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ドラマ『コタツがない家』最終回/新しい家族の形を示すホームコメディー。

今期いちばん涙したのは日曜劇場『下剋上球児』だが、いちばん楽しみにしていたのは水曜ドラマ『コタツがない家』である。

毎週「カーーン」というゴングが鳴るたびに、「ハイ、きたー」とこちらの胸も高鳴っていた。主演の小池栄子さんをはじめ、吉岡秀隆さんや小林薫さん、北村一輝さんといった、錚々たる顔ぶれで繰り広げられるホームコメディー。加えて息子役の作間龍斗くん、この人本当にアイドルなの?と思うほど、このメンツの中でしっかり息子・順基の役を全う。息ぴったりの会話劇に毎週笑わされ、これがまた週の真ん中なのもよかった。

ウエディングプランナーでやり手の社長・深堀万里江と、売れない漫画家の夫、将来がなかなか見えない息子、熟年離婚の末に転がり込んできた父というダメ男3人の繰り広げる家庭内バトル。笑いあり、涙あり、ホームコメディーの醍醐味を存分に味わえたドラマだった。

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周囲から「よく離婚しないよね」と言われながらも、万里江にその気はない。夫・悠作との離婚問題が勃発した際、ダメ男の存在が「生きるエネルギー」になっているのだと万里江自身が気づくのだが、私はそれを悠作にきちんと説明できる彼女をかわいいと思った。普通、あんな風に言えるだろうか。

仕事もせず、家事もせず、毎日ソファでごろごろゲームばかりしている悠作。女の敵と言われてもおかしくないのに、どこか憎めない。これはなんといっても葛飾柴又ではちょっと頼りない甥っ子、富良野では気弱なのに屁理屈の多い息子を長く演じた吉岡秀隆さんのキャスティングの賜物。順基の運動会エピソードや、万里江の父・達男に「娘と離婚してやってくれないか?」と迫られて真顔になるシーンなど、ちょいちょい悠作の人間性が理解できる回を差し込んでくる脚本にも唸った。

離婚回避に愛猫・チョーさんもひと役買い、なんとか丸く収まった深堀家。そもそも、なぜ「離婚するまでの漫画を描きたいから」という理由ですぐに離婚しようとしたのだろう。だって、離婚しちゃったら漫画も終わっちゃうじゃないの。「離婚するする詐欺」を延々やっておけばいいのでは? という疑問が芽生えたのは私だけだろうか。離婚が、万里江に対する感謝の気持ちだったのだろうか。

9話までですでにタイトルも回収していたし、深堀家にまだやり残したことあったかしらと、最終回の展開を若干不安視していたのだが、その必要はなかった。描かれていたのは、深堀家の年末。万里江が担当したカップルの結婚式と、ダメ男の年末掃除をリンクさせたシーンに爆笑。さらに、あの部屋にサウナをしつらえちゃう達男の悲哀(クマさん愛とも言う)にも笑ってしまった。また順基の“ちゃっかり感”は、どう考えても父親譲り。両親の離婚問題が浮上した際、「同居人って感じ」と悠作のことを表していた順基だが、しっかりその血を受け継いでいるのが余計に可笑しい。でもさりげなく、万里江の欲しいクリスマスプレゼントのことを父親に教えるあたりが、この家で育った彼らしい。高橋惠子さんの冷めたナレーションが、最後のオチにぴったりだったのも笑えた。

傍から見れば、深堀家は普通じゃないかもしれない。いや「普通」って何? 多様性ということばに敏感な昨今、多くのドラマでそうした要素が積極的に取り込まれてきた。このドラマにその意図はなかったかもしれないが、終わってみれば「10の家族があれば10の物語がある」と認識し、「人によって幸せの形は違うもの」と改めて思う自分がいた。他人事だから笑えるのだろうか。それでも家族にはさまざまな形があり、妻、夫の役割や親との関係など、何が正しいかは人によって違う。それを、こんな贅沢なホームコメディーに仕立ててくれた方々に感謝。金子茂樹さんの脚本は自分好みで、子どもの頃によく見たホームドラマを思い出す。家族で笑って視聴できるドラマをまたつくってほしい。今後も期待。もちろん続編希望!


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