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菫色 

菫色きんしょくのパトランプが部屋を照らしていた
私のほほも塗れた
楽屋の鏡の前で 
蘭や百合や薔薇に囲まれて御化粧をしていると
自分が男の子なのか女の子なのか隔てがないのが 不思議
そうして 髪を整えて 蝋燭ろうそくの火で煙草をつけると 
静かに鏡の中にいる美少年に ハロー

ホテルのロビーには 
たくさんの紳士連 
御婦人連がいて 
学生服の自分には不釣り合いな場所だったけれど
そこを歩いていると 方方からお声がかかった
香水の匂いと花の匂いが交じって 
酔いそうになる胸を冷まそうと椅子に座ると
紳士たちがこちらを見ていた
婦人たちもこちらを見ていた
自ずから半ズボンから伸びるその御御足を見せつけてやると
みんな驚いたように上気してみせた

匂いから逃げるために化粧室へと逃げ込んで 
その天上がガラス張りなのに驚いた
私を見下ろす女の子がいる
籐椅子に腰掛けると 
また自分自身を見つめていた
夏至の夕暮れがだんだんと空から降りてきていて
ビルが切り絵細工になって 窓枠に嵌っている
ドアが開いて 見目麗しい美少年が入ってきた
片手を上げて会釈した
彼は私の横に傅くと 
くんくんと匂いを嗅いで 
ヘルマフロディトスの匂いだと一言 唇を吸った
乳房を揉まれながら 
果たして 
私の元々は美少女なのか美少年なのか 
そのどちらかわからない
私を抱いているその彼にそうささやくと 
彼は 自分もそう思っていたとささやき返した


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