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善も悪もあることを心得よ 5時間超『キングダム/エクソダス』の感想

『キングダム』を観てきた。

と、言ってもヤンジャンで大人気の中華統一漫画の実写化ではない、ラース・フォン・トリアー監督の新作『キングダム/エクソダス(脱出)』である。

これは映画、というよりも、ドラマである。
以下、ネタバレも交えて書く。

1990年代に制作された同監督の『キングダム』シリーズの20数年ぶりの完結編であり、5話分を一気見するというヘビーな企画である。
上映時間はトータルで319分。5時間超えである。
なので、17時からスタートして終わったのが22時45分(途中インターバル10分あり)くらいなのだが、とにかく感想は「な、なげぇよ……。」である。

実は私は元の『キングダム』は鑑賞しておらず、まぁ、DVDは絶版、配信などもないために、特別上映でしか観ることが不可能であり、そんな暇は到底ないため、最新作は映画館で、ということで鑑賞したわけである。
なので、本来は10時間分の話が前にあるわけだが、まぁ、今作だけでも話は大抵わかるようになっている(気がする)。

怖いポスターだ。だが、エクソダスは全然怖くない。

ドラマであるので、毎回毎回、冒頭にイントロダクションが入るので、それがなんとも言えず、然し最後の方は癖になっていく。
そして、予告は怖い感じだが、基本的にはブラックコメディである。

物語はキングダム(王国)と呼ばれる巨大病院が舞台で、そこは元々沼地であり、布の漂白職人たちが働いていたのだが、病院ができることで立ち退き、そのせいで水は冷たくなり、地下深くに眠る死者の王国を呼び覚まし、崩壊の時が近づいてくる……。それを今作は夢遊病者である主人公のカレンがなんか現実か妄想かよくわからん淡いを言ったり来たりしながら真相に辿り着こうとする話、であり、同時にトリアーの祖国デンマークという国にあるキングダムの職員と、キングダムにやって来たスウェーデン人医師のヘフナーとの衝突が並行して書かれており、最終的にはサタニストとの最終決戦がスタートするという、とんでもない闇鍋ドラマ映画であり、正直、『君たちはどう生きるか』が懇切丁寧に思えるほどに難解、というよりも、なんで!?という展開が多く、非常に鑑賞にパワーを必要とする作品であった。

今作は非常に撮影が美しく、ちょうど、90年代に制作された前作ドラマの時代にはデビッド・リンチの『ツイン・ピークス』があって、その匂いが感じられる。『ツイン・ピークス』も数年前に20年ぶりくらいの復活があり、話題になっていたが、なんというか、90年代ドラマの香りが堪らなくいいのである。
同時代くらいに、ゲームでは『パラサイト・イヴ』とかあったが、なんか、今作はクリスマスの季節のため、オレンジ色などのカラーコーディネートが非常に似ていて、その辺りも好きである。
特に、エンドクレジットは毎回赤いビロードのカーテンの横にリースに立てかけられた4本の蝋燭、それが1話毎に灯っていくのだが、その舞台袖から靴だけ顔を出したトリアーの語りのシーンが抜群にお洒落で、美術的には今年観た映画の中では間違いなく№1である。
そして、それもまたオチに繋がるのだが、今作は完全に◯◯◯◯◯が◯◯勝利する話であり、えー!しかもあんた◯◯◯◯じゃん!という完全にサタニスト的にはOK!な映画になっていて、とにかく観客の良識は何の役にも立たないことを証明した、令和の『ローズマリーの赤ちゃん』であり、監督の出自や最近自身に起きた問題などを過不足無くぶち込みそれをキリスト教と悪魔というテーマで丁寧に包んで完遂させているところなど、キレキレである。

キレキレであるが、然し、とにかく長く、しょうもないギャグが多いため、少し疲れてしまう。
それと、私としてはもう少し強烈な破壊描写などが観たいのだが、大抵の悪魔との闘いの映画はそういうのが少なめで、私もキリスト教圏の人間ではないからわからないのだが、やはり、信心を犯されることこそが彼らには一番の恐怖なのであろうか。

最後に、デンマークのがっかり観光地である『人魚姫の像』が登場する下りは、重要キャラヘフナーと監督自身への痛烈なアンサーになっているだけではなく、監督の『全ては盗まれた』という注釈も効いていて、非常によく出来ていると思う。

そして、なんといってもヘフナー役のミカエル・パーシュブラントさんは最高である。この人が出てくるシーンは全て面白いし、画面に惹きつけられる。めっちゃファンになってしまった。

デンマーク人はクズだ!というヘフナーさん。


スウェーデン人はデンマーク人社会の中で大変な目にあって、反撃の機会を狙っている。

然し、長い。長すぎる。然し、こういう長い映画を映画館で観たのは久々で、『愛のむきだし』の4時間を軽く超えているため、なかなかハードであり、同時に楽しい映画体験だった。

暫定2023年ベスト(映画館で観たものに限る)

測定不能…君たちはどう生きるか(2回鑑賞)

1位:ザ・フラッシュ…96点
2位:ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー.Vol.3…93点
3位:フェイブルマンズ…83点
3位:キングダム/エクソダス(脱出)…83点
5位:カードカウンター…81点
6位:AIR/エア…80点
7位:スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース…78点
8位:クリード/過去の逆襲…75点
9位:アラビアンナイト/三千年の願い…74点
10位:シン・仮面ライダー…62点

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