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おうちの中に、虎が二頭

前衛芸術家の篠原有司男こと、ギューちゃんを題材にした映画である。

正確には、篠原有司男とその妻の篠原乃り子さんの映画である。
ドキュメンタリー映画で、二人の芸術家を描いている。

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今作は2013年に公開された作品で、私はシネ・リーブル梅田で見た。
シネ・リーブル梅田のあるビルでは、毎年ドイツのクリスマスマーケットのイベントをしている。昨年はコロナで開催が難しかったようだ。
私は、クリスマスが大好きである。あんなに素敵なイベント、ないじゃない?

この『キューティー&ボクサー』は篠原有司男という前衛芸術家と、
その彼の弟子だった彼女が妻となり、そして一人の芸術家として彼に相対する話である。

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色彩が美しい。
篠原有司男の芸術表現は、グローブにペンキをつけて壁を殴りまくる、ボクシングペインティングである。カラフルでポップで、惹きつけられる色の花火、或いは血飛沫のようである。

更に、篠原有司男は、ポケモンやワンピースにも興味津々で、作品に取り入れている。彼は若い頃からニューヨークに渡り、単身闘ってきた。

ネオダダイズムを標榜している。ネオダダイズムは、既成の芸術の破壊こそが芸術になる。そして、所謂マルセル・デュシャンのレディメイド(既製品)のような素材を使用したアッサンブラージュ作品などが多く存在している。

篠原有司男の作品は豊かで、かつエネルギーに満ちていて、パンクである。

キューティー&ボクサーのボクサーは篠原有司男であるが、キューティーは乃り子さんである。キューティーとは、彼女の描くキャラクターであり、自身の投影である。彼女は、篠原有司男との生活の中で、そのキャラクターを確立していき、自身の表現に落とし込んだ。

家の中に虎が二頭。これは、車谷長吉の妻である詩人の高橋順子さんが言っていた言葉である。高橋さんが知人に言われた言葉であるが、芸術家とは虎である。小説家と詩人という虎が一緒に暮らす。そこには修羅の刻があるのだろう。篠原有司男と篠原乃り子も同様である。虎が二頭。どちらも愛らしい虎ではあるが。

同業者が配偶者、というのは大変である。何分目が肥えている。一番手厳しい人間が四六時中側にいる。遠慮などしていたら、それは逆に失礼になってしまう。嫉妬もあるだろう。

高橋順子さんの書いた『夫・車谷長吉』は面白いエッセイである。

出会いから死別までが書かれているが、車谷長吉という小説家の凄みがわかるし、晩年の弱った様も書かれている。この本の表紙は、車谷長吉が好きな女性に送った恋文絵と呼ばれるもので、これは何十枚もあって、全集ですべて見ることができる。また、豪華本も発売されているが、これは入手が難しい。他の豪華本限定本は結構容易いのだが……。それだけ魅力的な本、ということだろう。人が手放さない。

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篠原有司男は、アヴァンギャルドな作風が主であるが、このひとの本はなかなかに面白い。人生哲学、芸術哲学がはっきりとしているので、是非読んで頂きたい。

重要なのは、貫徹できるかどうか、ということだと思えてくる。
つまりは、自身の芸術を貫徹する意思、それが持てるかである。
篠原有司男もまた、不遇の時代も長いわけで、けれども、継続は力なりというべきか、どんどん研ぎ澄まされていって、とうの昔に、一つのジャンルにまで到達している。


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