バァン。お前は童貞だ。だけど、童貞だからこそ、臆面もなく、お前の愛するキミだけを世界と天秤にかけることが出来るんだ。それは、童貞が気高き戦士であり、神に近しい存在であり、純潔性を持った存在だからだ。
聖母マリアは童貞様と呼ばれている。童貞を馬鹿にするやつは、バァンくらいにキラキラした、鬱屈した、そして爆ぜるような思いをもう一度思い出すんだ。

まぁ、そんなアニメーションではないのだが、このアニメはなかなかに音楽が最高であり、それは間違いないので、是非未見の方は観ていただきたい。
何よりも、キャラクターデザインは結城信輝である。あの、ボーイミーツガールファンタジー、『クロノクロス』の結城信輝である。

それだけで、もう元が取れた感じだよね~。

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