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この季節に思い出す映画『黄泉がえり』

つい10日ほど前までエアコンを使っていたのに、この一週間でぐんと秋らしさが増してきた。半袖短パンにタオルケットと肌布団で寝たら、さすがに今朝は寒くて目が覚めた。短くとも秋がようやく訪れ、空気も心なしか澄んでいるような気がする。同じ空なのに、秋空はどうして高く感じられるのだろう。こんな日は、ススキがきれいな阿蘇へ出かけたくなる。

一ヵ月ほど前だったか、柴咲コウさんが来年国立公園指定90周年を迎える「阿蘇くじゅう国立公園」を紹介する動画を見た。柴咲さんは環境省の「環境特別広報大使」を務めていて、その一環として国立公園の魅力を発信している。阿蘇を訪れた柴咲さんの姿とともに、美しい草原や文化財、地元の伝統行事などが紹介されている。

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彼女と阿蘇との関わりといえば、思い浮かぶのが映画『黄泉がえり』である。映画の舞台は阿蘇。動画も、主題歌「月のしずく」をバックに製作されている。私はストーリーとリンクしたこの歌が当時からとても好きで、下弦の月を見るたびにRUIが歌う姿を思い出していた。ここ数年は、秋になると夜ひっそりとこの歌を聴く日がある。

物語の原作は熊本出身・在住の作家・横尾真治さんの小説で、こちらの舞台は熊本市内。また草彅剛さんが演じた川田は立ち位置や職業が小説と映画とで異なり、竹内結子さんが演じたヒロインの葵は映画オリジナルのキャラクターだ。映画の方が、恋愛要素とファンタジー性を強く打ち出した作品となっている。個人的には、「興味があるのなら、どちらも」と言いたい。

私が結子ちゃんの名前を知ったのは、和菓子職人として奮闘するヒロインを演じたNHK朝ドラ『あすか』だったと思う。以降もさまざまなドラマに出演しているが、なかでも『ランチの女王』で演じたなつみは印象深く、結子ちゃんに勝手なイメージを持った。そして、このドラマの翌年に公開されたのが映画『黄泉がえり』だった。今思えば、葵の方が彼女自身に近かったのかもしれない。ちなみに、映画には15歳ぐらいの長澤まさみちゃんも出演している。『コンフィデンスマンJP』のダー子とスタアが活躍するのを、もう一度観たかったな。

映画『黄泉がえり』の公開から長い年月を経て、「月のしずく」の歌詞がこんなに響く日が来ようとは思いもよらぬことだった。今の私には、永遠の願いのような、鎮魂歌のような位置づけになっている。

秋の夕刻、阿蘇の草原や山並みを望みながら車を走らせると、この映画のことを思い出す。ロケ地のひとつ、内牧温泉街を流れる黒川の近くを通ると、ショートボブぐらいのちょっとふっくらした当時の結子ちゃんの映像が浮かぶ。そういえば、長くサントリーのCMに出演していた影響か、雑誌の特集で彼女の熊本旅が組まれていることもあった(熊本にはサントリーの工場があります)。熊本地震後に被災地支援のため毎月寄付をしていたことを知ったのは、亡くなってから。全然知らなかった。映画ロケで訪れた地を、ずっと気にかけてくれていたのだ。

会いたい人がよみがえったら、どんなにうれしいだろうか。阿蘇の大自然を目の前にすると、この地には不思議な力が宿っているように感じられ、あり得なくもないと思えてくる。あの物語のように。好きな人たちが突然いなくなって後悔をいっぱいしたから、もしまた会えたら、伝えられなかったことをちゃんと伝えよう。製作の意図とは違うけれど、動画を見ながら、そんなことを考える秋。

数年前の夏に撮った草千里。


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