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ドラマ『僕の手を売ります』/巻き込まれ体質の主人公を演じる困り顔のオダギリジョー

「全国を渡り歩く、巻き込まれ体質のプロアルバイターの話」と聞いたときには、荒涼とした風景と孤独をまとう背中を思い浮かべていたのだが、まったく違う話だった。

(以下、一部ドラマの内容を含みます)

オダジョーが演じるのは、主人公の大桑北郎。大桑には多額の借金があり、債権者の竹光幸枝(松田美由紀さん)に毎月少しずつ返済中だ。大桑は、全国津々浦々を駆け巡り、仕事を見つけては働くプロのアルバイター。何でも屋、便利屋のようなものだが、もともとの器用さと長年そうした暮らしをしてきたせいか、どこへ行っても何をやらせても、そこらへんの社員より仕事ができる。自称・最強のアマチュア職人(公式サイトより)である。

これだけ聞くと、借金を抱えて八方塞がり、孤独な暮らしだと思うけどそうではなかった。

私は、真っ先に映画『ノマドランド』が浮かんだ。企業の破たんと共に住み慣れた家を失くした主人公が、亡き夫との思い出の品を積んだキャンピングカーで暮らし、行く先々で職を探して生きていく物語。映画の主人公には「誇りある孤独」が付いてくる。さて、このドラマの主人公はどうなのか。

大きな借金を抱えている大桑には妻と子どもがおり、東京の町田に住んでいる。妻の雅美を演じるのは尾野真千子さん、高校受験を控えた娘の丸子を演じるのは當真あみさん。大桑には、ちゃんと帰る場所があるのだ。彼はお人よしな性格から面倒なできごとに巻き込まれて右往左往するのだが、最終的にいつも町田のわが家へ帰っていく。

どんな仕事もやれるのは、借金返済と「家族との暮らしを維持するため」という目的があるから。大桑は孤独でもなんでもない。むしろ、家族や仕事仲間には恵まれている。雅美は肝が据わっているし、丸子は自分の父親が不審者に思われようが気にしていない。どんな仕事も器用にこなし、借金を地道に返しながら家族との暮らしも大事にしている大桑を、どちらかといえば尊敬しているのではないだろうか。2人とも自分の意思で彼と暮らしているのが伝わってくる。本当に家庭円満である。ただ生き方が不器用なため、すぐにトラブルに巻き込まれるというだけ。借金を負ったのも、自分ではなく同級生が原因だ。それでも逃げずに借金を返し続ける。

物語は半分ロードムービーになっていて、ふわふわと漂い続けるような空気が流れる。そこへ、貧乏くじを引くことがすでに生きざまになっている大桑の右往左往ぶり。作業着姿で困り顔の、オダギリジョーを想像してみてほしい。

生きることの可笑しみを感じながら観ていたけれど、「大桑には“帰る場所”がある。だから悲壮感がないし、私は笑っていられるのかもしれない」と思いなおした。どこにも属さず、夢があるわけでもない。現代社会の中で漂っているように見える大桑が、案外‘’最強‘’ってことだろう。

それにしても……。雑然としたバンの中で調理した汁物をすすっても、どこかの蛇口で顔を洗っても、よれよれの作業着を着ていても、とにかくオダギリジョーはオダギリジョーなのでかっこいい。困り顔なのにかっこいい。



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