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現実を悲観的に描くのではなく、未来への希望を見せたかったのか。『ベイビー・ブローカー』【映画レビュー】

★★★☆☆ 
鑑賞日:7月2日
劇場: TOHOシネマズ赤池
 
監督:是枝裕和
主演:ソン・ガンホ
   カン・ドンウォン
   ぺ・ドゥナ
   イ・ジウン


視点を何処において観るかで、賛否の分かれる作品だろう。 
“赤ちゃん”に対する考え方は人それぞれだ。正解がないテーマともいえる。故に多くを語らず観た側に判断させているところが多いように感じた。是枝監督らしいともいえるか。

望むのに持てない者、望まないのに持ってしまった者、
産む前に殺すか、産んでから捨てるか 罪の重さはどちらが重い?
2つの殺人事件。守るために他者の命を奪うのは果たして正義か。 
ひとは赤ちゃんが出来たから自動的に親になるわけでなく、育てていく過程で徐々に親になっていくのだと思う。それでもなれない人もいる。生みの親と育ての親はどちらが深い?

育児放棄や虐待の暗いニュースが繰り返される昨今。母になることを選ばなかった女性と母になれず赤ちゃんを捨てる女性とそれに関わった人たちの物語。ロードムービーの様相を呈して家族の在り方をも問うていく。忘れてはならないのは、登場人物は犯罪者である。それぞれが問題を抱えており闇が深くなりがちだが、むしろ穏やかに楽し気に話は進む。

是枝監督は、現実を悲観的に描くのではなく未来への希望を見せたかったのか。

悪人が必ずしも罪を犯すわけでなく、心優しい善人も大切な何かを守るために罪を犯すのだ。

色々考えさせられる作品だが、エンタメとして観るには少し物足りなさを感じた。扱いたい問題が多すぎて、しかもそのいずれにも明確な答えは示されない。「そして母になる」物語に絞ったものや、タイトル通り「ベイビー・ブローカー」を深堀りした作品も観てみたくなった。

俳優は皆、素晴らしかった。ソン・ガンホは勿論のこと、ぺ・ドゥナの静かな演技に存在感を感じた。「国民の妹」IUことイ・ジウンは難しい役ながら揺れる心情をうまく演じていた。
しかし誰にも感情移入できなかったのは残念だった。


本作品は、2022年カンヌ国際映画祭にて最優秀男優賞(ソン・ガンホ)、エキュメニカル賞(作品)の二冠に輝いた。是枝監督最新作にして、初の韓国映画。

日本にも「赤ちゃんポスト」はあるが、韓国にも「ベイビー・ボックス」が存在している。利用件数は、韓国の方が日本よりも桁違いに多い。にもかかわらず2012年の法改正で養子縁組がし辛くなった現実があり、そのため仲介人として違法にお金を稼ぐ「ベイビー・ブローカー」が暗躍している。

現実はもっと闇が深いのだろう。

                     (text by 電気羊は夢を見た)



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