軽さと重さのバランスが絶妙なホームドラマ『俺の家の話』

どうしよう。
これが長瀬くん(あえて“くん”づけ)最後のドラマと言われている。視聴を終えると「ああ、おもしろかった!」と思うのに、同時に「あと少しで役者・長瀬智也に会えなくなるのか」という気持ちが押し寄せてくる。

クドカンドラマの中での長瀬くんは、毎回天然というか抜けてるというか、ポンコツだけど真っ直ぐな役柄。それは冠番組などで見る彼自身のパーソナルな部分と重なり、より魅力的に見える。そんな彼も40歳を過ぎ、次のフェーズに入ったのだなあ。うん、フェーズ(劇中、この言葉だけで笑わせてくれるクドカン最高)。

金曜ドラマ『俺の家の話』は、今の長瀬くんにぴったりなドラマに仕上がっていた。

(以下、ドラマの内容を含みます)


能楽一家の長男に生まれた観山寿一(長瀬くん)は、将来を期待されながらも反発心から家出しプロレスの世界へ。42歳、体力気力ともに限界を感じていたころ、人間国宝の父・寿三郎(西田敏行さん)が危篤に陥る。25年ぶりに実家の家族と再会した彼は、自分が観山流宗家を継ぐと決心する。

そんな寿一を取り巻くのは、怪しいラッパーと所帯を持った塾講師の妹(江口のりこさん)、弁護士になり堅実な道を歩む弟(永山絢斗さん)、そして後妻業の疑いありのヘルパー・さくら(戸田恵梨香さん)、さらに寿一と幼少期から切磋琢磨し、現在は寿三郎の芸養子となった寿限無(桐谷健太さん)。登場人物みんな初回からキャラ確立、そして憎めない。

全然関係ないけど、ドラマ開始直前までやっていたシュールな『ぴったんこカンカン』で、桐谷さんから私の好きな緒形拳さんの逸話が出た。こんなところで拳さん話が出て来るとは。桐谷さん、ありがとうございます。シュールな回だったけど見てよかった。


話をドラマに戻そう。

普段から滑舌の悪い長州力さん(本人役)の渾身の台詞に対し、「なに言ってっかわかんねーよ!」とキレたプリティ原(←空気読めない役、よかった!井之脇海くん)。「長州力がマスクした状態なのに、あれだけ台詞が聞こえたら上等だよ!」ってテレビの前で突っ込んだわ。長州さんを理解する人間だけが笑えるシーンだった。

ブリザード寿(寿一のリングネーム)の音楽がユーミンの「BLIZZARD」ってのも笑った。リングの上での雄叫び「お久しブリザーーーード!!!」が、今もグワングワンと蘇ってくる。これしばらく、事あるごとにひょっこり出てくるやつ。


西田敏行さんと長瀬くんは、これまでも親子や師弟関係を演じてきた。今回は介護される親と介護する子の関係。認知症テストで野菜の名前が出て来ず落ち込む父親に、「あんた八百屋じゃねーんだし」とぶっきらぼうながらも寄り添う息子を演じた長瀬くん。その後風呂場でリアルな体を晒す西田さん(あの椅子、わが家にもありました)。信頼関係の賜物のようなシーンだった。そもそも寿一がプロレスラーになったのは、人間国宝の父と唯一会話できたのが一緒にテレビで見るプロレスだったから。ただ父親に褒めてもらいたかった、認めてもらいたかっただけなのだ。


クドカンだから小ネタ満載なんだろうと予想していたし、笑わせながらもちょいちょい世相を取り入れてくるんだろうとも思っていた。だがズンズンきた。介護や遺産・相続問題は、特に40代、50代の人には「まるでわが家の話」。ケアマネの話も、聞き覚えある……。外に出た人間が、突然実家の問題に首を突っ込むなんてある意味デンジャラスな話だけれど(自分もこの点はとても気を遣った思い出あり)、先に述べた通り登場人物に嫌いなキャラがいないからすんなり受け入れられる。そこがクドカンドラマの好きなところ。なんだかんだありながらも皆で囲む食事のシーンがとてもいい。

能楽とプロレスという一見まったく異なる世界で25年生きてきた親子がどのような着地点を見つけるのか、この先もじっくり視聴したい。

今思い返すと、プロレスの事務所や観山流の会、病院のシーンではみんなマスク付けての演技だったけど全然違和感なかった。むしろこっちの方がしっくり。すっかり慣れちゃったなあ。

とにかく、クドカンや長瀬くんらと同じ世代で同じ時代に生きてこられてよかった! 

この記事が参加している募集

スキしてみて

習慣にしていること

記事を読んでくださり、ありがとうございます。世の中のすき間で生きているので、励みになります! サポートは、ドラマ&映画の感想を書くために使わせていただきます。