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バスと少年とテビチ

何ヶ月か前の話、私は初めての土地にいた。沖縄だ。ついた初日のこと。夕方から私はバスに乗り少し離れた場所に行くことにしていた。
ホテルからgoogleを頼りにバス停へ向かう。大きな通りを渡って、そこにバス停はあった。初めての土地の初めてのバス、本当に着くのか、バス停もあってるかわからないし。バス停のルートの表示板を見ながら何分間か待っていましたよ。

バス停にて

少し経つと中学生か小学生高学年かの集団がバス停に来てバスを待って、スクールバスに乗って行った。たくさんの学生が一つのバスに乗って帰って行った。バスというのは結構な人数が乗れるんだな、そんなことを思っていると、男の子が1人バス停に残っていた。モジモジしている。お手洗いにでも行きたいのだろうか、でも私を見ている。そして、話しかけてきた。私はよく話しかけられる。

「お姉さん、ここに来るバスは〇〇(地名は忘れた)までいく?

「(お姉さん!うれしい!)うー、よくわからないけれどバスのルートを見てみるね、あら、私と同じ次のバスでいいみたいね、一応運転手さんに聞いてみるね」

少年はスクールバスに乗り遅れたらしく、一般のバスで帰るのは初めてのことらしい。

「お金はあるの?なければお姉さん(えへん)払ってあげるよ」

「お金はあるよ」

バスにて。会話は続く

しばし20分くらいのバスの移動。私が先に降りる。親子に見えるだろうか、少年は12歳くらいだろう、しっかりした子だ、賢そうだ、この子の親であっても何ら不思議でない(もし私が子を産めるのであれば)年齢の私と、お互い初めて乗るバスだ。

バスは思いの外早い速度で、都会的な道を北へ向かって走っていく。

少し話をした。少年の両親は中国出身であること、少年は学校の先生か、学者になりたいこと、本が好きなこと。

お姉さん(もっとその代名詞で呼びなさい)は何が好きなのかと聞かれ、その夜に食べようと思っていた豚料理の数々を思い浮かべた。きっとちがう、この子が聞いているのは、今現在私が好きなものではない。

後学のためになるような話をしてあげたかったが、私にそのような能力はないから、たわいもない話をする。少年は話をするのが好きらしく、何かしら会話を続けた。私は話し相手として気に入ってもらえたようだ。好かれることはいいことだ。

バスはどんどん進む、目的地周辺についた。バスを降りる。少年が手を振っている。私も手を振る。
少年は家に帰り、私は豚を食すのだ。

バスを降り、目的のお店へ

鮮やかとは言えないオレンジ色の空だった。まだ夕食には時間が早いので、通りの看板や道を眺めながら歩いた。
楽しい時間、家庭には子供やら夕飯を作る音やらがして、道には帰路につく車がたくさん走っていて。大きなバスは私みたいな人などをたくさん乗せて走っている。

少年はもう家に着いただろうか、だいたい40分くらいかかるみたいだからもうすぐだろう。夕飯は何を食べるのだろうか。鼻息交じりに私は呟く、私は、豚を、食べるぞ。

さてさて、待ちわびた豚の刻、もずくとてびちを頼みます。この後はラフテーにスーチカも食べるつもりであった。なかなかの大食いであると自負する私は興奮気味に前菜がわりにもずくとテビチを頼んだのだ。

英国でいうフィッシュ&チップスみたいなものだろうか、ぽってりと煮込まれた豚には酢の効いたもずくが合う。

お供は泡盛の水割り。きついお酒だ!美味しいけれど相性は良くないタイプ、気をぬくことはできない。酔うわけにはいかない。

Love!沖縄料理!

もずくが最初に来た。なかなかの量だ。東京で頼むもずくの4倍ほどありそうだ。しかし、海藻と酢を愛する私はそれを難なく胃へ流し込み、お代わりをした。もずくの替え玉。おいしい。二杯目も美味である。酢は控えめか。酢というよりも、柑橘類を絞った感じだ。柑橘のアロマと下に少し残るオイリーな余韻が潮の香りをより引き立てる。

そうこうするうちに豚の足、テビチが来た。
大皿にのっている。予想外の迫力、ラフテーまで乗っているじゃないか。店員さんにラフテーも乗っていると伝えたら、いいから食べなさいって言われる。すごい量だ。写真は撮り忘れたが、すごい。ブルンブルンで豚のかほりがする。

豚の脂が口内を撫で回す、暴れ豚のように皮のゼラチンなどが爆ぜる。
よく煮込まれて柔らかだが、意外と顎が疲れる。すごく美味しいお料理だ。噛んで食べるようにできてる。噛むことによっていろんな食感や豚の滋味深さが楽しくなる。
座ってるのになぜか私の足はピンと爪先立ちだ。美味しさに前のめりに向かっていっている。

途中で丼に入ったお味噌汁が来た。またもでてきた。サービスと呼ぶにはいささか多すぎる量。具材豊かなお味噌汁。これがまた美味しい。穏やかなおいしさ。一発でガツンとくるおいしさではない。どんぶり一杯を食べ切るに最適化されたおいしさ。まったく飽きがこない。

もずくを2杯、山盛りの豚料理にどんぶり一杯のお味噌汁を食べきり、息が苦しくなっていた。スーチカは食べれそうもない。多分食べ過ぎで顔色も青くなっていたかもしれない。もう食べれない。

接客係のおばさまがキッチンに伝える
「ねーねー全部食べてくれたよー」
私が完食したことに皆喜んでくれていた。私も嬉しかった。

そして帰路に

ホテルへ帰る途中、胃も落ち着いてきたので、ホテル近くで一杯お酒を飲むことにした。

水で割った泡盛を再度飲んだ美味しいがきついお酒だ、気をつけなければならない。

私の大好きな一杯飲み屋風のお店、近くに座った男性が話しかけてくる。

「おーい、俺のこと覚えてる」
「いえ、会ったことは無いと思います」
「えーさっき横断歩道渡ってバス停に並んでたでしょ。横断歩道ですれ違ったんだよ」

知らんわ

本日も【スナック・クリオネ】にお越しいただいき、ありがとうございます。 席料、乾き物、氷、水道水、全て有料でございます(うふふッ) またのご来店、お待ちしております。