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「楽にダイエット」の誘い文句で糖尿病治療薬を安易に処方!?

一部の美容クリニックなどで、本来は糖尿病の患者が使用する薬がダイエット目的で処方されているそうです。食欲を抑える効果があるそうですが、オンライン診療による処方で副作用等が出た場合の対応が不十分なケースもみられ、国民生活センターなどにも相談が寄せられています。


「糖尿病治療薬でダイエット」が横行!?

先日、ニュース番組で取り上げているのを見て気になったので調べてみました。

まずは、東京新聞からの引用です。


「糖尿病治療薬でダイエット」が横行か 品薄で薬が必要な人に届かない…専門家が「罪深い」と語る理由
2023年10月21日 18時00分 東京新聞

糖尿病治療薬をダイエット目的で処方する事例が多発している。全額自己負担の自由診療だけでなく、公的な保険診療での処方が疑われる事例もあることが、健康保険組合連合会(健保連)の調査で判明。「メディカルダイエット」などのインターネット広告の影響で薬は品薄となっており、本来の糖尿病患者に行き渡らない事態が起きている。
(中略)
ネット上では「GLP-1ダイエット」などの広告が目立つ。オンライン診療による自由診療で薬が自宅などに届く手軽さもあり、利用者は多いとみられる。製薬会社は新規患者への処方制限を医療機関に求めるなどしているが、在庫が少ない状態が続いている。レセプト分析のアドバイザーを務めた薬剤師で慶応大薬学部の山浦克典教授は「ダイエット目的の処方は急性膵炎(すいえん)などの危険もある」と警告している。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/285175

糖尿病患者に行き渡らないほど、ダイエット目的で処方されているなんて恐ろしいです。副作用については、TBSのニュース番組で取り上げていました(約5分)。

糖尿病の治療薬「リベルサス」をダイエット目的で処方された、Aさんの事例です。

Aさん 「一週間ちょっとで3キロくらいは減りました」
リベルサスを飲むと、みるみる体重が減った一方で服用直後から体調に異変が…
Aさん 「内服して数十分、1時間たたないぐらいに冷や汗・吐き気・耳鳴り・めまいも起きていた。(飲んでいる間)ずっと体調は悪かった」
リベルサスは、あくまで糖尿病の治療薬でダイエットの薬としては日本では承認されていません。 このため美容クリニックなどは、“自由診療”として薬を処方していますが…
Aさん 「副作用がこんなに強くでるとは思わなかったのでしんどかった。やはり楽して痩せるというのは危険だなと感じたので、薬に頼るのは今後はちょっともういいかな、という感じです」

https://www.youtube.com/watch?v=wWKBvBjsFLE

20代の女性Bさんは、“重篤な副作用”が出たとのこと。

Bさん 「食後にひどい胃の痛みを感じるように。水も飲めず薬を飲むも効果なく吐きすぎで胆汁が出てくる」
リベルサスを服用して1か月後、強い胃の痛みを感じるようになり、嘔吐を繰り返したといいます。ついには…
Bさん 「急性膵炎と診断され、4日間入院、2日間禁食。体調悪いのを高いお金で買った」

https://www.youtube.com/watch?v=wWKBvBjsFLE

動画では、クリニックのオンライン診療がどのように行われているかも取材しています。

事前にクリニックの事務員から「腹痛や吐き気などの副作用が出る場合があるが、2、3週間程度で治まる」といった説明があっただけで、医師の診察は、1分半ほどで終了。医師からは、副作用の説明は一切ないとのこと。こんなに簡単に処方されているなんて、驚きました。

リベルサスの添付文書や審査報告書は下記のページで公開されています。

一般名:セマグルチド(遺伝子組換え)
販売名:リベルサス錠


添付文書 第3版より

劇薬です!

そして審査報告書は、黒塗り祭り!

https://www.pmda.go.jp/drugs/2020/P20200629001/620023000_30200AMX00513_A100_1.pdf
https://www.pmda.go.jp/drugs/2020/P20200629001/620023000_30200AMX00513_A100_1.pdf

申請時点で使用前例のない添加剤が含有されています。

このような処方について、2023年3月2日に日本医師会定例記者会見でも触れられていますが、2020年6月17日の定例記者会見でも指摘されていたとのこと。最近始まったことではなかったのですね。

今村聡副会長は、自由診療としてオンライン診療による「糖尿病治療薬の適応外使用」(「GLP―1ダイエット」と広告・宣伝し、GLP―1受容体作動薬を処方)を実施する医療機関が増加していることを問題視し、厚生労働省に対して適切な対応を改めて求めた。

https://www.med.or.jp/nichiionline/article/010525.html

厚労省は3年もの間、見過ごしてきたということなのでしょうか。

堂々と「GLP-1ダイエット」を勧めるクリニック

Googleで「GLP-1ダイエット」と検索すると、多くのクリニックがヒットします。上位にあったクリニックで処方されているのは、飲み薬ではなく注射タイプでした。堂々と「ダイエット注射」と書いていますし、注射の打ち方を動画で説明しています。

私が見た動画に出てきた注射「Saxenda(サクセンダ)」は、「GLP-1ダイエット」を勧めている多くのクリニックで使われています。PMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)のサイトで「サクセンダ」を検索しても、該当するものはありませんでした。

クリニックによって「サクセンダはFDA(アメリカ食品医薬品局)をはじめ、諸外国で肥満治療薬として承認されています」「サクセンダは日本では糖尿病治療薬として厚生労働省の認可を受けています」「サクセンダは糖尿病治療薬ではなくダイエット薬です」などと書かれていて、よくわかりませんでした。

サクセンダのサイトには、下記のように書かれています。

What is Saxenda®?
Saxenda® (liraglutide) injection 3 mg is an injectable prescription medicine used for adults with excess weight (BMI ≥27) who also have weight-related medical problems or obesity (BMI ≥30), and children aged 12-17 years with a body weight above 132 pounds (60 kg) and obesity to help them lose weight and keep the weight off. Saxenda® should be used with a reduced calorie diet and increased physical activity.

https://www.saxenda.com/

サクセンダ (リラグルチド) 注射剤 3 mg は、医学的な問題がある過剰体重(BMI ≧ 27)の成人、肥満 (BMI ≧ 30) を有する成人、および体重が 132 ポンド (60 kg) を超える 12 ~ 17 歳の小児に使用される注射用処方薬とのこと。これを読む限り、サクセンダは糖尿病の薬ではなく、医学的な介入が必要な過剰体重や肥満に使われる薬ということのようです。

「カロリーを減らした食事」と「身体活動を増やすこと」と併せて使う必要があるとも書かれており、これだけで痩せられるわけではなさそうです。

Saxenda® and Victoza® have the same active ingredient, liraglutide, and should not be used together or with other GLP-1 receptor agonist medicines

https://www.saxenda.com/

また、「サクセンダとビクトーザは同じ有効成分リラグルチドを含んでいる」と書かれています。

ビクトーザ(一般名「リラグルチド」)は、日本では糖尿病治療薬として承認されています。

「ビクトーザとサクセンダはほぼ同じ」と書かれているクリニックもあり、同じであるなら、サクセンダも糖尿病治療薬と考えてもよいように思うのですが、なんだかよくわかりません。結局、サクセンダは国内では未承認で、ビクトーザとは3mgと18mgという、量の違いということなのでしょうか。

ビクトーザ(一般名「リラグルチド」)は添付文書が公開されているので、確認してみました。


添付文書 第2版より

やっぱりこれも劇薬です!

劇薬なのに、初診からオンライン受診で処方しているクリニックもあります。

8.9 本剤の自己注射にあたっては、以下の点に留意すること。
・投与法について十分な教育訓練を実施したのち、患者自ら確実
に投与できることを確認した上で、
医師の管理指導の下で実施
すること。

ビクトーザの添付文書より

オンラインでどこまで訓練や指導ができるのでしょうか。

いくつかのクリニックでは副作用について、治療初期に「便秘、吐き気、胃のむかつき、下痢など」の症状が現れる場合があるが、毎日継続するとだんだんと症状が軽くなり消えていくと書かれていました。

それ以上のことについては、書いてあるクリニックもあれば、書いていないクリニックもありました。

有効成分が同じであるビクトーザの添付文書には、重大な副作用として下記のように書かれています。

ビクトーザの添付文書より

頻度不明ということは、誰に起きるかわかりません。ビクトーザより量が少ないとしても継続して使うものなら、これらについてもリスクとして説明するべきではないでしょうか。

全国の消費生活センター等には、美容医療をオンライン診療で行うクリニックに関する相談が2017年頃から寄せられているそうで、国民生活センターのサイトには、「アドバイザーから自己注射の方法や薬剤の量を指示されるだけで、副作用が出ても医師の対応がない」という相談事例などが紹介されています(相談事例は下のPDFです)。

<概要>

<相談事例の詳細>
自宅で完結?手軽に痩せられる?痩身をうたうオンライン美容医療にご注意!-糖尿病治療薬を痩身目的で消費者に自己注射させるケースがみられます(PDF)

PMDAの医療安全情報にも、下記のように書かれています。

GLP-1 受容体作動薬及びGIP/GLP-1受容体作動薬の 適正使用に関するお知らせ

現時点で日本において下表の《製造販売元及び製品一覧》に記載されているGLP-1 受容体作動薬及びGIP/GLP-1 受容体作動薬については、2 型糖尿病のみを効能・効果として製造販売承認を取得しているものであり、それ以外の目的で使用された場合の安全性及び有効性については確認されておりません。
また、GLP-1 受容体作動薬及びGIP/GLP-1受容体作動薬は、医師により 2 型糖尿病の患者様各々の状態をご確認いただいた上で添付文書に従って適切に処方・使用されることを目的とした医薬品であり、国内
で承認された使用法以外で使用された場合、本来の効果が見込めないだけでなく思わぬ健康被害が発現する可能性も想定されます。

https://www.pmda.go.jp/files/000252781.pdf
https://www.pmda.go.jp/files/000252781.pdf

ダイエット目的でこれらの薬を処方されている人は、ご自身で添付文書を確認したほうがよいと思います。このリストにないサクセンダは国内未承認なので、もし健康被害が起きても医薬品被害救済制度の対象外となるようです。

PMDAのサイトでは、薬の名前を入れれば検索できます。

2023年9月20日に開催された「第13回 医薬品等行政評価・監視委員会」でも、取り上げられました。

資料1-1】糖尿病治療薬等の適用外使用に関連した注意喚起の取組

資料1-2】医薬品医療機器等法に係る医薬品広告の規制と適正使用に関する注意喚起について

https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/001147575.pdf

もし、副作用についてきちんと対応してもらえない場合など、相談窓口も書かれています。

https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/001147575.pdf